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~伴奏 イージャンの指輪物語~  作者: 粟生木 志伸
第一章 受難の始まり
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第14話 黒薔薇騎士団の団長

 観覧席にいる三人。少しの間、踊りの成功に沸く近衛騎士を眺めていた。


(本当に有り難いな……。しかし、すみません隊長)


 感謝の言葉を直に伝えたかったが、それが出来そうにもない。申し訳ない気持ちになった。自分は急いでいるのだ。宝石商に行かなければならない。


 丁度、話も途切れた。これはこの場を離れる好機だ。


(よし、それじゃあ――)


 彼はその旨を伝えようと、口を開こうとした。


「しかし――。寂しくなるな……」


 だが、また狙い澄ましたかのように。その言葉が出るのは遮られた。にこやかだったゴトキールの表情が、急に暗く陰りを見せる。


 呟いたその姿は、どこか哀愁が漂うものであった。それは、大志を抱いた少年が大人になり、どうしようもない現実にぶち当たって自分の限界を知った時。その志を諦め、己自身にそれを告げる姿によく似ている。


「~~~~~!」


(くううう~~!)


 イージャンは内心、我慢できず唸った。握った拳にも力が入る。急いでこの場所を離れたかったが、しかし答えない訳にも行かない。そういう男である。諦めて「はあ……」と、溜息を吐くと握った拳の力を緩めた。


(この生真面目――!)


 それが分かってレイセインは、ジト目で睨む。


「た、隊長……」

「ん?」

「その――。寂しくなる、とは……?」

「え? ――ああ、すまんすまん」


 ついつい口に出していたか、と弱々しい笑顔を作る。その笑顔がレイセインにとっては、非常にわざとらしく見えた。


「あー、実は――。ちょっと、先の事を考えてしまってな」

「先、ですか?」

「そうそう……。あの踊りは、お前たちの結婚式を盛り上げるため。そのために、ここまで皆頑張って来たわけだろ?」

「は、はい。ありがたい事です……」


 こう何度も言われると、何だか照れてくる。

 

「だが、結婚式が済めば、それも終わり――。そう思うとな……」

「そうでしたか……」


 ゴトキールは、結婚式の後に思いを馳せていた。それは、祭りが終わった後に感じるような切なさ。嬉しそうに笑い合っている近衛騎士たちを眺めていて、ふとそういった感傷を抱いてしまったのだろう。


「おっと、いかん。暗くなってしまったな」

「いえ。そんな……」

「いやいや、祝いの席を盛り上げるための踊りなのに、これでは駄目だ。――よし! 明るくいこう!」


 自分を奮い立たせるように、気持ちを切り替えたゴトキールは、手に持った湯呑を横に置くと、その意気込みを見せるかの様に勢いよく立ち上がる。そして、観覧席の一番前にずんずんと進み、中央の舞台にいる近衛騎士たちへ向かって叫んだ。


「おおおーい! お前らああああー!」


 すると、和気あいあいとしていた近衛騎士たちは、声がした方――ゴトキールに顔を向ける。それを見て、彼は歯を輝かんばかりに見せて、二カッと笑った。


「最高だったぞおおおお!」


 やはり、一生懸命努力したものが認められると、報われた思いになる。そう言われて、彼らも嬉しそうだ。少し照れながら笑顔になったり、お辞儀をしたりしている。


 その様子を満足そうに見ていたゴトキール。だが、久方ぶりに眉間へ皺が寄ると、顔つきが真剣となる。そして、大きく息を吸い込んだ。


「これが『黒薔薇騎士団』、最後のお勤めだああああ! この調子で気合入れていくぞおおおおお!」


 最後――。この言葉が、彼らの心に火をつけた。体中に溢れんばかりの力を漲ってくる。笑顔が消え、その瞳に強い闘志が宿り、伝播し始めた。必ず、やり遂げてみせる。必ず、最高の踊りを完成させてやる。シビアナ様の為に――! 


『おおおおおおおおおおおおおー!』


 彼らは、ゴトキールに熱い思いで応える。それは、この訓練場を震わす雄叫びとなって響き渡った。間違いない。彼らは、きっと大成功を収める事だろう。その姿が、今からでも目に浮かぶようである。


「黒薔薇……、騎士団……?」


 そんな騎士団あったっけ? と、首を傾げるレイセイン。そして、その名を聞いたイージャンは、がくんと首が倒れて腰から崩れ落ちそうになっていた。両腕を膝に押し当てて、何とか持ちこたえている。だが、今までの感動は、綺麗さっぱり吹き飛んだ。


「そっちか――!」


 黒薔薇騎士団――。それは、シビアナを守る為だけに結成された、非公式の騎士団である。近衛騎士隊はイージャン以外、独身や既婚者関係なく全員が団員だ。そして、ゴトキールは、この騎士団の団長でもあったのである。


 この騎士団は、『シビアナ様を、陰日向からさり気なく守る会』という、少数の近衛騎士たちによる小さな団体から始まった。しかし、その勢力は瞬く間に王宮中へと広がり、彼女を見守ることを旨とした鋼の掟という血の盟約の元、王宮最強の結束を誇り一大勢力となる。それは、国政をも左右しかねないほど膨れ上がった。


 ここまでのものになれたのは、騎士団への入団資格に起因している。位の高い近衛騎士が所属する騎士団ではあるが、入団資格に身分は関係ない。彼女の熱烈な支持者であること。そして、男性であること。この二つだけで良かった。そのため、そう言った意味では騎士団への入団は敷居が低く、このような巨大組織になり得たのだ。


 だが、非公式であるこの騎士団の存在は、秘密結社に近い。決して表に出ない、裏の組織であった。勧誘も慎重。シビアナに対する態度、思想、信仰度合いを事前に調査し、団長が納得いくような答えでなければ、入団を許可しなかった。


 しかし、それでも黒薔薇騎士団は、破竹の勢いで大きくなり続けた。これは、驚嘆に値することである。シビアナの人気が如何に高かったか窺い知れよう。また、強固な結束で統率された騎士団は、部外者に決してその存在を口外しなかった。そして、一度入団すれば、誰一人として退団しなかったのも、その存在を秘匿できた一因である。


「ねえ……、イージャン……」

「何だ……?」


 盛り上がるゴトキール達を余所に、レイセインは何とか姿勢を立て直したイージャンに尋ねた。


「黒薔薇騎士団って……、何……?」


 その名を改めて問われ、顔が少し引きった。自分の知らない所で、妻となる女性を勝手に崇め奉っていたのが、この騎士団だ。しかも、自分以外の近衛騎士隊全員が所属。


 これを知った時は、すぐには信じられなかったし、本当に唖然とした。そして、無性に嫌な気分になったのだ。彼は、今でもその時の感情を引きずっている。


「…………」


(しかし……。レイは知らないのか……)


 どうやら彼女は、シビアナから聞いていないらしい。であれば、どう言おうか迷う。近衛騎士隊の闇の歴史。


(あまり部外者に詳しく言ってもな……)


「…………。シビアナを守る組織だそうだ……」


 もう、こう言っとけばいいだろう。彼は、簡潔に答えた。


「へえ……」


(そんなのがあったんだ……。まあ、シビアナって陛下の養女みたいなもんだものね。そういうのがあっても、不思議じゃないのかな?)


 しかし、そうなると、


「イージャンも……、入ってたの……?」


と、なる。シビアナを守るためなら、彼も必ず入っているだろうと。


「いや、俺は入っていない……」

「え? そうなんだ……」

「ああ……」


 だが、どうやら入ってないらしい。これには違和感があった。彼女からしてみると、シビアナの為ならば、入ってない方が変なのだ。そして、彼の声を聞いて、さらに変に思い始める。


(何故、嫌そうなのかしら? シビアナを守る為のものよね?) 


 改めてそう考えると、疑念は膨らんでしまう。


(やっぱり、おかしい。それに、近衛騎士が別の騎士団と兼任だなんて、聞いたことがない。怪し過ぎるわね……)


 ずっこけそうになっていたのも気になる。彼に疑いの目を向けた。


「ねえ……、イージャン……」

「ん?」

「その騎士団、何してたの……?」


 そもそも、シビアナを守るなら、近衛騎士の本分で問題ないはず。他に騎士団なんていらない。彼女の質問が、核心を突く。だが、イージャンは、もう何も言いたくなかった。なので、適当に誤魔化すことにした。

 

「さあな……」

「え……? じゃあ何で、最後なの……?」

「さあな……」

「…………」


(何よもう……、教えてくれてもいいじゃない)


 レイセインは、少し不満げだ。


(もしかして、人に言えないような裏の仕事とか? ふふっ、まさかね。そうだったら、あの隊長さんは、黒薔薇騎士団の名前を出さない。私がいるのに、そんな訳ないか)


 しかし、その考えは甘かったと、彼女は後に知ることになる。そして、ゴトキールが、イージャンには命令したのに、何故自分にはこの余興の事を、シビアナに黙っていおいてくれと言わなかったのか。この意味も知ることになるのだ。


 ただ、それは別として彼女が思った事は、正解である。黒薔薇騎士団は、秘密結社、裏の組織とはいえ、何も悪い事をしていたわけではない。始まりの名前がそうであったように、シビアナが困っていたらさり気なく助けるといった些細なもの。団員達の負担になるようなことは、何もない。自分たちのできる範囲で優遇していく。基本、これだけで良かった。


 だから、彼女に敵対するような勢力があっても、もちろん大したことはしていない。裏から手を回し、その力をほんの少しだけ邪魔をして、さり気なく削いだのが数回あったぐらいだ。あくまでさり気なく。これが彼らの流儀。組織が大きくなっても、それは不変であった。


 ただし、団員の数は多い。つまり、その数回も一回につき全団員で行う。おかげで、塵も積もれば山となる様に、そのさり気ない行為が一気に積み重なり、二度と彼女に逆らえないくらいの影響が出てしまったのはご愛嬌である。


 しかし、そんな感じで小粋な騎士団に、凄惨な不幸が襲う。シビアナの結婚である。これは、団員たちが信仰している神が、永遠に失われたと言っても過言ではない。その衝撃と驚愕の知らせにより、独身が大多数を占める騎士団は、阿鼻叫喚の坩堝るつぼと化した。


 それは、騎士団の運営が壊滅的に困難となるほど。最早、自滅自壊は必至。そうなる事は、火を見るより明らか。よって、団長のゴトキールは、騎士団の解散を決定せざるを得なかったのである。そして、黒薔薇騎士団は、結婚式の余興を最後に、その活動を終了する事になってしまったのだ。


 これは、彼らの夢の終焉も意味していた。神の消失と騎士団の解散と共に、彼らの夢も潰えてしまったのだ。それは「きっと、シビアナ様はどこぞの大貴族とでも結婚するんだろうなあ。でも、この騎士団に所属していれば、もしかしたら自分が――」そういう、高嶺の夢であった。


 だが、結局その夢は、黒薔薇騎士団に属さない、全く無関係のイージャンが掴んでしまう。しかも、彼は平民の出。これを知った時の、彼らの心情は如何ばかりであったろうか。未だに、むせび泣く声が聞こえてきそうである。


 だけど、誰か褒めてあげてほしい。彼らは、シビアナをイージャンに取られ、騎士団が解散しようとも、最後の最後まで彼女の幸せを願っている。辛くて苦しいはずのその結婚式に、あのような盛大な祝福を贈ろうとしているのだ。何と素晴らしい事か。


 ここにはいない他の団員達――王宮兵士や他の職場にいる者達は、結婚式の時間や警備の関係上、この余興には参加できないが、同じ思いであろう。きっと当日には、結婚式を盛り上げるため、歓声と応援を惜しみなく捧げるに違いない。


 そして、彼らはこれからも生きていく。失恋にも似た淡い経験をその胸に。夢から醒め、現実を直視し、今よりも前へ――未来に向かって歩み始めるのだ。頑張って頂きたい。


「うんうん、気合の入った良い声だ! ここまでよく聞こえてくるねえ! なあ、イージャン!」

「は、はあ……」


 近衛騎士たちのやる気に、ゴトキールは嬉しそうだ。そして、先程とは打って変わり、力が満ち満ちているように見える。しかし、イージャンは、なんとも言えない気持ちままだった。


 黒薔薇騎士団は、自分の妻となる女性を守る為だけに、密かに結成されていた騎士団だ。つまり、その存在を、ぶっ壊す原因となった自分は違う。シビアナだけを祝おうとしている。彼らは、近衛騎士としてではなく、黒薔薇騎士としてシビアナの結婚式を祝おうとしてるのだ。それが、分かってしまった。


 彼らとの葛藤も関係ない。その葛藤を乗り越えてこそ、というわけでもなかった。シビアナだけを祝おうというのに、自分との葛藤なんて知ったこっちゃないのだ。これも分かってしまった。とんだ勘違い。さっきの感動が台無しである。


 ちなみに、イージャンと近衛騎士たちの葛藤も、彼が思っていたようなものはない。近衛騎士たちは、別に認めていない訳ではなかった。むしろ、その腕を初めから認めている。確かに強いと。次の副隊長は、イージャンで決まりだろうと。


 彼は気付かなかったが、この対立は単にシビアナである。自分たちが、神と慕って信仰している女性と、仲良かったから。おまけに、結婚まで漕ぎ着けるし。腹が立ってしょうがない。決闘もこれが原因だ。「何で、こいつがシビアナ様とおおおお!!」と、まあこんな感じである。もてる男は辛いのだ。


 そして、彼にこの余興をばらした本当の理由も、ここにあった。別に、いつでも良かったのだ。イージャンだけなら何の問題もない。彼らの本命は、あくまでシビアナ。彼女にさえばれなければ、後はどうでもいい。これが、彼らの本心であった。だが、忌々しい事に、彼がいるとそのシビアナが、忙しい合間を縫って尋ねてくる。これは危うい。見つかってしまう。


 それに、練習を中断しなければならなくなるし、そうでなくても、いつ来るかとずっと冷や冷やしっぱなしだ。これでは、専念できない。だから、彼を避けるように稽古をしていた。そして何より、彼のその口から、シビアナに知られてしまうのを、彼らは一番恐れた。


 そのため、出来るだけ内緒にしておきたかったわけである。そして、その出来るだけ、というのが初の合同練習である今日だった。こういう理由で、ばらされたのだ。


「いやあ、あいつらの情熱には、頭が下がるよ。はっはっはっ」


 近衛騎士たちに手を振って、ゴトキールがイージャン達の元へ戻ってきた。


「ま、姫様には、また怒られるかもだが、これもけじめ。ちゃんと、やらないとな」

「…………?」


(怒られる……? って、殿下に何したの、この隊長……)


 レイセインは、事情を知らないから、仕方がない。瓦解寸前まで結束が弱まっていたのが、最大の原因であろう。実は、闇の結社であるはずの黒薔薇騎士団は、既に部外者へとその存在が明るみ出ていた。


 事情を知る事になった者は限られたが、解散を決めたその直後に、運悪くリリシーナ王女にもばれてしまったのだ。この時は、とても怒られた。何考えてるんだと。


 特に、近衛騎士隊の面々が集中的に怒られた。だが、これは当然。彼らは、王族の身辺警護を担当しているのに、王女を守ると見せかけて、常にシビアナを第一に守っていたのだ。王女を第一に考えない彼らがいけない。ちなみに、イージャンが、黒薔薇騎士団の事を知ったのもこの時だ。


「けど、姫様ってこういうのお好きだから、喜んで下さると思うんだがね。それに、これからは我らの姫様は唯お一人、リリシーナ様だけなるわけだし、大丈夫だろ」

「は、はあ……」


 何がどう大丈夫なのか、その理屈がイージャンにはよく分からない。


「はあ……。でもなあ――」


 ゴトキールは、不満げに溜息をつく。


「うちの姫様って、滅茶苦茶強いんだもんなあ……。ホーント、守り甲斐がないよねえ……。お前もそう思うだろ?」

「い、いえ。決してそのような事は……」

「はっはっはっ! 隠すな隠すな」

「いえ、本当に思っていないのですが……」


 しかし、イージャンとは違い、他の近衛騎士たちは欲してしまった。自分達を頼りにし必要としてくれる、か弱く美しい王女を。彼らは憧れていたのだ。悪党に攫われた姫君を、格好いい騎士が助ける冒険活劇。その物語に出てくる王女と騎士のような関係に。


 いいなあ。いつか、俺もああやって――。彼らは、そんな少年が抱くような夢を持ち続け、物語に出てくるその騎士に思いを馳せていた。だがそれは、その夢に一番近いはずの近衛騎士になった途端、呆気なく砕け散る。


 分かってはいたのだ。この国の王族が、異常に強いと言う事は。だが、まだ幼さも残る姫君だ。そこまで強くはないだろう。なんて思っていたら、近衛騎士の初訓練でこてんぱんにのされたのだ。無残。あまりにも無残である。


 これは、直近で近衛騎士に叙勲された者にしか言えない事だが、他の先輩方は日々の訓練でこれを味わっている。リリシーナ王女は、近衛騎士の訓練にもよく参加しているのだ。


 この国のお姫様は強すぎた。大きな岩を簡単に砕き、飛んできた大砲の玉も蹴り飛ばす。妙な気配も、自分たちより先に気付く。襲撃があっても一人で十分対処可能なのである。それが、近衛騎士である自分たちの存在意義を、疑問視するほどに追い詰めていく。「俺たち、必要ないよね?」と。


 だがそんな時、彼らは気付いてしまった。いつも自分たちを優しく労ってくれる絶世の美女が、王女のすぐに傍にいることに。か弱く美しい気品に満ちた女性――シビアナである。そのシビアナも武芸に秀でているが、王女と比べると、それがとても可愛いらしく見える。彼らの感覚は麻痺していた。そして、新しい希望を見出した近衛騎士の一人が、ある結論に辿り着いてしまう。


「じゃあ、いいじゃないか。シビアナ様を守ることにしても。いつも一緒にいるし、別に構わないだろう」


 これが会を作ったきっかけ、そして王女に怒られた理由である。連行されたゴトキールが、王女の前でそう自白した。であれば、当然怒られる。


「お? あいつら、また始めるのか?」


 近衛騎士たちが、練習を再開し始めたようだ。きびきびと動き、再び隊列を組み直している。


「いかんいかん。イージャン、これ以上はやめとけ。流石に何度も見れば、面白くなくなるし。ほら、早く行ってこい」

「は、はい……」


(あんたが引き止めてたんでしょうが――!)


 レイセインは、余程声に出して言ってやりたかった。理由は分からないが、この隊長は絶対わざとやっている。そう思っていたのもあり、その物言いにカチンと来た。


「あ、念のためもう一度言っとくが、シビアナちゃんには、結婚式の余興の事、絶対言っちゃ駄目だからな?」

「はっ。了解です。あ、いや、その、隊長……」

「ん? どったの?」


 イージャンは、平静を取り戻していた。しかも、感動が吹き飛び肩入れ出来なくなった今、いつもより冷静に判断を下せる状態。


 宝石商にすぐにでも行きたかったのは山々だが、それでもその前に一言言っておかければならないと、至極ご尤もな突っ込みを入れさせる。


「あの……。やって頂けるのは、大変ありがたいのですが、その……。職務中にこういうのは――」


 それはそうだ。理由がどうあれ、仕事ほっぽりだして踊りの稽古をしてはいけない。それが、本来の職務である王宮内の守護から外れた訓練であってもだ。この訓練だってそのためのもの。仕事の内なのだから。


「ったく、お前は固いなー。大丈夫だって」

「そうでしょうか……」

「そうだとも」


 冷静になったとはいえ、立場上強くは言えないイージャン。


「それにな、イージャン。この余興は、お前とシビアナちゃんの結婚式を盛り上げるためのものなんだ。これは、姫様だけじゃない。陛下だって大いに喜んでくださるよ」

「は、はあ……」


(いや、それとこれとは、話が別なんじゃない? やっぱり、勤務中にやっちゃあ駄目でしょ)


 王と王女の名を出され、丸め込まれそうになっているイージャンとは違い、レイセインは冷静だ。そして、「もういいから、早く行こうよ」と、近衛騎士なんてどうでもいい彼女が、そう言い掛けた時だった。


「だからといって、今やっても良いという理由にはなりません」

「うお!?」


 まさしく正論である。イージャンとレイセインの代弁でもあるその声に、ゴトキールはビクッと体を震わせた。そして、恐る恐るその声がした方向へと顔を向ける。残りの二人も、釣られて顔を向けた。


 すると、一人のうら若い女性が、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきているのが見える。その姿を見て、ゴトキールの顔は青褪めた。

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