おはなし
年の頃はだいたい7、8歳くらいか?
人形のように均整の取れた、それでいて丸みのある肢体。 ウェーブを描きながらゆるやかに広がる長い髪は、元の姿の翼を思わせる。
まだ眠いのか、大きめの目は半目であり、けだる気に右手で目をこすっている。
――さすが異世界! ドラゴンだけでもびっくりなのに、人化までしちゃうんだー。 俺はロリコンじゃないから、幼女の裸を見たって平気だぜー。
とか下らない事を考えてたら、いつの間にか幼女が部屋の中に入って来ていた。 そしてそのまま真っ直ぐ俺の方へぺたぺたと歩いてくる。
まあ、この部屋には俺しかいないから他に用事があるとも思えないのだが――。
幼女は俺の目の前まで来ると、指を咥えてコッチをじーっと見上げてる。 何? 何なの?
そして幼女の口が動いた。 何か話しかけて――
『おにくー!』
――こ、こいつ――頭の中に直接だと!
その言葉と共に俺の身体が勝手に反応する。 俺の内から何かが引き出されるような奇妙な感覚と同時に、俺の右手側、空中に魔法陣?が浮かぶ。
そしてそこから何か大きな塊が現れ――床に落ちたのと同時に「ドサッ」という音――空気の振動――を感じた。
―〈熟練度が規定値に到達――スキル【振動感知】から【音声認識】が派生〉―
まただよ。 まあ今は置いておこう。
現れた物体を確認すると、何か棒状のものが突き出て――骨か? 先ほどの幼女の“言葉”からするとどうやら大きな肉の塊のようだが、何の肉だろう? 象の太ももよりも大きいんじゃないかな。
幼女は、そんな自分の身体程もある肉の塊を無造作に掴むと、その重さを微塵も感じさせない足どりでズルズルと引き摺って元居た部屋へと帰っていく――。
野性味溢れるというか、なんというか、マンガみたいな理不尽さを感じる光景だ。
部屋に帰った幼女は、光と共に再びドラゴンの姿に戻ると、おもむろに肉に齧り付き、あっという間に骨だけにしてしまうと、満足したのかそのまま眠りについた。
後に残った骨は、しばらくすると床に沈み込んで消えてしまった。 便利だわーダンジョン。
 ̄l ̄
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さて、いきなりのドラゴン登場でテンパってしまったが、現状把握だ。
まずは、〈ステータス〉っと。
…………
あれ?
何も起こらない? こう……半透明なプレートとか、頭の中に文字が浮かぶ、とかさー?
もういっちょ! 〈ステータス〉――
…………
え~っ……いきなり詰んでないかコレ?
せめて俺が“何に生まれ変わった”のかを確認したかったんだが……
種族特性か何かで使えないんだろうか? でも、さっき幼女の言った言葉――【念話】っぽかったが――がちゃんと分かったので、【異世界言語】は仕事してるようだし、さっきからポンポン生えてるのも含めて、どうやら受動型スキルは使えるようだ。
となると、能動型スキルの場合、使うための条件を満たしていないんじゃないのか? 真っ先に思い浮かぶのは、音声出力が必要ではないかということだ。 スキルの行使を“天”なり、“神”なりに伝える必要があるんじゃないかと推察出来る。
――こんなことなら、あるかどうか分からんけど【無詠唱】とかも貰っとけばよかったなー。
こんなこともあろうかと~、なんて都合のいい話も無さそうだし、【異空間収納】とか仮に使えても、出し入れする為の“手”が無いからしょうがないとして、本命の【ゴーレムマスター】なんか、今使わずにいつ使うんだよ!
まあ、今はどのみち保留するしかない。
 ̄l ̄
 ̄l ̄
あれから数回、ドラゴン=幼女は俺のいる部屋に来ては肉の塊だけ持って帰るという日常?を繰り返している。 当然、まっぱのまんまである。
今更ながら、ダンジョンコアって超受け身だよな。 ダンジョンマスターの意思が働かないと自分では何も出来ないとか。
――俺はこのままここでお肉を出す機械として生きていくんだろうか……はあ。
『おにくー!』
それにしても、毎度毎度、肉ばっかりで飽きないんだろうか、しかも生!
――これ焼いて塩コショウ塗すだけでも相当旨そうなんだけどなあ。
とか考えてたからなのか、何かが引き出される感覚にいつもと違うものを感じたかと思うと――。
ドサドサドサッ
魔法陣から出てきたのは、俺がイメージしたまんま――サイズも大人が手に持って食えるぐらい――の串焼肉だった。 イメージ通りなら、熱々でちゃんと塩コショウが塗してあるはずだ。
ただ、総量は幼女が決定しているのか、大量に出てきた。 あー、俺も一つぐらい食いてーなー。
幼女もびっくりしてるし――けど相当いい匂いがしてるんだろう(俺にはわからんが)――おい、よだれよだれ!
――あれ? この場で食べるのかな? 火傷に気をつけろよ……お、ちゃんとフーフーしてるな――ってそこら中の小石やなんかが吹っ飛んでる!?
あーん――あ、かわいい牙みっけ!
ガブ!
見た目に反して豪快に肉にかぶり付いた幼女は、目をまん丸に見開いてしばし固まった後、思い出したように口を動かして飲み込んだ。 そして、何故かキラッキラした眼でコッチを見てる?
そのまま、山と積まれた肉を次から次へと口へ運び、あれよあれよという間に平らげてしまった。
今は名残惜しそうに手をぺろぺろと舐めてるんだけど……。
いやあ、元が元だけに収まるところに収まってるんだろうけど、その小さい身体のどこに入ったんだよとツッコみたくなる。 お腹もぽっこり膨れたりしないのが実に不思議だ。
『おいしかったー』
――そっかー、よかったなー。
無邪気な笑顔を向けられると我が事のように嬉しくなるな。
てか、肉焼いちゃったのって俺なんだよな……たぶん。
――って、あれ?隣に戻らないの?
『うん おいしいおにくくれたから もっとおはなししよ?』
お・は・な・しだと!
――え、俺の考えてること聞こえてたのか?
『うん』
―〈熟練度が規定値に到達――スキル【念話】を取得〉―
……もう好きにして。
まあいいや、今は目の前のコレをどうにかしないと……
〈あー、えーと、お話出来るなら是非お願いしたいことが――〉
―〈熟練度が規定値に到達――スキル【音声認識】【念話】【異世界言語】が【意思疎通】に進化・統合されます〉―
ぬおーっ、色々言いたいことは山積みだけど、会話の途中なんで無視無視!
『えっちなこと?』
ちょ? いや、どんな意思が疎通しちゃってるの?
まっぱでうろうろしてる幼女にだけは言われたくないんですけど――って意味分かってないのね。
〈ふ、服を着て欲しいんだけど〉
『ふく?』
服が分からないのかな?
〈何か身体を隠すものを身に着けてってことなんだけど、わかるかな?〉
『んー、よくわかんないからだしてー』
――って、きちんと指定して貰わないと勝手には出せないでしょうが――って、
―〈マスター権限の委譲が申請されています ハイ/イイエ〉―
はい?