天の声
―〈マスター権限の委譲が申請中 ハイ/イイエ〉―
天の声と一緒に脳内に選択肢が表示されている。
字幕機能も完備してるのかー、天の声さんは有能だなー。
―〈いやー、それほどでもあるです〉―
無視無視。 今は構ってる場合じゃない! 取り敢えず“イイエ”で。
『む~!』
幼女がふくれっ面でおこである。
〈えーと、さっきのは何だったのかな?〉
『なんかあたまのなかがごちゃごちゃしてわかんないから、おまかせするのー!』
――清々しいほどの丸投げですよね……てか、俺ダンジョンコアですよ? ダンジョンマスター兼任ってワン・オペでダンジョン運営しろっての?
―〈マスター権限の委譲が申請中 ハイ/YES〉―
ちょ、何なのこの選択肢……拒否権がないんですけどー?
幼女は――てへぺろだと……!
仕方がないので“YES”と念じる。 実は表示だけで実質“イイエ”の可能性が――
―〈マスター権限が委譲されました〉―
―〈称号『迷宮の支配者』を獲得――スキル【メニュー】を修得〉―
ですよねー。
それにしても、意外とあっさりしたものなので拍子抜けした感があるな。
こういうのって、ダンジョンマスターとか成った瞬間、膨大な情報をインストールされて脳が書き換えられるとか――実際されたら嫌だけど――イベントっぽい事が起こるかなと思ってたんだが……
――ああ! その“膨大な情報”の出所ってダンジョンコアじゃねーか! 既にインストール済みだったわ。
【メニュー】ってスキルはあれだな、ダンジョンコア=俺の本能――迷宮作ったり、生物取り込んだりとか――の様なものを制御して、ダンジョンマスターがダンジョンを運営するのに使いやすくするものなんだろう。
まあ、百聞は一見に如かず? ってことで〈メニュー〉プリーズ!
目の前に透明なウィンドウが現れる。 なんとなく見覚えのある、いかにもゲームっぽい――っていうか遊んでたゲーム画面そのままのような――メニュー画面だ。
やはり、俺の記憶あたりを参考に分かりやすい表示を選んでいるようだ。
ダンジョン――名称未設定――
保有DP―384(+96)
|
├ダンジョン-
| ├階層(1)+
| ├部屋(3)+
| └環境+
├モンスター-
| ├創造+
| ├召喚+
| └配置+
├アイテム-
| ├生成+
| └合成+
・ ・
・ ・
おおー、項目がいっぱいあるなー。 んでもって保有DPときたかー。 何もしてないのに結構溜まってるんだが――これは例の幼女というかドラゴンのお蔭とみて間違いないだろう。
これ消費してダンジョンを運営するのがダンジョンマスターのお仕事でいいのかな?
で――だ、これ能動型スキルだよな? さっき発動出来なかったのが出来る様になってるのは……【意思疎通】とやらが関連してるんだろうな――
―〈ピンポン! スキル【意思疎通】には詠唱系スキルも統合されてるです。 【無詠唱】も含まれるです〉―
――さっきからちょくちょく聞こえてたんだけど、これ――
―〈無視しないで欲しいのです、しくしく〉―
〈えーと、システムメッセージというか、天の声さん? 中の人なのかな?〉
―〈……中に誰もいませんよ〉―
――コワっ!
―〈違ったです、中の人なんていません! なのです〉―
〈知識の出所が気になるところですが、お姉さん? ノリがいいですねー〉
―〈あははー いやー、ボクと会話出来る程の人がこの世界に現れたんで、思わず声を掛けたです〉―
天の声さんはボクっ娘と――いや、性別あるかどうか知らないけどね! それにしても軽いなー。
―〈これでも神の端くれなのです〉―
〈あ、そうなんですね。 “様”とかお付けた方がよろしいんでしょうか?〉
―〈いらないです 堅苦しいのは「お仕事」のメッセージだけでお腹いっぱいです〉―
〈それはそれは、こちらとしても助かります〉
―〈先ほどからですねー、君のところで呼び出される回数が多いのが気になってたです〉―
〈それはむしろコッチが訊きたいぐらいなんですがね〉
―〈そしたら、【意思疎通】まで取っちゃって、神域のアクセス権限まで得るもんだから、 気になって 来ちゃったです〉―
ん? なんかちょくちょく本音が見え隠れしてるような――。
―〈ちなみにこの世界の聖職者でボクと会話出来る人はいないです〉―
〈そりゃまた、どうしてですかね?〉
―〈これでも管理レベルⅡですからねー。 聖職者といえども信仰を司る管理レベルⅠの神々との交信がせいぜいなのです〉―
〈ほうほう〉
―〈言語スキルの頂点【意思疎通】はそのぐらい凄いスキルなのです〉―
〈なるほど――さっき【念話】っぽいことしようとしたら取れちゃいましたけど〉
―〈ここまで言語系スキルの熟練度を鍛え上げた人って世界初です。 快挙なのです〉―
――本人は何が何やらさっぱりですが……っと、うわっ!
『む~!』
いつの間にか幼女が目の前に――っておこなの? 近いよ?
『さっきからひとりでブツブツしゃべってばかりなのー!』
〈あ、そっか ごめんごめん 服を出すんだったわ〉
つーか、天の声はこの子には聞こえてないのな。
てことで改めて〈メニュー〉っと――お、最初から目的の項目が絞り込まれて表示されるとか、親切設計なんだねえー。
―〈ホントは全項目のツリーを順番にスクロールして探さないとダメな筈なのです〉―
もしかすると【メニュー】さんとも意思の疎通が出来ちゃってるのかなー?
ゲーム画面に似せてくれたのもそれ?
!! メニュー画面が瞬きしたんですけど? ウィンクなの?
取り敢えず女の子の服だからワンピースかな? ――けっこう色と種類が……ってカタログっぽいな。 というか、どう見てもこの世界の服じゃないですよね?
この「アイテム」ってダンジョンマスターの知識の中から具現化出来るのかな?――目移りするけど――よし!
「DP交換」で薄桃色のワンピース(20DP)――残念ながら、実物の色は分からないが――を出す。
“布の服”は2DPだったから同じ服なのに10倍だ。 元々この世界に無いものは高コストらしい。
『ふく?』
幼女は魔法陣から現れた服とこっちを交互に見て首を傾げている。
〈そうだよ。それを着てごらん〉
『わかったー』
ホント、いい子だなー。
着方は分かるのかなー? ――そうそう、頭からかぶって、前後ろに注意して腕を通して――って、割とすんなり着ちゃったんだけど?
『なんとなくこうかなーってのがあたまのなかにうかんだのー』
ほー、これも【意思疎通】の効果かなんかかな?
〈ひとりで服が着られるなんてえらいぞー〉
『えへへー』
―〈言葉にしにくいニュアンスやイメージも伝えられる、便利なスキルなのです〉―
〈解説ありがとうございます〉
とか言ってるうちにワンピースを着た幼女は、服の裾がひらひらしてるのが何故か楽しいらしく、その場でくるくると回って見せる。
そうすると当然ワンピースの裾が広がって――。
は・い・て・な・い だと――! って当たり前じゃねーか、ぱんつ忘れてたわー。
急いで「DP交換」から女児用ぱんつ(30DP――高っ)をポチる――ワザとじゃないんだよ? ホントだよ?
〈こらこら、頭に被るもんじゃありません!〉