およめさん
前話で一時「完結済」になっていました。 すみません。
まだまだ続きますよということで急遽投下します。
(ク~)
可愛らしい音がした。
そちらを見ると、クルがお腹を押さえてこっちを見ている。
『おとーさん、おなかすいたー』
さっき大量の焼肉食べてませんでしたっけ? と思ったが、変身やら進化やらで相当エネルギーを消耗してるんじゃないかと思い直した。
〈何が食べたい?〉
『おにくー! さっきのがいいのー!』
〈お肉好きなの?〉
『おかーさんが、「早く大きくなりたかったら、お肉をいっぱい食べるのよ」って』
〈クル?〉
『なーに?』
〈クルはもう大きくなってるよ? 〉
『あ! そうだった! だったらあたし、およめさんになれるんだね?』
――はい?
〈クルちゃん? それはどういうことなのかな?〉
『あたしねー、およめさんになりたかったの』
〈うんうん〉
『おかーさんにいったらー、「おまえがいつか大きくなった時に、大好きな相手がいて、その相手にも同じくらい好きになってもらえたなら、きっとおよめさんになれますよ」っておしえてくれたのー』
〈へ、へー、そーなんだ〉
――ま、まさか……
『クル、おとーさんがだいすきになったしー、おおきくなったのー! だから――』
〈だ、だから?〉
『クル、おとーさんのおよめさんになるのー!』
――予想通りの展開だが、こればっかりは――確かに男としてこんなに嬉しい事もないだろう、だがしかし、見た目はともかく中身はまだ幼い女の子なのだ。
『おとーさんはあたしのことすきー?』
〈ああ、大好きだよ〉
『やったー! だったらあたし、およめさんなんだよね?』
――ここで子供だからと適当に「うん」とか言うのはキケンだ。 「おとーさん」が称号になる世界なんだぞ? えっと……
〈クル〉
『なーに?』
〈よく聞きなさい〉
『うん!』
〈クルがおよめさんになったら――〉
『なったらー?』
〈俺はクルの「おとーさん」でなくなってしまうんだよ!!〉
『え~~~~~~~~~っ!!』
――あ、思ったより効き目があるな……この世の終わりみたいな顔しちゃってますよ?
『や~だ~! イクルはあたしのおとーさんだもん! おとーさんやめちゃいやだ~~~!!』
――ヤバ、今にも泣きだしそうだ。
〈俺は「おとーさん」を辞めるつもりはないよ〉
『ほん……と!?』
〈ああ、いつかクルが大きくなって、「おとーさん」か「およめさん」をちゃんと選べる日が来るまでは、俺はクルの「おとーさん」だ!〉
『あたし、もうおおきいよ?』
そう言うと、クルは大きな胸を両手で持ち上げて揺すって見せる。
――ちょ? 確かに大きいよ? それを否定するなんてとんでもない。
〈いいや、確かにクルの身体は大きくなっちゃったけど、中身はまだまだ小さな、でも可愛い子供なんだ〉
『む~』
〈クルが、その身体と同じくらいに中身もちゃんと大きくなったら、分かるようになるよ〉
『それっていつ?』
〈さあ? いつになるかなー?〉
『おしえてよ~! おとーさんのいじわる~!』
――ほっぺを膨らますクル。 もう大丈夫だよね?
〈それにね――〉
『それに?』
〈俺が「おとーさん」のまま、クルが「およめさん」になる方法はちゃんとあるんだよ〉
『ほんと!? おしえて!!』
――目を輝かせ、身を乗り出して聞いてくる。 やっぱり女の子だ。
〈簡単さ、クルが本当に大きくなった時に、おとーさんよりもっともっと大好きな人を見つけるんだ。 そしたらクルはその人の「およめさん」になれるよ〉
『え~? だってあたし、おとーさんのことおかーさんとおなじくらいすきなんだよ? せかいでいちば~んだいすきだよ?』
両手を広げてぴょんぴょん跳ねるクル。 耐えろ俺!
〈クルの気持ちはとっても嬉しいよ。 可愛い娘にそこまで好きになってもらえて、おとーさんは幸せだ。 でもクルが「およめさん」になるのは今じゃない〉
『うん……』
〈焦らなくても、ちゃんと大人になれるよ。 その時はひょっとしたら「おとーさん」じゃない俺の「およめさん」になってるかも知れないな〉
――これは俺の希望かも知れない。 クルが本当に大きくなった時に、それでもまだ俺の事を好きでいて欲しいと――。
『でもー、やっぱりあたし、おとーさんのおよめさんになりたいなー』
――ああもう! どうしてこの子はこんなに可愛い事を言ってくれるんだろう……
〈ところで……クル?〉
『なーに?』
〈お腹の方は大丈夫なのかな?〉
『あ!』
(きゅるるる~)
〈あはははっ!〉
『もー! おなかぺこぺこだよー。 おとーさん、はやくおにくちょーだーい!!』
〈よ~し! 今度はちょっと違うお肉を出すぞ~!〉
『おいしいのー?』
〈もちろん!〉
『やったー!』
〈で、さっきみたいにいっぱい食べないとダメなのかな?〉
『うーん、わかんない』
〈じゃあ、少しずつ出すから足りなかったら遠慮なく言うんだぞ〉
『うん!』
――さーて、どんなお肉をご馳走してやろうかな?
俺は【メニュー】とにらめっこを始めるのだった。