迷宮の可能性
遅くなってすみません。
展開を軌道修正しようと苦戦中。
俺はしっぽを伸ばす。 もちろん本当に尻尾が生えるんじゃなくて、迷宮の底から通路状に拡げているだけだ。
下へ下へと伸ばして行き、途中から横に向きを変える。 そうして辿り着いたのはこの島の海面下5メートル程、壁1枚隔てた向こう側は海中という場所だ。 このまま口を開ければ海水が雪崩れ込んで来るのだが――。
俺は口を開けずにそのまま海中へと通路を伸ばす。
…………
海水は入って来ない。 周囲を水で囲まれた通路が出来た。 出来てしまった。
通路は海流に揺らぐようなこともなく、その場に固定されている。
こんな事、迷宮が意図的にしないと、【メニュー】で管理してる迷宮主には、まず不可能だろう。
続いて、俺は海中の通路を階層で区切り、区画化する。 この階層の区切りは、【メニュー】上では扉で区切る形だったが、実質的に空間を隔離するものだ。 階層間を通過するものは階層から階層へと随時零距離空間転移をしていることになり、通過対象でなければ光さえも遮断してしまう。
迷宮内部限定とはいえ、空間操作も可能だというのは我ながらとんでもない生物だと思う。
――最初は……
意識した瞬間、区画内が海水で満たされた。 結果に納得した俺はすぐに海水を吸収して追い出す。
――なら、これは?
今度は階層の壁面が真っ白になる。 海中の塩分が析出したものだ。 不純物も混ざっていない純粋なNaClである。 海流に面した壁の塩はどんどん厚みを増し、結晶がポロポロと床に落ちる。 。
ここまで出来れば後はなんでもありだろう。 俺は分子、原子単位でイメージした物質を取り出せるという事だ。 純水…… 酸素…… 指定した物質以外は魔素に変換され、区画をすり抜ける。
当然逆も可能で、特定の物質だけを透さないようにも出来た。
同じことは地中でも可能だろう。 通路を能動的に動かし、進路上にある特定の物質だけを取り出せる――つまり石炭や鉄、場所によってはミスリルやオリハルコン等の希少な魔法金属さえ、地中を掘り進むことなく採取出来るということだ。
――それにしても……
俺は海中の様子を見ながら感心している。 それはもう、見事なくらい生物の気配が無いのだ。
以前に上空から探った時から変わっていないのだが、目に見えない壁か何かで生物の侵入を拒んでいるんじゃないかとさえ思えてくる。
なんとなく泳ぎたくなってくるが、自重する。 みんなが起きてきた時に、海中に居るとなったらびっくりするどころではないだろう。
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その後もちょこちょこと検証作業を進めた結果、
・空中への伸長は不可能。(海面に到達した時点で開口した)
・海面の開口部は波に合わせて変化し、飛沫は入って来るが海水がなだれ込む事はない。
・海中部分を外部から視認することは出来ない。
・海面や洞窟外部を膜で覆って迷宮化する事は不可。
などが判明した。
その気になれば海面を入口に(空気に触れていればOKなので糸状でも可)全身を海中に出すことも出来るので、本当に泳げる可能性が出てきた。
ただ、空気に触れるとそこが入口になる――地下の空洞等、限定された空間は除外される。 おそらく外部の魔素が一定濃度以下に拡散することが条件だろう――ので、泳いでる最中にうっかり海面に出ると「迷宮の開き」が出来ることになる。
逆に考えると、ある程度の深さをもった凹みであれば、その床面、壁面は迷宮として扱えるとも言える。
面白いのは、海中部分を外部から視認出来ない点だ。 内装を変化させて中から外が見えない状態にしても同じで、空間固定されている時は外部から見えなくなる。 これは地中でも同じだろう。
空間固定というのは便宜上使っている言葉で、実際に固定されている訳ではなく、周囲環境を魔素を介して素通りさせている状態の事だ。
増築した分の岩石が消え、減築した分の岩石が元に戻る理屈と言ってもいい。 これが無いと、地中では地圧が、水中では水圧が圧し掛かる事になる。
空間固定を解除出来るかどうか試してみたところ、可能ではあるが、物質化扱い――解除した部分は目視可能で、表面は光を一切反射しない黒体状だった――のようで、維持するにも動かすにも常にDPを消費し続ける事が分かった。 ただ、やはりというか解除した部分の表面積に比例するようで、細く紐状にすると消費はかなり抑えられた。
耐圧に関しては、膜自体が破れたりする事はないが、外圧に応じて体積は圧縮されてしまった。 元の形を維持するよう踏ん張ることも可能ではあるが、その場合は余分にDPを消費し続ける事になる。
また海流や水の抵抗を受ける為、素早い動きは出来ず、当然のことながら、地中部分は動かせなかった。
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没頭していると時間の経つのは早いもので、気が付けばお昼前になっていた。
お寝坊さんの起き出す気配がするので、リビングに分身を出し、飲み物を用意して待っていると――。
寝室へと繋がっている扉が少し開いて、こっちを覗く顔が見えた。 顔はひとつ、またひとつと増えていき、全員揃ったところで何やらアイコンタクトを取っているように見える。
――なんか嫌~な予感が……




