放課後の金木犀。
放課後。
私は、たまたま一人で。
中庭にいた。
私は、
中庭に咲く。
金木犀が好きだったから。
匂いも、
あの小さくて、
黄色と橙色が混ざったような色も。
すごく、いい気持ちになるから。
甘くて優しい匂い。
秋は紅葉も良いけれど。
私は、金木犀のほうが好き。
小さくて儚くて。
でもくっきりと存在していて。
「なにやってるの?」
急に壊される静寂。
もっとこの金木犀の匂いを、
かいでいたいのに…?
「金木犀と遊んでいるの。」
「へぇ・・。金木犀っていいにおいだもんね」
そういわれて、声の主に目を向ける。
「志野君…?」
「よっ。川嵜さん。」
クラスメートの、志野君だった。
「金木犀か・・・。夕暮れに似合ってるね。」
「うん・・・私もそう思う。」
「川嵜さん。・・・ちょうど二人きりだし、言いたい事があって。」
「え・・・?」
ほのかな期待を胸に、
志野君の声に耳を澄ます。
「川嵜美帆さん。・・・俺は、前から、す・・・」
・・す・・・?
「・・・好きでした。」
その声に同調するように、
金木犀が風に揺れる。
嘘・・・?
ありえないことだった。
両思いになって、
つきあうだなんて。
志野君が、
私の事を・・・?
じゃあ・・・
私の、 気持ちも・・・。
金木犀に勇気を貰って。
素直に伝えよう。
「私も、好きです・・・。」
秋の夕暮れ。
金木犀をバックに。
2人の影が、
1つになったところが。
今、見える。