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感情の境界線  作者: めだまやき
序章 蘇る“まえ”と始まる“いま”
2/30

過去の屈辱

不幸にも帰郷中に父親が死亡しどん底に落とされた主人公、八倉志乃。悲しみも収まらないなか、翌日の学校のため自宅へ帰ることとなる。


帰郷についてきた宿敵、真柴薫ましばかおるを前に主人公の壮絶な過去が記憶からよみがえる――――


 感情の境界線②


 電車の窓から見える景色を眺めながら俺は再び故郷へ別れを告げる。智也は今日の朝に顔を合わせていない。俺が起きていた時にはすでに登校していたようだった。母さんは昨日の葬式で親父の死がフラッシュバックしたようだ。朝、実家に帰ったときに母の目に涙の跡があったのを覚えている。智也のほかに地元の人が俺を見送りに来るはずもなく、俺は当然のように一人で故郷を出ることとなった。唯一目の前にいる真柴を除いては。

「どうしたんだい、八倉君?顔色が優れないようだけど」【ボーッとしていたな】

 真柴は俺と対面で座っているが、その高身長から俺を見下すようにして俺に話しかけてきた。真柴は俺を中学の時に孤立させた張本人だが、地元では表面上、町で一番の優等生のため、俺の親父が死んだと聞いて俺の帰郷についてきた。そして、当然のように親父の葬式に参列した。


 まったく、反吐が出る。


 町の人たちも知らないから仕方がないことだが、真柴を歓迎する。そして俺は冷遇される。

「別に。どうもこうもないよ。ただ、景色を眺めてただけ。」

 無意識なのかわざとなのか、自分でもわからずにそっけなく答える。

「なんか冷たいなぁ。あの頃は悪かったけどさ、もうそろそろ清算してくれないか?」【いい加減にさぁ】

 清算だって? 冗談じゃない。そんなことをしたら俺はただでお前に対する切り札を失うことになるんだ。それに俺はお前のせいで故郷で孤立したんだぞ。それをどうしたらそう簡単に清算してくれなんて言い出せるんだよ。

「さすがに無理かな。それ、俺の事情を分かっていってる?」

 できるだけ柔らかく言ったつもりだったが聞こえてくる感情からそれができていなかったことを理解する。

【チッ、八倉のくせに】「まぁそうだよね、うん。ごめん、僕の考えが浅かったよ。」

 真柴は俺の能力を知っているうえで俺に何のためらいも無く感情をぶつけてくる。そして、それを外に出さないところが真柴の厄介なところだ。

 俺は真柴から目をそらし、もう一度窓から見える遠くの暗い雲を見つめた。中学の時、何があったのか。暗い雲を見つめているとそれが降り始めた雨とともに思い出される。



 小学生のころ、俺は何のためらいもなくこの能力を使っていた。ただ、この能力によって出しゃばったりすることはなく、考えていることを言い当てたり、出来心から人を少しからかった程度だが。もちろん純粋が故に多少気味悪がられたりもしたが、それ以上に発展することはなくその場のみで終わった。

 中学に入っても俺は能力の使用に関してあまり制限を敷いていなかったので、使用回数は減らしたものの、それ以外は小学校の時と同様にしていた。変わったことといえば能力を隠そうとしたくらいだ。

 中学は町で一つしかないため、三つの小学校の生徒が合流する形になる。もちろん俺の能力のことはすぐに同級生たちに広がると思っていた。が、俺の所属していたグループのリーダー格であった智也がそれを制止させていたらしい。(これは後から聞いた)

 中学が始まって三か月ほどたったころ、真柴は俺たちに接触してきた。真柴は、サッカー部のイケメンで、しかも実力テストは学年一位のカタログスペックは最強の人物だった。当然、真柴のことは学年中で話題になり、別の中学だった俺たちの耳にも入っていた。そんな真柴が俺に接触してきた。そして俺と話すや否や、俺の能力のことを会話から気付いたようだった。真柴は俺の能力を知ったうえで、あることに協力してほしいと頼んできた。真柴の感情にも俺に対する悪意はたいして感じなかったので、俺は二つ返事でそれを了承した。

 真柴の計画は告白の完全成功だった。俺と同じクラスの女子、内溝うちみぞなぎさに告白するので彼女の気持ちを探り、自分のことを紹介してほしいとのことだった。

 俺は真柴に言われた通り話したことのなかった内溝に話しかけることにした。話してみると内溝はなかなかいい人だった。彼女は自分から話し始めることはほとんどなかったが人の話を聞くのがうまく、心地よく話しをさせてくれる。そのため彼女は自分のことを話すことは少なかった。俺も探りを入れている立場上、あまり突っ込んだ話はできなかったが、長く話しているうちに彼女と俺は親密になった(もちろん友達としてだが)。

 そんな中、真柴は俺に早く自分のことを内溝に紹介するようせかしてきた。


 俺は自分が探りを入れていることを隠しつつ、内溝に真柴のことを話してみた。彼女はその話を聞き、表面上はとても嬉しそうにしていた。が、感情は違ったようだった。真柴に告白されること嫌悪していた。その感情は当時の俺の関わってきた中で最も強く、濃いものだった。とはいえそれについて聞けば俺は能力のことを打ち明けなければならないといけないため、俺は何もできなかった。このあと俺は内溝に紹介したことを真柴に伝えたが、これまでは詳細に伝えていた感情のことは伝えていなかった。伝えるメリットはどちらにもない。そしてこのころから、俺は真柴に対して少しの懸念を抱き始めた。だが、その時の真柴の感情はいつも善人のそれだった。

 思えばここで行動しない自分はバカだったと思う。


 内溝に真柴のことを伝えた翌日のことだった。俺は学校に登校すると、同級生たちの俺へ対する視線が変わっていることに気が付いた。席に着き、後ろの席の智也に何があったのかを聞くととんでもない答えが返ってきた。


 内容は俺が内溝に真柴への告白を強要したという噂が広がっているということだった。


 何かおかしい。そう感じた俺は休み時間に内溝に話を聞きに行った。しかしそれは内溝の友達によって阻まれてしまった。聞くところによると内溝は登校してから表情が凍り付き、「怖い」としか発していなかったらしい。

「なんでだよ。」

 そう感情が渦巻く中、俺は放課後に真柴に会いに行った。真柴の取り巻きは当然のように俺を嫌悪してきたが真柴はそれを制止し、俺を屋上に呼んだ。その時真柴は周囲の人についてこないように伝えた。


「で、どういうことか説明してよ。何でこんなことになってるんだよ?」

「あぁ。もちろん説明してやるよ。」【まぁ、聞いたところでどうにもできないだろうがな】

 屋上の扉の鍵を閉めながら真柴は不適そうな笑みを浮かべながら言った。

「それで、どこから説明してほしい?」【決めさせてやるよ】

 真柴は俺の能力をすでに知っているため口に出せないことを感情として俺にぶつけてきた。

「は?お前が何を考えてるかに言いまってんだろ? さぁ、説明しろよ。最初からなぁ!」

 俺は怒りの感情に身を投じながら真柴の態度から一連の出来事の主犯が真柴だと確信した。

「アハハ! だよなぁ…話してやるよ何もかも。」



 なぜ、あの時初めから真柴を疑わなかったのだろう。あんな有名人が俺に近づいてきた時点で気付くべきだった。ここまで思い出して吐き気がしてきた。そして、目の前にいる真柴に何をされたのか、俺が学校に戻ったら何をすべきなのかを再認識する。



 その時の真柴の口調は終始、興奮していたものだった。

「まぁ結論から言わしてもらうと俺はお前を利用したんだ。」【こんなにうまくいくとはな】

「利用?」

 この時俺は真柴の目的が何なのか全くわからなかった。

「ああ。俺の派閥がこの学年の覇権を手にするためにな。」【美川の派閥には有能なのが多すぎんだよ。】

「おいおい、そんなの…」

「馬鹿げてるってか?でもなぁ困るんだよ。うちの派閥はお宅の美川智也におどされてんだ。お前は知らないと思うけどな。」【出しゃばるな、ってよ】

「え、智也が。うそ、だろ…?」

 いつも一緒にいた智也がそんなことをするとは思えない。俺の精神が足元から崩壊して言った瞬間だった。

「そうなんだよ。うちの奴が美川から俺に伝えるよう言われたって報告にきてな。わざわざ人づてに言うなんて変わっていると思ったんぜ? もちろん報告に来た奴は洗った。」【そこんとこに抜け目はない】

「いや、でも矛盾してるだろ。仮に本当に警告されたとして、なんで学年の覇権をとろうとするんだよ。しかも、俺を、陥れて。」

「は、そんなの決まってんだろ?どっちが上かをはっきりさせるんだよ。」【俺は美川には従わねぇ】

「だから、それが目的なのになんで俺が狙われるんだよ。おかしいだろ?」

「さっき言ったよな。美川の派閥には有能な人が多いんだ。まともに勝負しちゃぁ勝ち目はねぇ。お前はそうだな、そいつらを萎えさせるための見せしめってところか。」【まったく、うまくハマってくれてたなぁ】

「そんなの、そんなの…」

 俺はこの時半ば抜け殻状態だった。

「じゃぁおまけにどうしてお前がハマったのかのからくりも説明してやるよ。」

 もう、やめてくれ。

「俺と内溝は小さい時からの知り合いでな、あいつの弱みはたんまりあるんだ。で、昨日お前が帰った後にあいつを呼び出しお前が俺のスパイだったことをすべて暴露した。あいつはかなり怒ってたな。で、お前を陥れる計画を話したんだ。さすがに怖気づいていたが、弱みのことを話した瞬間俺に従ったんだ。そうして口裏を合わせ、人に今の噂をたれ流せば次の日には広まってるってことよ。」【いい気味だな。】

 俺はここでいくつか違和感を覚えた。でも……

「それと、お前から美川に伝えといてくれ、宣戦布告を」【絶対にだ。】

「……わかった。」

 そう俺は言い残して屋上から去った。



 しかし、智也とそのグループにそんなことを言った人は誰もいなかった。智也は俺からそのことを聞くと、宣戦布告に応じず沈黙を通し、俺を慰めてくれた。

 俺の感じた違和感というのは内溝のことだった。いくら弱み、怒りがあっても彼女はそんな簡単にあんな決断はしないと思ったのだ。一か月程度話していた俺はそう思った。が、それ以降俺は学校で腫物のように扱われたため真相はわからない。

 それからは早かった。智也が宣戦布告に応じなかったのに真柴は多少なり戸惑ったそうだ。が、真柴は勢いに乗り学級委員長になり、生徒会など、学校の主要機関に参加し表立って活動し始めた。もちろん裏でも情報操作などに手を染め、真柴に逆らえるものはいなくなった。



 ――大宮~大宮~、ご乗車…

 どうやら乗り換える駅に着いたようだ。目の前にいる真柴に再び強い嫌悪を抱きつつ俺は三日ぶりの自宅へ帰った。


事務連絡


更新は毎週土曜日の夜を目安としております


随時加筆、修正を行っておりますのでご了承ください

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