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覚醒


 醒めない夢を繰り返し見たような、なんとも言えない疲労感、例えるならそんなものを感じつつ、ゆっくりと目が覚めていくのを自覚する。 ちょうど、深い海の底から浮上するような不思議な感覚とともに意識が覚醒していく。


 ――覚醒――って、あれ?


 目の前は真っ暗――いや、眼が見えてない――って、瞬き出来ない!?

 音も聞こえない――身体を伝わる心臓の鼓動さえ感じられない――全くの無音。

 話も出来ない――ってより口が開かない――口、あるよな?

 って、呼吸は?――してない、出来ない?――鼻もない?

 手足を動かすどころか一切の感覚が無い。


 ひょっとしてコレ、さっきの続き(・・・・・・)なんじゃ――こうして思考してる意識はあるが、生命体らしきものが何一つ感じられない。 まさか、全身まひの植物状態で生き返った(・・・・・)とか?


 ――いや。


 身体の奥で何かが蠢いている――というか、グルグルと掻き混ぜられているような――そんな奇妙な感覚がある。

 どうやら俺の五感――どころか全ての感覚――は全滅してるっぽいが、まるで初めから「そういうもの」だと分かっているとでもいうように、不思議と落ち着いていられるのは、この奇妙な感覚があるからなのだろうか?


『知性のある生命体』――(あいつ)は確かにそう言ったはず……


 せめて周りの状況が分からないことには……と考えたところで脳内――と言えるか分からないが――に映像が浮かんだ。

 ワイヤーフレームで構成された3DCGのような立体映像だ。 何故かゲームっぽく感じるのは前世の記憶や知識が反映されでもしているのだろうか?

 とにかく周辺の様子らしいものが映し出される。


 ――部屋?


 岩のようなゴツゴツした壁に囲まれた狭い空間を真ん中から見ているようだ――ってあれ? 360°全部見えてる?


 壁の凹凸なんかの細かいところまで意識出来るのは、今見ている“正面”のみだけど、意識を向ければ前後左右上下全てが――下は床?か何かがあって見えなかったが――見渡せた。

 ボーっとしてても目の端で何かが動けば分かるように、“後ろ”や“真上”でも動きがあれば、即座に気付けると言えば分かりやすいか。


 首も眼も動かせない――というか在るかどうかも怪しい――けど、どうやら「視る」ことに関してはなんとかなるようだ。


 この視点って動かせるのかな?


 試しに前方の壁に近寄るイメージを――お、動ける?

 意識を緩めると元の位置へ戻るみたいだが、スーッと滑るように――歩くとかの生物的な動きじゃなく――前方へ移動できる。

 幽体離脱――したことないけど――ってこんな感じなんだろうな。


 ふと“後ろ”に何かが見えた。


 振り返る――といっても“後ろ”に意識を向けるだけだが――と部屋の中央に台座のような柱が立ち、その上の球体を支えているのが見える。

 結構大きく――体感で直径60cmぐらいはある――見た感じ表面はかなり滑らかで、ピカピカに磨かれた金属球や、水晶玉といった印象だ。


 じっと見てると少し疲れを感じる? ふと気を抜くと、視点は球体の中に吸い込まれてしまった。

 俺の視点はどうやらこの球体を中心にしているようだ――ってつまりこれが俺ってことか?


 狭い部屋、その中央に鎮座する球体――コア?

 思い浮かぶのはゲームなんかでよくあるダンジョンコアというやつなんだが……もし俺がダンジョンコアだったとすると、あいつの言うことが正しければ、生命体で知性を持ってるということになる。


 この世界のダンジョンは、ダンジョンコアという知的生命体が作っているということか……

 ともかく、俺の“新しい生”はどうやらダンジョンコアとして送ることになったらしい。


 ――って、えーっ!、マジでかー? そりゃ確かに『俺のままで居られるのならどんな生命体でもいい』とは言ったよ? 言ったけどさー?


   ̄l ̄(__∞__)

       ̄l ̄(__∞__)


 落ち込んでても仕方がない。

 ここがダンジョンコアの部屋だとすると、近く――というか隣――には「ボス部屋」があって、そこには「ボス」が居るはずなのだ。


 部屋の外はどうなってるのかな――っと、よくよく見れば“正面”の壁の一部が透けて“向こう側”があるように見える。

 そもそも、ワイヤーフレームで3DCGっぽい視覚って明らかに「眼」で見てるんじゃないよな?


 だとすると、この脳内映像は……


 俺は意識して脳内映像を「縮小」してみる――ビンゴ!

 俺を中心にダンジョンの全体像が半透明の立体映像として映し出される。

 つまり、俺が今見ているのはゲームでいうところの「マップ画面」ということだ。


 でもなー、部屋?が3つしかないんだよなー。

  ①ダンジョンコアのあるこの部屋

  ②隣接する広い部屋

  ③この部屋の向かい側にある小部屋

 そして向かって右側に伸びている外?へ向かう通路だ。


 “外”は見えなかった。

 つまり、このマップ画面はダンジョン内――コアの支配が及ぶ領域――しか見ることが出来ないというわけだ。


 で、隣の広い部屋――ちょっとした講堂ぐらいの広さがある――の中心に黄色の光点が見える。 ますますゲームっぽいな。 でも、生物的に色を感じられないのかと心配してたが、そうでなくて安心した。


 意識するとズームしていき、部屋の中の様子が映像として脳内に映し出される。

 部屋の真ん中には小山があった――っていうかこれ、アレだよな?


 蛇を思わせるような滑らかな鱗に覆われた大きな身体、鋭い鉤爪のついた手足、長い首、額から伸びる長い角を持つ顔は、意外と恐ろしくはなかった。

 そして、体長の半分近くある長い尻尾と、蝙蝠のような被膜の張った大きな翼がある。


 ――ドラゴン!


 どうやら寝ているようだ。

 なんか一気に異世界に来たんだという実感が――これ、人間でいるうちに感じたかったわー。


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