第4話 マジでヘラる五秒前②
「美味しい!美味しい!美味しいです!」
倒れている彼女を近くの公園に連れていき俺の持っていたお弁当をあげたところ、モリモリガツガツと漫画の擬音のような音を出しながら黙々とモグモグと食べていた。
魔法使いのようなゴスロリのような、ファンシーな服を着た女の子だ。
俺と同じくらいか、もしくは年下のような慎重と見た目だった。
「なぁ、一応聞いときたいんだけど……なんで倒れてたんだ?」
「ふぇっ!?あふぁ、あふぁひひっははえかあ……」
「ごめんな。食べ終わってからでいいぞ」
俺は食事の邪魔にならないよう、待つ事にした。
それにしてもよほどお腹が空いていたのか、本能のままにかぶりつく野獣のように目の前の食べ物を喰らい続けた。
「わたし、魔道具なる物を作っていたんですが…三日前から何も食べてなくて……」
そう言いながら女の子は食べ終わった箸を置き、口元を布で拭きながら話す。魔道具か……これまたファンタジーな単語が出てきたな。
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
あれ?もう食べたの?お弁当あげてから1分半しか経ってないんだが。
まぁ腹が減っていたんだろう、俺がお腹を空かせてご飯を食べている時、母さんが「ご飯は逃げないわよ〜」と言っていたのを思い出した。俺が作ったわけではないがそんなに必死に食べているところを見ると母さんの気持ちが少し分かるかもしれない。
「空腹で死にそうな所を助けてくれてありがとうございます。………まぁ死なないんですが」
「あぁいいんだよ……ん?今最後なんて言った?」
俺はラブコメの漫画の中の主人公やラノベの主人公のように耳が難聴であったり鈍感ではない。俺は漫画やアニメ、小説などでそういう主人公を見る時はイライラするという性格で、はっきりいってああいう人種はきらいだ。いつも耳鼻科行けと思いながら見ている。
あぁ、話が逸れてしまった。死なないとはっきり聞こえたがどういう意味だ?
と、俺が思案していると彼女の背後に男が現れた。この世界の幽霊も同じく、判別のつく条件は浮いていること、壁や人を通り抜けること、生きている人間と一体化して遊んだりなど色々なシチュエーションがある。
この場合、彼女の後ろにぷかぷかと浮いていることから幽霊だということがわかった。……ん?なんだ?この幽霊少し挙動がおかしい。顔が青白く、引きつった表情でこちらを見ている。
「コノオンナ…キケン……ニゲロ…………」
ガタガタと携帯のバイブレーション並に震えだした幽霊は両手を使ってバツのジェスチャーを作りながら俺に逃走を促す。なんかやばそうだな。えっなにこれ、なんで幽霊なのに死にそうな表情なんだ?
「ハ、ハヤク………ニゲ―――」
「ゴルルルアアアアアアアアアア!!!」
言い終わる前に彼女からあふれてきた赤黒いオーラが幽霊を包み込み巨大な牙を開き、幽霊は捕食された。
ユウレイガホショクサレタ。
…よし、早くこの場から去ろう。
「とりあえず腹はふくれたみたいだから俺は帰るよ。機会があったらまた会おう」
俺は手短に言って帰ろうとした。そう…帰ろうと、した。
「いえいえまだ会ったばかりですしせっかくの機会ですもっと語り合いましょう!わたしの名前はメアリー恋に恋する麗かな乙女です恋人募集してますちょうど空いてるんですあなたも恋人はいませんよね?それならよかった!わたし変わり者で恋人がずっとできなかったんです。でもそんな時に運命の人に出会いました!見ず知らずのお腹ペコペコの女の子に王子様がお弁当を持ってきたんですそれがあなた!婚姻届はここにあります常に持ってるんですさぁサインしましょうしてしてしてしてしろしろしろ♡」
長い、そして怖い。おそらくこれを読んだ君は読むのを諦めて飛ばしただろう?俺だったらそうする、誰だってそうする。
「へ、へぇ〜でも俺今日予定あるからまた今度でいいかな?」
俺はこの場から逃げたかったが、俺を逃がすまいと絶対に譲らないメアリー。本当に勘弁してほしい。俺は親切で母が作ってくれたお弁当をあげたのに、逆にそれが裏目に出てしまった。人助けを迷いなくするのもいいことばかりが起きるとは限らない、そんな事を人生の教訓に刻む事を俺は密かに決めた。
「…………」
だがあれだけ喋っていたメアリーは突然口を閉じた。急に黙るな、こっちがびっくりするわ。
「それならばしょうがないですね。またの機会にお会いしましょう。ミエイカナデさん…」
えっ何でこいつ俺の名前知ってるの………?メアリーは俺にある物をヒラヒラと見せつける。それは俺のスマートフォン。まさか、えっ?盗んだの?怖っ………
「とりあえずこれはお返ししますね。霊能力……フフフ…………フフフフ…………!」
不気味な笑い声を上げながらメアリーは俺の前から去っていった。
メアリー……恐ろしい女だ。
「暗くなってきたな。早く宿を探さないとな」
俺は自身に言い聞かせるように呟き、スマホを取り出す。スマホなら地図アプリなどもあるのではないかとと思い、起動してみた。
すると予想通り、やはり地図アプリはあり、近くに15軒もあった。多過ぎだろ、ホテル激戦区か。
俺は近くの宿に足を運び、部屋を確保することに成功した。
あぁ、ふかふかのベッドだ、心地がいい。これで複数人の幽霊が俺の部屋でぷかぷか浮いてなければ最高なのだが。
今日は一日でいろんなことがあった……スウェット姿の腹黒女神、異世界、ブラック天使、腹を空かせたヤンデレ。早く元に戻りたい、俺はそう願いながら深く眠りへと着いた………
小鳥がさえずる朝。太陽が優しく俺におはようと言ってくる。この朝の目覚めだけは、元の世界よりもいい物なのかもしれない。
なぜなら、忌々しい幽霊がいないからだ!
どこを見回しても、幽霊がいない!見えない!話しかけられない!見られない!
嗚呼、常人の生活というものは、こんなに素晴らしい物なのか………
……て…さい…おき……く…さい………
なんだ?誰かの声が聞こえるな…?
俺に幽霊の能力はない。ついに使えなくなったんだ。これからは一般人として余生を過ごすことが出来る!
「起きてください!ミエイさん!」
「はっ!?」
天使の声が聞こえた。遂に俺の魂を救済しにきたのかとも思ったが、見知った天使だったのでそれは違う。というか見知った天使ってなんだ?
夢か………
小鳥のさえずり、太陽。これは同じだ。
「コイツ俺が見えるのか!?」
「ほ、本当に!?わたし!わたし見える!?」
「な、なあ俺と身体を共有することってできるか!?」
…忌々しい幽霊が見えてさえいなければ。
老若男女問わず、様々な幽霊が俺の元に押し寄せる。秒でバレた。もしや俺とメアリーが話しているところを誰かが見ていたのか?
「ミエイさん、今日は武器を買いにいきましょう。冒険者になったのですから最低限武器は買っておかないと」
「冒険者……そうか、俺は冒険者だったのか」
「今まで忘れてたんですか!?あなた魔王を倒さないと帰れないんですよ!?」
朝からやかましい。こいつは昨日俺の能力を見たのを忘れたのか?霊視だぞ?幽霊の正体見たり枯れ尾花!とでも言って魔王を倒せとでもいうのか?
「とりあえず武器を買いに出かけましょう。他の皆さんは既に購入されましたよ?」
「コーヒーと朝食を取ってからでいいか?」
「もう昼なんですが!?」
天使がやかましいので俺はとりあえず身だしなみを整えて宿を出た。
武器か。
俺はこんな風にクールぶってる(ぶってるつもりはない)が武器という単語に少しワクワクしながら武具店に向かっていた。
エクスカリバー、デュランダル、村正……別にこの世界でそんな大層な物があるとは思ってないがそんな剣に出会えればいいなとは思っていた。
「なぁ嬢ちゃん、俺とちょっとイイことしようよ〜」
「そうそう!楽しいことだよ〜!損はさせないからさ〜」
路地裏で何やら声が聞こえた。
なんだ?タチの悪いナンパか?あいにくだが俺には半ケツのおっさんが周りに浮いてるのが見える以外なんの力もない男だ。悪いな、ここは素通りさせてもらう。
「いやぁ〜!助けてぇ〜!」
ファンシーな格好をした知らない人がなにやら助けを求めている。だが俺はファンシーな格好をしたヤンデレなど知らないので俺は歩みを進めた。
「髪が黒くて死んだ魚の目をした素敵な人ぉ〜!名字がミから始まってデで終わる人ぉ〜!」
やめろ!俺の見た目を事細かく喋るんじゃあない!
「いやぁ〜助けて〜!乱暴される〜!」
「ぐへへなんか、こう……あ〜…なんつーか……すごいエロいことしちゃうぜ〜?」
演技下手くそか。あと暴漢の語彙が酷い。
「あ、あの……あの女性はミエイさんのお知り合いの方ですよね?助けた方がいいんじゃあ……」
知り合いというより死り合いなのだが、俺がシカトしてるとずっとやるつもりか……?
「だけどなぁ……」
「大いなる力には大いなる責任が伴いますよ?」
「お前はベンおじさんか」
有名な名言で心を動かそうとしても俺の能力で出来ることなんて何も……
いや、あったぞ。俺が使える俺だけの力があったじゃないか!
俺は俺の周りにいる幽霊に声をかけた。
「なぁ、おい。俺にケツ押し付けてるそこのおっさん」
「えっ俺かい!?」
「お前しかいねぇだろ」
「あとそこの、髪が前にかかって顔が見えない髪が異常に長いお姉さん」
「えっあたし……?」
「逆に自分より髪長いやついると思ってんの?少し手伝ってほしい事がある。聞いてくれるか?」
俺は二人の幽霊にある作戦を話した。
「わー助けてーどうにかされちゃうー」
「あぁもうめんどくせぇ!このまま連れ去っちまおうぜ?」
「そうだな。悪りぃな嬢ちゃん。ちょっと強引だがこのまま一緒についてきてもらうぜ」
痺れを切らしたのか男達はメアリーの手を掴み、引っ張ろうとする。だが突然メアリーは表情を無にし、殺気めいたオーラを出した。
「…それ以上その汚らしい手で触らないでくださる……?」
「なんだとこのアマァ!」
男は逆上したのか、腕を振り上げメアリーに乱暴をしようとした。
だがその時。
「そこまでだ」
汚れた布切れを頭に深く被り、顔が分からないように俺は彼らの前に現れた。
「なんだお前は…?」
男の問いに俺は何も言わずに右手を天に掲げた。
「その女は放っておけ。お前らには荷が重すぎる」
「フード被った薄気味悪い奴が何言ってるんだぁ!?」
確かにそうだな。
男達は俺に向かって殴り掛かろうとしてきた。だが、ある二つの影が男達の前に現れた。
「な、なんだお前らは……?」
「オ………オオオオオ…………」
皮膚が腐れ落ち、目玉が無い異形の何かが彼らに近づいて来る。
一人はズボンを履いておらず醜い下半身が露出した男に、髪が異常に長く、妙に青白い肌をした女がゆっくりと、だが確実に距離を縮めて来る。
「えっおい、なんでこっちに来るんだ……?」
「ぢぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
ゆっくりとした足取りだった化け物達が突然素早い動きで一気に彼らに襲い掛かろうとした。
「ひいいいいいいいいいいいいい!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいィィィィィィィィ!!!」
男達は恐怖のあまり涙を流し失禁、そしてあげられる限りの悲鳴を上げた後、気絶した。
「……やりすぎたか」
俺は彼等が驚き過ぎて心停止してないかどうか確かめた。
「あ…あひ……」
時々ピクピクと痙攣している事から生きている事がわかった。というかあひってなんだ、発狂したり気絶したらあひあひ言うのがこの世界の常識なのか?
「いやぁ〜いいねぇ!脅かし甲斐があったよ!」
「あたしもちょっと面白かったわ……これからもやらせてもらおうかしら……」
協力してくれた二人は笑顔で喋っていた。…解像度を設定し忘れてたので顔は怖いままだが。
「君はいい奴だな!困っている女の子を助けるなんて!」
俺にグッと近づき笑顔で話す下半身丸出しのおじさん。
動画を見る時に画質を調整する機能はご存知だろうか?俺は常にフルHD、4Kや8Kなどのヌルヌル動いて常に普通の人間が動いているように見える。
だがここに来て俺の能力は拡張された。今の俺の能力は逆の事も出来る。幽霊をわざと見えづらくし、映画などに出てくるモンスターのように見せかける事が出来るようになった。
そして二つ目の能力、他人に俺と同じ視界を共有することの出来るシェア。
これでわざと幽霊を見えづらくし、怖く見せかけて男達に視界を共有させてビビらせたってわけだ。
つまり、今俺の前には化け物みたいな顔をした下半身丸出しのおっさんがいるわけで……
いい笑顔で俺を賞賛してきているのだが……済まない。協力してもらってありがたいとは思っているが、近寄らないで欲しい。
「さすがだわ……さすがわたしのフィアンセ……」
「勝手にフィアンセにしないでくれるかな?」
「呪いを掛けた甲斐があったわ……やはり貴方は運命の人………」
えっ今さらっと物騒な事言わなかったか?呪いってなんだ呪いって。
「貴方もわたしと同じ能力を持っているのね…!」
メアリーは笑顔でそう言って…!?
「今、なんて言った……?」
この日、俺は俺と同じ境遇の人間を見つけた。性格は全くと言っていいほど似ていないが。




