第3話 女王の御髪
イージャンたちは、四階にある貴賓室の一つに通された。
この部屋は、それほど広くはない。床に、金色の刺繍が入った赤い『織敷き』(絨毯のようなもの)。その上に、茶色の細長い卓とそれを挟んで椅子が三つずつ並んでいる。これで、手狭ではなく、ゆったりとした感じを受ける程度。
卓には、縁に銀の刺繍が入った白い卓布が掛けられている。その真ん中に花瓶が置かれ、赤と黄色の花が生けられていた。そして、青白い茶托に乗った湯呑が二つ。今、給仕の女性が、土瓶を傾けお茶を淹れている。
壁には、大人がすっぽり映る程の金縁の姿鏡。その隣には絵画だ。大きさは鏡と同じくらいあり、王宮のある丘の風景を写している。調度品は他にもあるが、これらの皆、細かな模様や彫刻といった、豪華そうな装飾が施されてあった。
広くはないが貴賓室と呼ばれるだけあって、色々と高価なもので固められた部屋だ。しかし、三階と同じく派手派手しさはなく、また落ち着いた優雅な雰囲気を感じさせる。そんな部屋でもあった。
「こつ、こつ」
窓は一列のみ。扉とは反対側の壁に並ぶ。そこを日の光がを照らし、屋外にいるくらいには明るい。レイセインが、既に腰を下ろしたイジャーンの背後で、その窓の間にある壁を叩く。
「…………」
(この響き色からして石ね。中に何か仕込まれているという事はない。厚さは、私の腕くらいか……。この程度なら、イージャンの剣撃で吹き飛ばせる。ま、それより窓を蹴破ればいいんだけど)
彼女は、窓から外を見下ろす。そこに見えたのは、人で溢れる先程の玄関ではなく、この商館の二階ほどの高さがある外壁。そして、隣の建物との間に出来た隙間だった。しかし、そう言うには幅広く、外壁まででも馬車の往来くらいなら出来そうだ。
しかも、玄関とは違い、ひっそりとしていて人の姿はなかった。窓や石の破片が落ちても、下にいる人に危険が及ぶ可能性は低いだろう。
(うん、いける。これなら、飛び降りられるわ。人が居たとしても避けられる。破片も剣撃で、この部屋に向かって吹き飛ばす。これで、牽制にもなるし、下を通る人がいても、その破片が当たって怪我って事もないでしょう)
彼女は、確認を終えると、イージャンの隣にある椅子を引き、並んで座る。剣は自分の腿に立て掛けた。丁度その時、給仕の女性もお茶を淹れ終わった。
「失礼致しました」
そう言って、女性はお辞儀をして退室する。二人の前には、湯気の上がる湯呑が二つと、土瓶。イージャンは、走ったのもあり、喉が渇きを感じていた。待つのに手持ち無沙汰なのもある。湯呑みへと手を伸ばした。
「ちょっと待って、イージャン……」
「ん?」
レイセインに腕を掴まれ、不思議そうに顔を向ける。
「レイ、どうした?」
「いい……? ここで出されたお茶とかは……。一切、口にしちゃ駄目……」
「え?」
それを聞いて、眉を顰める。
「いきなり、どうしたんだ? 何故、飲んだらいけない?」
「…………」
(あなたが、狙われているもしれないから。と、言ったらややこしくなるわね。ここにしか、あの宝石はないみたいだし)
「いいから……」
レイセインは、そう言うだけで説明をせず、無理矢理押し通す。
「わ、分かった」
(慎重だな。ここなら別に、そこまで気にしなくてもいいとは思うんだが……)
貴族街にある商館。帯剣まで出来ている。ただ、
(――ああ。確か苦手だったよな、こういう所で出るものは。知らない人間は、全く信用しないから。とはいえ、俺までそれに従わなくても――)
しかし、付き合ってもらっているのもある。そこまで喉も乾いてないし、まあここは素直に従っておくか。そう思い、イージャンは伸ばした手を引っ込めた。
**********
「ふっふっふっ……」
どこか悪企みを感じさせる低い声。その声の主ドアンキは、赤い織敷きが敷かれた廊下を歩き、二人がいる部屋へと向かっていた。
両手には、そこに収まる程度の四角い箱。金細工で縁取られた茶色の箱だった。上が折り畳み式の蓋となっており、後ろとなる面に蝶番が見える。そして、前面には鍵穴があった。
彼の後には、男性が二人。その内の一人は、蝋燭を刺した枝が三つ伸びている燭台を持っていた。三つとも、火は灯っている。もう一人は、お腹の辺りにお盆を両手で持ち、その上に丸っこい白の土瓶を乗せていた。この土瓶は、注ぎ口の反対側に輪になった取っ手が付いている。
そして、この三人の後に、全身鎧の衛兵が数人続く。高価な宝石を運んでいるのため、護衛としての付き添いだ。その彼らを引き連れながら、ドアンキは考えを巡らせていた。
「…………」
(ふん。さっきは驚いてしまったが、恐らくあの男は女王の御髪の価値を知らない。だから、あんなにも簡単にその名を出したのだ)
イージャンが三階に現れた時の事を思い出す。場に不慣れな感じで、よそよそしさがあった。あれは、間違いなくど素人の動き。ひょっとすると、宝石すら買った事がないのではないか? 武人の類は、そういった傾向がある。
ドアンキは、自分の経験則からそう導き出した。これは正解だ。彼は宝石を買った事はない。
「しかし――。全くもって忌々しい事だ……」
その言葉通り、顔を苦々しく歪める。
「まさか、あんな男なんかにも、見せることになろうとはな」
(だが、まあいい……。これで、間違いなくあの女の前で、赤っ恥を掻かせてやれる。そして、己の愚かさを惨めに思い知るが良いわ!)
この策は絶対上手くいくと、自信満々の笑みで歩みを早めた。
ちなみに、彼が考えた策はこうだ。宝石を見せて、その美しさにレイセインが虜になったところで金額を伝える。その金額に唖然とさせ、自分では分不相応である事を知らしめる。そして、その宝石は買えないと、彼女の前でイージャンに言わせる。これが、彼の思い描いた策略だった。
酷く狼狽もする事だろう。その情けない姿を、彼女に見せつけ面目を潰すのである。しかも、彼女の方は、この宝石がもう自分の物になると思っているはず。しかし、そうはならない。すると、怒りの矛先はイージャンに向く。剣突を食らわさせた挙句、最終的には愛想が尽きて別れさせる事も出来る。そう考えていた。
「ふっふっふっ……。見ておれよ……」
怪しい笑みが浮かべ小さく呟くと、力強く小箱を握りしめた。しかし、残念ながらこの策では、どうやっても愛想を尽かさせることはできない。それは明白である。イージャンは、シビアナのために指輪を買いに来たのだ。そして、レイセインは友人。
元より、二人の性格がどの様なものかも知らない。確かに、買えなくて怒るかもしれないが、素直に諦める可能性だってある。だが、大丈夫。これだけではない。彼の策略には、更にその先があるのだ。
「ふー……」
しばらくして、一同は歩みを止める。二人のいる部屋の前に着いた。ドアンキは息を吐き出し、扉を睨み付ける。
「…………」
(遂に来たな……。シビアナ様。どうかお守り下さい。そして、我が願いを――!)
彼は、今度こそ、自分の崇める神に祈りを捧げる。それから意を決し、扉を数度、軽く叩いた。
**********
(来たわね――)
ドアンキたちが足を止める少し前。レイセインは、廊下に面した壁に視線を向けた。音を見るためだ。
「…………」
(足音の数は――。九人――、ね。小さくて見えにくいけど、これで合ってるはず)
彼女は音を見る。ただ、その音は、壁のような遮蔽物があると聞こえ辛くなる。それと同様に、見える音色も、小さく薄くなり見えにくくなってしまう。
(うーん。一人はさっきの商人だとして、残りは護衛かしら? 重い色をしているから、鎧を着ているわね。でも、その内の二人は軽い。こっちは着てないかも。
ま、どっちにしても、カトゼのような達人の足取りじゃないわ。慎重さが足りないもの。それであの人数なら、窓や壁を壊さないでも何とかなるか。イージャンもいるしね)
だが、油断はしないと、気を引き締めた。
「失礼致します」
扉を叩く音が数度聞こえると、ドアンキのくぐもった声が聞こえ、その扉がゆっくりと開かれた。
「お待たせしました」
お辞儀を終えて見せたその顔は、先程までのもとは違う。普段通りの愛想笑いを浮かべていた。
「遅くなり申し訳ございません。この宝石は、厳重に保管しているものですから」
イージャンとレイセインは頷いて答えた。夕方になると商館は閉めらる。その後で、陳列台に並べた宝飾品を、地下にある幾つかの金庫に分けて戻していた。
また、ここには普段表に出さない、宝飾品もそのまま入っている。それらは皆、お得意様用の高価な品ばかり。しかし、女王の御髪は、それらとも別だ。館の主であるドアンキしか知らない、秘密の場所に保管されていた。
「それでは、ご用意致します」
そう言って、イージャンたちの向かいの席に、ドアンキは歩いていく。その後に入って来たのは二人だけ。燭台を持っている男性と、お盆に土瓶を乗せた男性だ。残りは廊下で待機している。
ドアンキが卓の上に小箱を置くと、二人の男性も燭台とお盆を置いた。だが、この二人は扉まですぐに戻っていく。そして、お辞儀をすると退室していった。
(うん、いいわね。これならどうとでも出来るわ)
武力制圧ならばと、二人が出ていくのを見て、レイセインは少し安心出来た。
「さて――」
ドアンキは懐から鍵を取出し、小箱の鍵穴に差し込んで回した。そして、蓋を開ける。出て来たのは、赤い宝石が嵌った金色の指輪。それが、箱の中にある中央にできた横筋の隙間に挿し込まれていた。宝石は、爪くらいの大きさで丸い粒。その表面には、小さな面が幾つもあり、見方によっては角ばった花弁のようにも見える。
「…………」
(これが、女王の御髪――)
イージャンは、日の光に照らされ輝くその宝石を、まじまじと見つめる。レイセインも同じく見ていたが、
(ん? これって――)
不意に首を傾げた。そして、
「緋穂?」
(に見えるんだけど……)
そう尋ねた。彼女は、宝石にあまり興味はないが、緋穂は以前手に取って何度か見た事があった。その記憶にあるものとよく似ていたため、疑問に思ってしまったのだ。すると、ドアンキが口を歪める。
「ほっほっ。お分かりですか」
(ほう、よく分かったな。この女、多少はやりおる)
彼女の記憶は正しかった。これは緋穂だ。偽装用の。女王の御髪と同じ赤い宝石のため、一緒にして保管されている。
ドアンキしか知らない秘密の場所にも金庫はあった。その金庫は、手前と奥が鉄板で仕切られており、奥に女王の御髪を入れて隠し、手前にこの緋穂を置いている。
「何故、緋穂を……?」
レイセインが尋ねる。
(まさか、偽物として売り付けるつもりだったんじゃあないとは思うけど)
すると、ドアンキが、商人らしく失礼にならない程度に抑えて、少しだけ面白そうに笑顔を作る。
「これは、女王の御髪と見比べて頂くために、お持ちしたのですよ。緋穂と一見似ておりますので」
「そう……」
(半分嘘ね……。でも、何をしたいのかまでは、分からないわ。本当に売り付けるつもりだったのかしら? いえ、ないわね。女王の御髪は色が変わるらしいから、誰でも一発で分かるでしょう。だとしたら、別の事か)
その別の事とは、一種の牽制だ。軽く挨拶代りに、といったところ。
「…………」
(ふふ……。どうだ? 間違えて多少は焦ったか?)
ドアンキがイージャンの顔色を窺う。だが、当の本人は、「何だ、違うのか」くらいにしか思っていない。特に気にしていなかった。ドアンキにもそれが分かったのか、少し不機嫌になる。
(ふん、まあいい。本番はこれからだ)
「では、お二方。本物をご覧に入れましょう」
再び懐に手を伸ばす。すると、同じ様な小箱と鍵が出て来た。その鍵を小箱に使うと、卓の上にあるもう一つと並べるようにして置く。そして、焦らす様に、ゆっくりと蓋を開いていった。
「東都よりさらに東――」
箱の中が徐々に見えてくる。それに釣られて、イージャンとレイセインが目を凝らす。
「『六壬境羅』にて、奇跡的に発見された珠玉の一品――」
六壬境羅は、東都の東に広がる密林地帯だ。非常に深い森で、樹海とも呼ばれていた。
「――それが。この、女王の御髪でございます」
箱の蓋が後ろまで開き、中身が全て見える。そこに現れたのも、それは果たして赤い宝石だった。その大きさも指輪も金色で、緋穂の方と同じように見えた。
「これが、女王の御髪……」
イージャンがじっと見つめる。
(この赤い宝石が、有名なのか……)
いまいちピンと来ないが、高そうだとは感じた。その間に、レイセインが二つの宝石を交互に見比べる。
(うん。確かに、ぱっと見だけなら、隣にある緋穂と同じね。大きさも表面も、殆ど変わらないわ。でも――)
「全然違う……」
「はい。同じ赤でも美しさが違いますな」
ドアンキが、当然のように答える。
「ええ……。その通りね……」
(驚いた。まさか、ここまで差があるなんてね……)
レイセインは感服していた。少しでも見比べれば、その違いは一目瞭然だと断言できる。いや、例え見比べなくても、女王の御髪は他のどの宝石より美しいと思えるだろう。それほどまでに、歴然とした差があった。
この緋穂は、赤色がほんのり薄く色も単一に近い。対して、女王の御髪は、表面に艶があり深い赤を基本としている。だが、深い赤はあくまで基本。桃色から朱色、真紅と、明るいものから暗いものまで様々な赤が、部屋に差し込んだ日の光に照らされ、無数に輝きながらその内に散りばめられていた。
「…………」
(見事だわ。本当に綺麗ね……)
宝石に詳しくない彼女でも、惹きつけてしまう何かが、確かにそこにはあった。
(うーん、でもこの感じ――、似ているわ……)
今と同じような体験に思い当たる。それは、自分が一番お金を掛ける物――一番好きな物に見惚れている時。視線がイージャンの剣に移り、すぐに戻る。
(まるで、業物の刀剣でも見ているみたいね……)
彼女は、古今東西あらゆる武器が好きだ。感じている気持ちは、その中でも気に入った品を見ている時に近かった。
(一度目にすれば、その目を離せなくなるようなあの感覚……。ずっと眺めていても飽きない。まあ、どちらも一流品。何か通ずるものがあるのかもね)
興味津々で眺めるレイセイン。ドアンキが、愛想笑いのまま顔を向けた。
(ふふふ……。いいぞ、この美しさに魅了されるがいい。しかし、貴様のものには、決してならないがな!)
「さて、それでは色の変化を見て頂きましょう」
自分の策は、予想以上に上手くいっている。内心そうほくそ笑みながら、イージャンたちの背後に歩いていく。そして、窓の端に束ねられた窓掛けを、引っ張って広げた。
すると、日の光が少なくなり、窓掛けの影が卓の上を薄暗くする。だが、その分、蝋燭の灯が辺りを明るく照らした。
(暗がりか……)
視覚を奪ってからの襲撃。レイセインは、用心のためその暗がりを利用して、ドアンキに見えない様、自分の剣に手を掛けておく。そのドアンキは、気付いていない。蝋燭の光は十分だと確認して席に戻り、燭台を手に持った。
「これで、蝋燭の火を近づけますと――」
蝋燭の火が、女王の御髪に近づいていく。すると、変化はすぐに起こった。
「おおー……!」
(すごーい! 初めて見たわね)
赤色が緑色へと徐々に変わっていく。それを目の当たりにして、レイセインが声を漏らす。そして、イージャンはその様子をじっと眺めていた。
「…………」
(なるほど……。ステライ様が仰っていた通りだな)
二人は、そのまま女王の御髪を、しげしげと見続ける。少しずつ、緑の割合は増えていった。もう既に、八割以上は緑色。しかし、いつまでも一色にはなりきらない。溶け合わない油と水の様に、緑に赤が少し混じったような色合いで、変化は止まったように見えた。
「ここまでですな」
ドアンキが、近づけた燭台を遠ざける。
「真っ暗になれば、もっと緑色になるのですが。しかし、この部屋だと、どうしても日の光がありますので」
「へえ……」
(けど、別にこの色でも良いわね。色合いが溶け合って綺麗だわ)
レイセインは、ほぼ緑となった女王の御髪を眺める。先程と同じく様々な緑色に赤が少々。それが、蝋燭の灯で輝いている。
「では、次はこちらです」
彼女の相槌を聞いて、今度は土瓶の方へと燭台を近づける。この土瓶の中には、透明感のある茶色の油が入っていた。そして、注ぎ口には、その油が染み込んだ紐が、少しだけ飛び出ている。
これは、『燭瓶』(オイルランプ)と言うもの。紐の先に火を灯して、辺りを照らす道具だ。ドアンキは、この燭瓶の口から出ている紐に蝋燭の火を近づけ紐に当てる。すると、蝋燭のような火が黄色く灯る。
「ん?」
(何か匂うな?)
イージャンが違和感を覚え、すんすんと鼻から息を吸う。
「ああ……」
(これって――)
毒の可能性。相手はその耐性があるかもしれない。レイセインは、匂いを感じた瞬間、息を止めていた。だが、それだけで、その匂いの正体が分かる。それをドアンキが答えた。
「この中にあるのは、『緑霞香』と呼ばれる油でして。火を着けると、こうやって香りがします」
「ああ……。香油か」
「はい」
イージャンは、納得したように頷く。緑霞香は、ある植物の種子から採れる油だ。森林の中にいるような清涼感のある香りがある。そのため、蝋燭のような日用品と言うよりも、彼の言う通り香油や香水として用いられることの方が多い。ただ、蝋燭の代わりも兼ねて、部屋にその香りを着け楽しむ者もいた。
使われるのは、一旦火を通した物。こうする事で香りが増す。そのため、火を着けるまでこの部屋にはその香りが殆どなかった。
「一つ……。尋ねたいんだけど……」
レイセインが息を止めたまま、ドアンキに顔を向ける。
「何でございましょう?」
「その油には……、他に……、何も入ってないのかしら……?」
「はい、何も。上等な緑霞香でございます」
「そ……」
嘘はない。浅くではあったが、これで止めた息を戻す。
「では、この灯を――」
ドアンキは、燭台を少し離れた場所へ置く。そして、そこに灯っている火を三つとも吹き消した。今度は、燭瓶を手に持って、女王の御髪へと近づける。
「おおー……」
レイセインが、先程と同じような声を漏らす。色が変わっていく。今度は、緑の部分が黄色へすうっと入れ替わっていった。これも黄色一色にはならない。赤が若干混じっている。だが、先と同様、美しい輝きを放つ。
「こちらも、ここまでですな」
ドアンキは、火を吹き消して燭瓶を置いた。
「ご説明は、以上となります」
この終わりを告げる一言で、いつの間にか集中していたと気付く。イージャンとレイセインは、緊張を解くように息を吐くと、体が緩んだ。
ドアンキは、もう一度二人の背後にある窓へ。窓掛けを引き戻して束ねる。すると、日の光の差し込みが増し、部屋の明るさも戻った。
「窓も……。少し開けてもらって……、いいかしら……?」
「窓ですか?」
念には念を。レイセインが頷く。
「ええ……。この香り少し……、苦手で……」
「おお、これは申し訳ございません。すぐに」
「ありがとう……」
ドアンキが窓を開けていく。その間にも、女王の御髪は、色が戻っていく。そして、窓を開けて、席に戻った頃には、最初に見せた赤色となった。その様を見終えて、
「ふう……」
(この商人の事はともあれ――。中々、面白い経験をさせてもらったわね)
レイセインは嘆息を漏らしながら、窓から入ってきた外気のそよ風を首筋に感じる。これで、息も普段通りに戻した。
「ほっほっほっ。如何でしたか?」
二人の前に戻ったドアンキが自慢げに笑う。そして、笑い終えると、優雅にお辞儀をする。それから一言伝えた。
「これが、女王の御髪でございます」




