第7話 裸の王様は助けたい
間が空いてしまいました。書き溜めしなければ………
幽霊にも、色んな趣味嗜好を持った者がいる。
風呂場を覗いたり、人の食べてる物に唾を入れて興奮したりなど、見えないからなんでもやっていいという奴もたまにいる。
幽霊は悪い奴ばかりではないが、変わった奴もいるということだ。
少し、昔話でもしようか。
俺は小学5年生の頃、初恋の女性がいた。
彼女の名前は宮元今日子さん、俺の6歳年上で、町の人気者だった。彼女は黒髪のロングヘアーをいつもたなびかせ、顔がよく整っており、制服が良く似合う女性だった。
俺は少しでもお近づきになりたくて彼女に話しかけてみた。
「お、俺……御影奏って言います!こんにちは!」
この時の俺はとてもシャイだった。女の子一人に話しかけるだけで顔は赤面し、全身から熱が吹き出るような、そんな少年だった。
「こんにちは奏くん。わたしになにかようかしら?」
そんな俺にも優しく微笑みかけてくれる今日子さんは、俺の人生初めての初恋の人だった。
…だが俺と彼女には、一つの巨大な壁があった。
「おいカナデ!誰と話してんだ?」
クラスメイトの一人が、俺にそう聞いてきた。
「えっ…?」
俺は彼女を見た。
彼女は少しだけ悲哀の表情で微笑みかける。俺は彼女の手を掴もうと右手を伸ばした。だが彼女の手は俺の手と触れることなく、すり抜ける。
彼女は、幽霊だった。
彼女は若くして不治の病で亡くなり、母校にふらふらと寄っては俺達の事を見ているのだと言う。
「幻滅したよね……わたしが幽霊だったなんて」
今日子さんは笑う演技をした。
口元は口角が上がっているが目だけは笑っておらず、悲しみの色を深く、染み込ませていた。それが分からないほど、俺は子供でもなかった。小学生だったがな。
「俺、大丈夫です!今日子さんが幽霊でも……今日子さんのこと……だ、大好きですから!」
俺はそれでも構わないと思った。その時、愛に限界なんて無いし、あっても乗り越えられる……そんな風にさえ思っていた。
俺はそんなクサいセリフを大きな声で言った。今思えば青かった。
「そっか……ありがとうね?」
だけど、今日子さんはそんな俺の言葉を笑わずにちゃんと聞いてくれた。俺の想いが彼女に届いた、最高の日だった。
俺と今日子さんが話をする回数も増えていった。朝昼晩、時間がある時はいつでも話した。好きな食べ物、趣味、映画、本、ありとあらゆる事を語った。
「わたしはね、先生になりたかったんだ」
彼女は子供が好きで、将来は小学校の教師になりたいと言っていた。だから小学校に通って俺達のことを見ていたのだ。俺には夢がなんなのかまだ分かっていなかったから、なんとなくでしか彼女を褒めることができなかった。
「いつか君にも夢が出来るよ。その時は、わたしに聞かせてね?」
と言ってくれた。
俺は今日子さんの雰囲気が好きだった。優しくて、一緒にいて身体の奥から心があったまってくるような、彼女といるとそんなロマンス的な事を感じた。
だが、今日子さんも完璧では無いということをある日思い知ることとなった。
俺が学校から帰っている時、40代くらいの男の幽霊が俺と目があった。男はなぜか気まずそうに、視線を合わせないようにしていたが、どうしても気になった俺は問い詰めることにした。
「人の顔ジロジロ見て何か用ですか?」
俺がそう言うと幽霊は参った、とでも言うように肩を下ろし、俺はと身体を向けた。
「君、あの子のことが好きなんだろう?」
あの子、とはもしかして今日子さんのことだろうか。
「君、あの子と付き合うのはもうやめなさい」
男は説得するかのように言った。いきなり現れて恋人をやめろだと?まさかコイツも今日子さんのことを………
「僕も綺麗な子だな、とは思ったよ。でも、完璧な人間などこの世には居ない。幽霊だって同じさ。誰にでも欠点や知りたくないような事だってある」
と思っていたがそんなことはお見通し、とばかりに幽霊は俺の顔を見た。何が言いたいんだ。この男は。
俺は今日子さんのことを信じているが、なぜか動悸が止まらなかった。
「夜の7時、この町の近くにある梨墓尾怨塾に行ってくるといい……そしたら、全部分かるから………」
男はそう言って俺の前から消えていった。今思えば、あれリボーン塾って名前だったのか。子供に読ませる気が微塵も感じさせんな。
なにはともあれ、あの男の言葉の意味が気になった俺は、男の言っていた塾へと足を運んだ。夜なのに内から余裕で漏れ出るくらい明るい蛍光灯が暗い夜道を照らしていた。
俺はそこで少し待ってみたが、彼女の姿は無い。というよりも昼も夜も俺の目には人間や幽霊がごっちゃになって見えているので、人を探すのには苦労する。
もう30分近くは待っただろうか。今日子さんが一向に現れないことに業を煮やしたと同時に、安心しながら俺はその場を立ち去ろうとした。
その時、塾から一人の少年が出てきた。年齢は俺と同じくらいの小学生で、眼鏡を掛けた男の子は偏見かもしれないがとても賢そうに見えた。
「あぁたまらないわ……美味しそうなショタがこんな時間にいるなんて……誰かに襲われでもしたらどうするの……?」
近くから女の声がした。なんと、少年の前でスカートを見せながらあられもない格好をしていた。なんて卑劣な女だ……自分の性欲の発散のためだけに無知な少年を利用して。
しかしなんだ、気色の悪い声と同時にどこか聞いたことのある声だな。それにはぁはぁ言いながら不気味な笑い声を出して、一体どんな不審者なんだ?
「ふふふ…!こんないたいけな少年を路地に連れ込んでめちゃくちゃにしてやりたい……!」
これ以上はまずいと判断した俺は少年と痴女の元に駆け出した。そこまでだ性犯罪者。大人しくお縄につけ。
俺が女の正体を見破ろうとした。見破ろうと、したんだ。
「えっ?」
女は……今日子さんだった。端正な顔立ち、美しい黒髪、スラっとした制服姿……それはまちがいなく彼女だった。
「えっ、今日子さん…?なんで……?」
俺は言葉を失い、どう対応すればいいか分からなかった。
「あっ奏くん……これは違うの…!これには訳があるの……」
今日子さんは必死に取り繕うとしたが、俺は憧れの、初恋の女の人が超の付くほどの淫乱ド変態ショタコンだという事実を認めることは出来ず、俺は………
「う…うわァァァァァァァァァァッ!!!!!」
俺は堪らず走り出した。
「あっ待って!奏くん!」
彼女が引き留める声がしたが、俺は聞かずに走り続けた。
認めたくなかった。今日子さんが変態だったなんて。男の子を見ながら舌舐めずりをしてスカートを自分でめくり、下着を見せて興奮する変態だったなんて。
その日から俺は、彼女と二度と会うことは無かった。
俺は人を見る目が無いらしい。
彼女の裏の顔を見抜けなかった俺が悪かったのか、彼女の趣味を受け入れられなかった俺が悪かったのか……ふと、考えてしまう時がある。
忘れようとしても一生俺の後ろについてくる。
それからは俺からも彼女からも、どちらからも歩み寄ることなく月日は流れ、今に至る。
「いやぁ〜封印を解いてくれて本当に助かったぜ。剣の中にいるのは退屈でな。なんと礼を言えばいいか」
俺の前に立派なモノを見せびらかすようにブラブラと理由もなく動かす。
なぜこんな辛気臭い話をしたのかというと、今俺の前には全裸の男が立ちはだかっていた。
世の中にはとんでもない趣味や性癖を隠し持っている人間もいるもので、それを否定するつもりはない。生まれ持ったものであるかもしれないし、生きているうちに何かに感銘を受けたからかもしれない。
だが、人に迷惑をかけることはしないでほしい。なぜ筋肉モリモリマッチョマンの変態が俺の借りてる部屋の中にいるのだろうか。ここは普通の宿屋であってボディービルダーの大会ではない。
「…?どうしたのカナデ?そこに誰かいるのかしら?」
メアリーがあたりをキョロキョロしながら言う。見えていないということは、つまり彼は幽霊だということだ。
まぁ、見えなくてよかったのかもしれない。いきなり現れたのは巨大なイチモツをぶら下げた良いおっさんだったのだから。
「見え過ぎるっていうのは良いこととは限らないということを改めて知ったよ」
「…?」
俺はメアリーに羨望の眼差しを向ける。その意図に疑問を浮かべながら部屋のあちこちを見始めた。
「んだよその嬢ちゃん俺のこと見えてないのかよ!」
全裸の男はとても残念そうに言った。何残念がってんだお前……それ普通に犯罪だからな?もし見えてたらどうするんだ。即お縄だぞ。
「もう俺のことは知っているとは思うが……改めて自己紹介しておこう!」
知りません。
「俺の名はダンゲル!サンゼーユ国の前王で、どんな敵もこの拳一つで打ち滅ぼしてきた!」
知りません。
「おい、なんだせっかく俺が自己紹介してるっていうのに。お前、俺のこと見えてんだろ?」
知りません。見えてません。
「なにシカトしてんだ!?オオ!?人が話しかけてるのに無視するなんて人として最低の行為だぞ!」
その前に服を着るという人としてのルールを守ってもらいたい。
なぜ、彼は裸なのだろうか。
なぜ、俺は変な人間、幽霊に遭遇しやすいのか。俺は頭を抱えて苦悩した。
「でも何かいる気配はあるわね……ねぇカナデ、わたしにも見えるようにできない?」
「やめておけ、世の中には見なくて良いモノだってあるんだ」
「なんだと!?俺のこの筋肉を見てもまだ言うか!ほら見ろ!この逞しい上腕二頭筋を!」
うるさいやかましいうっとうしい。
だがこのままにしておくともっとウザくなりそうだ。話だけ聞いて本物の除霊師に追い払ってもらおう。
「分かった、だがまずは服を着ろ。話はそれからだ」
俺がそう言うとダンゲルと名乗る変態は渋々服を着始めた。だが奴が着たのは、青の半ズボンのみだった。
「ほらよこれでいいか?」
「いいわけねぇだろ」
服着ろっていってんだろ。そこまでして見せつけたいのか。
なぜか幽霊は自在に服を変えることが出来る。見た服をそっくりにして着てみたりなど、俺でも分からないことがある。念のため言っておくが俺はただ霊が見えるだけで、霊媒師でもエクソシストでも寺生まれのTさんでも無いただの人間だ。
俺が今まで生きてきた16年の中でも分からない事はある。
だからご都合主義だとか設定がふわっとしてるとかは言ったりするな。
言われて傷つくのは俺ではなく作者なのだからな。
さて、聞いていても面白くない話はやめにして、目の前の問題を片づけるべきだな。
「あの、わたしにも見せてくれない?どんな人か見てみたいわ」
コイツもコイツでなかなか引き下がらないな。
「分かったよ。……破ァッ!」
と、俺が右手を突き出し、腹から声と雰囲気を出して彼女にシェアリングをした。
「……なにしてんだお前?」
ダンゲルは俺を哀れむような目で見た。まさか筋肉の化け物に哀れまれる日がくるとは……一生の不覚だな。
「いや、ちょっとやりたかっただけだ。もう二度としない」
「なにをしているのですかカナデさん……」
天使にまでヤバイ奴を見るまで言われた。もう絶対二度としない。
「まぁ、そういうことをやりたい年頃ですものね。むしろ当たり前のことですから大丈夫だから、元気出して?」
メアリーにまで言われるとは……あと違う。思春期だとか厨二病とかじゃなくて、なんとなくやりたかっただけだから俺を慰めるのはやめろ。
「えっ……ちょっと待って。この人……」
メアリーが口元を手で押さえながら声を震わせて言った。
「なんだ、知ってるのか?」
「知っているもなにも!この人、さっき劇場で見たあのダンゲルだわ!なんでこんな所に!?」
メアリーは涙を流しながら感動していた。
なんでここにいるのかという言葉には凄く意見が一致したが劇場で見たが本当にコイツはダンゲルなのか?
「す、凄い……握手してもいいですか!?」
とメアリーはおずおずとダンゲルに歩み寄る。するとダンゲルはそのことに気を良くしたのかニカっと笑い、
「おお、お前俺のファンなのか!いいぜ!ファンサービスは気前良くしないとな!」
そう言ってダンゲルは右手を差し出す。だがお忘れでは無いだろうか。奴は幽霊、握手をすることはできない。
「「あっ…」」
ダンゲルの手はメアリーの手をすり抜け、ダンゲルの手が彼女のあらぬところに入ってしまった。はい即事案。
お互い気まずそうに差し出した手をしまった。少しだけ気の毒に思えてきたな。
「これで見えるようになっただろ。それで、お前なんで封印されてたんだ?」
俺は話題を逸らすように、避けるように変えた。すると「おおそうだった」とダンゲルはうなずく。
「俺には、どうしても雪辱を晴らしたい奴がいる。ソイツに勝つまで、成仏できねぇんだ」
ダンゲルは悔しそうに言う。
俺には戦いの経験なんて無いし、歴戦の戦士の見抜く力なんて無いが…素人目から見てもこの男はいくつもの修羅場をくぐり抜けてきたことが分かった。
先程見たあの筋肉も、見せるためではなく戦うために鍛えられた身体なのだろう。そんな奴を打ち倒すとはいったいどんな奴なんだ……
「俺の魂は解放されたが、肉体は戻らないままだ。おそらくその剣に俺の身体がまだ封印されている。そんな気がするんだ」
ダンゲルは剣を恨めしそうに見ながら言う。
「おかしいわね……掛けられている呪いは全部解除したはず。わたしですら気づかない、それも解除できない呪いを掛けるなんて……」
メアリーは自分の腕にかなりの自信があったのだろう、全て解いたと思ったはずの物にまだ呪いが残っていた事実にショックを受けていた。
「やっとその忌々しい剣から解放されたんだ、なんも問題ないって」
「でも身体はその中に残ったままなのでしょう?わたしの実力不足のせいで……」
そこまで言ったメアリーにダンゲルは「それは違う」と真面目な顔で彼女の言葉を遮った。
「君は、結果的に私の魂を解放してくれた。身体の事は、後で考えればいい。今は君のしてくれた事だけで十分だ」
さっきのふざけた態度とは違い、一端の上流階級の人間のような振る舞いでメアリーに微笑み掛けた。
側から見ればそれは、誰だお前と言いたくなるような、とても違和感のある光景だった。
「ダンゲルさん…」
メアリーは頬をポッと控えめに赤く染め上げた。もうここで俺からこのノンファッションモンスターに鞍替えしてくれればいいのだが。
「ああ、いけない!もう少しで恋に落ちるところだったわ!でもわたしには夫がいるの……だからごめんなさい」
チラチラと照れながら俺の事を見るメアリー。
誰が夫だ。お前みたいなちょろいヤンデレと結婚した覚えはない。そして見てみろ、別に告白してもいないのに断れたみたいなダンゲルの困惑の表情を。俺が奴の立場だったら確実にビンタしてやるところだ。
「お前も大変だな……」
ダンゲルは可哀想なものを見る目で俺に言った。
やめろ、慰めるんじゃあない。余計惨めに感じるだろ。
「あの、カナデさん……」
と、天使が申し訳無さそうに耳打ちしてきた。
「そろそろクエストを受けた方がいいと思います。同僚に聞いたんですが皆さんすでにクエストを受けたり、他の街に行ったりしているそうです」
俺は天使にさりげなくクエストを受けるよう急かされた。
そして何より驚いたのは、天使なのに同じ仲間のことを同僚と言うんだな。
たしかにアイツの言うことにも一理、いや百理ある。俺の手持ちは残り17万ジール、今持っている剣に一万を使ったがその後は諸々の費用に使った。このまま働きもせずに宿に泊まり続ければやがて金は尽き、追い出されること間違いナシだ。
「申し訳ないが、俺は今金がない。だからギルドに行ってクエストを受けてこようと思う。だからお前の身体の事は後回しだ」
「クエストか……俺もついて行っていいか?俺は様々な人間の手に転々と回ってきたが、ここ最近はずっと武具屋に居て暇だったんだ」
ダンゲルも行くつもりらしい。まぁ幽霊だし、居ても居なくても同じだろう。
「わたしも行くわ。夫婦の共同作業というのも一度はやらなくちゃいけないし……!」
夫婦じゃないぞ。というか戦えるのか?
俺の心配を感じ取ったのかメアリーは人差し指を俺に押し当て、
「心配には及ばないわ。わたし、これでも結構強いのよ?」
「そう言う事言う奴から死んでいくんだよな」
「ヒドイ!」
と割とフラグ的な事を言った。そういうこと言われると後が怖いんだが。
「それじゃあ、クエスト行きますか」
俺達は日銭を稼ぐため、冒険者ギルドへと向かった。
だが、後に俺はギルドに行ったことを深く後悔することになる。それを俺達は…というか主に俺はまだ知らない。




