一章 一
永遠に広がる荒野。
丘から見下ろす景色はいつもと違っている。
荒野を埋めつくす人の数。
向かい合った先にあるもう一つの丘には
たくさんの旗が立ち並んでいる。
今までの雰囲気とは違う。
『演習とはいえ、凄い光景ですね』
右横にいる海延が言う。
小柄なこの男が飲み込まれるような景色だが、
海延の青い眼は鋭く光っている。
『今日という日を待ちに待っていたのだ。』
そう呟くと、海延はこちらを見て笑いながら頷いた。
今日は18歳の誕生日である。
その誕生日に今までとは違う規模の演習を行うことは
決められていた。
父の子供として、一つの試練として演習が行われる。
『周様、李燕殿の名を汚さぬ戦いを。』
左隣にいる黄伯が手を合わせながら、礼をする。
父である李燕の側近の一人である、黄伯は父を心酔している。
私の活躍を願うことより、父の名を汚す事が心配なのだろう。
『黄伯、あまり気負いさせるな。なんとか、やってみせるさ』
満面の笑顔で、黄伯に答えるが、黄伯は顔色を変えず、
向こうの丘に視線を移した。
父である李燕はこの国の王の側近の一人である。
単純な武力でいえば、この国一番の力を持つ。
「戦場の燕」の呼び名を持つ父は、圧倒的な強さで
国王を支えている。
その息子である自分がたかたが演習で
情けない姿を見せるわけにはいけなかった。
今までは百人将(100人を指揮する将)として
演習を行っていたが、今回は3,000の兵を指揮する。
相手も同数で今までとは規模が違う。
その上相手の指揮する将軍は陸顏である。
黄伯より位は下だが千人将を経験したこともある、古参の将である。
この戦次第では昇格もあり、父の息子との演習とはいえ、
手加減はしないであろう。
勿論、大方は陸顏の勝利を予想している。
少しでも良い戦いが出来るか、それを見ている。
『そろそろ時間ですね』
海延がいう。銅鑼がなれば演習開始だ。
大きく背伸びをする。
『さぁて、いっちょやりますか。』
海延と黄伯に視線を移す。二人ともこちらを見ていた。
『勝ちにいくぞ』