第一話 死んだ。そしてゾンビった
あたし、マリー。田舎の村の宿屋の娘。
大好きな彼と、一か月後に結婚式を挙げる予定でした。
なのにこんな深い森の中で死んでます。
馬車で、首都に住む叔父に結婚を伝えに行った帰り道、強盗に遭いました。
金目のものを取るだけの輩ならよかったのですが、普通に殺されました。必死に抵抗した腕を切り飛ばされた後、心臓を一突き。
それから、崖の下に落とすっておまけつき!
全くこの世ってのは最悪だぜ!
ちなみに、何故死んだあたしがこんな風に自分語りを出来ているのかというと。
「ぁああああ、ぅう!」
ゾンビになっちまったからです! 畜生!
原因は何なのか、と聞かれて思い当たることがひとつある。それはこの森が、魔獣がよく出ると言われる、魔力に満ちた森だから。動物の死体が魔力をたっぷり吸うと魔物になるってのはこの世界では常識で、あたしもそんな常識に漏れずにゾンビになってしまったわけです。
あたしは泣いた。
「ぅあああ」
傍からみたら鳴いているのと区別がつかないだろうけど。
あの人と結婚することは、あたしにとって一番の幸せだった。
彼とは生まれた頃からの付き合いで、初恋って奴だった。
彼は体が弱い代わりに、知性、人格、顔、全てに恵まれてこの世に誕生した。故に非常にもてていた。
その中で、彼の優しさが一等好きだった。
あたしはこの恋を叶わないと考えていたが、収穫祭の日に駄目元で告白してみたら恋人になってしまった。
あたしは前世で世界でも救ったのかと思った。
それから、それなりに甘い日々を過ごして、やっと結婚しようってなったのに。
前世で世界でも滅ぼしたのだろうか。
もう二度と、彼に好きだって言えない。
こんな、腕もなくて、そのうち腐っていくような体じゃ抱きしめて貰えない。
何より、人間とゾンビじゃ結婚出来ない。教会が認めない。
そうして、あたしは三日三晩泣いて気づいた。
体に一切変化がないことを。
切り飛ばされた右腕も、胸に開いた穴もそのままだが、その傷口から肉が腐り落ちたりしてない。蠅はたかるが、うじも膿みもない。血も出てない。
あたしは知った。ゾンビとは歩く死体ではなく、生きた死体なのだ。魔力が周り、ちゃんと体を活動させているのだ。
というか昔にみたゾンビが生肉をむさぼってた時点で気づくべきだった。食うってことはちゃんと胃酸が出てるってことなのだから。
なら話は変わってくる。
声が出なくても、左腕は動くのだから文字はかける。あたしのラブレターを読んで、彼は「大事にする」とか言ってたから、それでも十分想いは伝わるだろう。
体の傷なんか義足とかで隠してしまえば別にいい。というか、あたしが食べすぎでちょっぴり太ったときも、彼は「どんな君でも素敵だよ」とか言ってたから、気にしないはずだ。
食卓だって一緒に囲える。人間も肉食うし火ィ通すか通さないかの違いだけだ。というか前めんどくさがって生で肉食ったけど、彼は「ワイルドな君も魅力的だ」とか言ってたから、同じようにほめたたえてくれるだろう。
そんときはお腹は壊したけど、今は壊さないし。
結婚は十分に出来る!
教会が認めない? そんなこと知ったことか!
ゾンビに人間の神様のルールが通用すると思うんじゃねぇ!!!
体中についたコケを落とすと、あたしは走り出した。村の彼の元に帰り、結婚する為に。