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感情の境界線  作者: めだまやき
序章 蘇る“まえ”と始まる“いま”
3/30

動き始めたコト

帰郷から帰ってきた主人公、八倉志乃。

数日ぶりに開いた携帯には彼を心配する多くのメッセージ通知が入っていた。

その中で二人、山下稔やましたみのると、湯谷政希ゆたにまさきは急遽志乃の家を訪ねることになる…


午後五時。街並みも夕焼けに染まるころ、俺は自宅へとたどり着いた。ただいま、といっても中から返ってくる声はない。ただ一人、いつもの日常へ戻ってきただけだ。そう自分に言い聞かせる。帰郷にもっていっていた荷物を小さな玄関に置くと再び俺の心は虚無に似た感情に襲われる。

 何、泣いてるんだよ。

 大丈夫、いつもの日常が戻ってきただけじゃないか。と、必死に自分に言い聞かせる。それでも俺の頬を流れる涙は止もうとしない。今回の帰郷はいろいろ起こりすぎた。学校も無理言って一日休ませてもらっている。

 明日は、行かないとな……

ただでさえ急だった休業をこれ以上は伸ばせないだろう。そうは分かっていてもこんな状態じゃ、クラスメイト達に平静を装って会える気がしない。

 簡単に荷物の整理を済ませた後、俺はソファに倒れこみ数日ぶりに携帯を開く。そして、とんでもない数の通知の量に驚き、そのメッセージを読む。

「志乃、急にどうしたの?」「なんかあったのか?」「不在着信」など、俺を心配してくれている人たちからのメッセージにまた俺は泣きそうになる。中学ではこんなことはほとんどなかった。孤立していた俺に付き添ってくれたのは智也だけだったからだ。

とりあえず、メッセージを送ってくれた友達にメッセージを返す。

「心配、ありがと。ちょっと実家に急用で来ちゃったから土日で帰ってたんだ」

送ってすぐに既読が付いた人もいたし、つかなかった人もいる。そのまま俺は少しの間その人たちとメッセージを送り合い、実家に帰ってきたさみしさを紛らわせる。

 飯、どうすっかな。

そう考えていた時にちょうどスマホから着信音が響いた。

「今ちょうど帰ってるところなんだけど、お前の家行っていい?」

「あ、うん。大丈夫だよ。」

端的に打った文章からなんとなく、画面の俺は冷たいと感じる。でも、

「よっしゃ。じゃあ、政希まさきと一緒に向かうわ。多分十分くらいで着く」

と乗り気の返事が来る。

「おっけ。なんか食べるもんほしい?」

「あー、じゃあ飯食っていってもいいか?」

「わかった。なんか買っとく」

「サンキュな。金後で払うわ」

「あ、それはいいよ」

「いやいや。それはダメだ。俺の良心が許さねぇ(笑)」

「ハイハイ(笑)」

 こうして自宅に帰ってそうそう俺の家に友達が集まることになった。

 メッセージの相手は山下稔やましたみのる。俺たち西条さいじょう高校一年A組のクラス委員だ。クラス委員といっても仕切るのはいつも女子のほうで稔は男子の意見をうまい具合に女子に伝えている。そのおかげで俺たちのクラスはほとんど男女間での言い争いがない。要は、稔は口がうまい。

 もう一人の政希、こと湯谷政希ゆたにまさきは軽音部のボーカルだ。最初はたかが一年生バンドだと思っていたのだが、政希のバンドはかなりすごいらしい。なんでも政希はボーカルで歌がうまいだけじゃなくドラムもできるらしく、途中でドラムとボーカルが変わる珍しいユニットを結成したそうだ。そのおかげで最近のコンテストで最優秀賞をとったと聞いた。

 さて、今日は何にしようかな。三人集まるし、ボリュームもあったほうがいいだろう。そう考えながら、俺は近くのスーパーへ買い出しに出かける。

近くのスーパーは小さめのものだが、学生である俺にとっての価格はいい。俺は半額のシールの張ってある焼き肉用の豚肉を三パック買い、肉のタレも追加した。この暗い気分を紛らわすなら、いくらか贅沢をしてもいいだろうと思って、少し奮発した。

「そろそろつくぞ」

 買い物をしている途中で稔から連絡が入る。

「今買い物行ってるからゆっくり来て」と伝え、俺は手短に会計を済ませた。


自宅に戻るとほどなくしてチャイムが鳴った。

「はーい」

「お邪魔しまーす。志乃」【三日ぶりだな】

「あはは~遠慮ないな」

玄関を開けると長身で制服のネクタイを緩めた稔と、もう7月にもかかわらず未だ長袖をわざわざまくっている政希が家に入ってきた。

「うーん、うまそうなにおいがする」【たぶん】

「え、いやまだ何の用意もしてないけど?」

「まったく。稔、さっき買い物に行ってきたばっかなのにもう何かできてるなんてありえないでしょ?」【少しは考えなよ】

と、政希はいつも通りクールだ。

「うっ、そ、そうだな」【またやっちまったか】

「アハハ、またぁ? 稔はせっかちだなぁ」

「やべぇ、腹減りまくってるわ。なに買ってきたんだ、志乃?」【もう食べようぜ】

 慌てて稔は話題をそらしたが、そこは突っ込まないでおこう。

「今日は焼き肉にしようと思って。ちょっと帰郷でいろいろあったからさ、今日はいっぱいしゃべろ? 隣に迷惑にならないくらいにさ」

さすがに1LDKの壁の薄いアパートであまりはしゃぐわけにはいかない。けどこの気持ちを紛らわせるために、少しくらいは許してほしい。

「そこの押し入れに鉄板入ってると思うから出しておいてくれない、政希?」

「ああ、わかった」【押し入れはっと】

「おいおい、志乃。そんなに簡単に他人に押し入れなんて見せて平気なのか? 一人暮らしならいくつかやましいものあるんじゃねーの?」【探すか!】

そう言いながら稔は押し入れに近づく。

「やめとけって。また志乃に口で滅多打ちにされるぞ。いくら稔の口がうまくても志乃にはかなわないって」【いじる相手間違えてるぞ】

「おいおい、そんな本気にするなよ。やるわけないだろ?」【ほんとはやろうとしたけど】

「ねぇ、稔。ほんとは本気だったんでしょ?」

 口で滅多打ちにされる、ねぇ。まぁ確かに感情が聞こえる俺に口喧嘩なんて無謀だけど。この二人には智也と同じように俺の能力のことを教えているから、いつもみたいに気を使わないで話すことができる。

「お、おいおい志乃、怒って、ないよな?」【目が怖ぇよ】

「大丈夫。そんなことで起こってたら俺はこの輪の中にいないよ」

「だよなぁ。よかった」【ふぅ、助かった】

「まったく、調子がいい奴だな。あ、鉄板あったぞ」【結構奥にあったな】

「ありがと政希。じゃあそこのテーブルに置いてあっためといて。もう食材も用意できるから。コンセントはそこにあるよ」

「おっけ。にしてもきれいな部屋だよな」【ホントに】

「え、そう?あんまりもの置いてないからね。それに狭いし」

「俺の部屋と比べたらかなりきれいだよ」【マジで】

「じゃあ今度政希の家行ってもいい?」

「いいぞ、片づけたら呼ぶわ。今はひでぇから無理だけど」【人に見せられたもんじゃないわ】

「そんなひどいのかよ。ほい。肉、出し終わった」

「まじかよ、こんなあんのか。」【メッチャうまそう。】

「まだあるからどんどん焼こうぜ。」

野菜には目もくれず、パックのまま出した半額の肉に食いつく稔に笑みがこぼれる。

「まじかよ。いいのか?これ、ただで食って」【なんか、申し訳ない】

「いいんだよ、政希。これ全部半額の奴だから」

「でもなぁ」【それでもかなり量あるな】

「ま、俺は金払うけどな、政希」【俺のポリシーだ】

「おいおい、それなら俺も払うしかねーじゃん」【当然か】

「別にいいのに」

こうして焼き肉パーティーが始まった。と、常人なら考える。

「それで、わざわざうちに来てくれたんだよね、稔。」


そう、これはただの集まりじゃない。高校に入学してもう三か月たった。帰郷前にすでに真柴は動き出していたのだ。真柴のコミュ力も持ってすると、学年の把握は三か月で済むのだろうと俺は中学の経験から踏んでいた。というのも、中学で真柴は、智也からケンカを売られたことを名目にして最初から学年の覇権を狙っていた、と後から智也から聞いた。つまり真柴は、そういった人の上に立つことを善しとしている思想の持ち主らしい。

稔と政希は入学して席が近かったこともあって仲良くなったのだが、この二人は参謀の役にぴったりだった。情報収集能力といい、人当たりといい、参謀にぴったりの特徴だった(と少なくとも俺は感じた)。そんな二人に俺は能力のことを話してみたのだ。もちろん能力を打ち明けるにはそれなりに覚悟が必要だった。だけど、この能力のことを知ってなお友達でいられる人と一緒に居たかった。

そしてありがたいことにこの二人はそんな俺を遠ざけることなく、むしろ受け入れてくれた(もちろん、最初は驚き、疑ったりもしていたが)。そして俺はもう一歩踏み込み、中学での俺の経験と真柴のことを話した。すると次の日には真柴について二人は調べたらしく、その流れで俺たちは真柴の行動を調べ続けている。


「ああ。志乃の休んでたのは2日だけだったけどかなり動きはあったぜ。そのうち一日は今日だけどな」【2日でこんな動くもんなんだな】

「そうなんだよね。昨日、真柴の取り巻きのサトウが昨日生徒会室に行って会長と話してたんだよ。俺と稔でそのあと会長に何を話してたのか聞きに行ったんだ」【サトウもなかなか大胆だよな】

「まぁさすがに教えてくれないよね」

「いや、それが聞き出せたんだよ。稔のおかげで」【あのセリフはすごかった】

そういった政希はなぜか笑っている。

「お、おい政希。何で笑ってるんだよ。」【まさか思い出し笑いじゃないだろうな】

「稔のセリフ? なんて言ったの、稔」

「…」【さすがにもう言いたくねぇ】

「え、なんで黙るの?」

「俺が説明するよ、志乃」【どうせはずかしがるだろうし】

「サトウが生徒会室から出てきた後、俺たちは生徒会室に入った。もちろん俺たちは文化祭の予算関係のことでって名目を作ってね。俺らは文化祭執行役員だからさ。で、予算の質問の最中にさっきのサトウが何を話していたのかを聞いたんだ。うちの会長はそうゆうところ秘密主義だから最初は教えてくれなかったんだけど、稔がサトウが問題を抱えてるなら同じ一年として力になりたいんです、ってすごい形相でさ」【あれは笑った】

「おい、政希、それは言うなよ」【志乃…?】

「いや、うれしいよ。そんなに必死になってくれるなんて。」

「え、へへ。当然だろ?」【よ、よかったぁ】

「それで、サトウは何やってたの?」

「ああ。サトウは真柴の周りでいじめを受けている奴がいるって報告に来てたんだ」【これには驚いたな】

「ちょ、ちょっと待って。サトウって真柴の取り巻きなんだよね。じゃあなんで真柴がハメた可能性のある人の報告なんてしてるんだよ」

「それは俺にもわからない」【ここまでが昨日の動きだな】

「さすがに俺の渾身の縁起でも会長はそこまでしか教えてくれなかった」【悪いな】

「いや、かなり助かるよ。じゃあ、詳しいことは明日から調べる必要がありそうだね」

「だな。おっと、もう肉がない」【早いな】

「まったく、野菜も食べなよ、稔」【お前肉食べ過ぎ】

「あ、はは。持ってくるから待ってて」

「おう、サンキュな志乃」【明日からまた学校で調査するか】

「まったく、人使いが荒いんだから」【自分で動けよ】

一通り昨日の学校での出来事を聞いた後、俺たちはまた焼き肉へと会話を転換する。

 しかし驚いたな。真柴の取り巻きがそんなことをしているなんて。帰郷で真柴がいなかった昨日を狙ったのか? だが、真柴が足元から崩れるのは考えずらい。


どちらにせよ明日、そのいじめを受けている奴について、誰が主導なのかを調べないとな。


事務連絡


更新は毎週土曜日の夜を目安としております


随時加筆、修正を行っておりますのでご了承ください

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