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~伴奏 イージャンの指輪物語~  作者: 粟生木 志伸
第一章 受難の始まり
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第9話 婚約指輪と結婚指輪 その2 

「赤い指輪――、だと……!?」

「は、はい。そうですが……」


 ジャムシルドの驚いたようなこの反応は、イージャンにとって意外だった。少し気後れする。


「あら……」


 ステライも、驚いて口許を手で押さえ、少し目を見開いていた。


( もしかして、シビアナ―― )


 どうやら、彼女にも心当たりがあったようだ。


「ううむ……」


 様子が変わった。ジャムシルドは唸りながら、深く腕を組んだ。そして、長椅子の背もたれへ、ゆっくりと体をうずめていく。ステライも目を落として口を噤む。二人とも神妙な面持ちだ。


「…………」


( 急にどうしたのだろう? まさか、いけない事でもあったのだろうか? )


 少し不安になったイージャンは、恐る恐る尋ねた。


「あの、陛下……。何か不味い事でも……?」

「いや、そうではない……」

「はっ。左様でございますか……」

「…………」


 ジャムシルドは、しばらくそのまま黙り考え込んでいたが、それから顔を上げた。


「イージャン」

「はっ」

「それで、その指輪には、どの様な宝石が使われておる?」

「…………。宝石――、ですか?」

「そうだ。どういう名だ?」

「…………。名……」


( あの赤い部分は、宝石で出来ているのか。俺は、柔弦かと思っていたんだが……。しかし、確かに言われ見れば、そっちの方が合っている気がする。透き通っているし……。宝石と言うのは、あんな形にもできるんだな。知らなかった。だが、どの様な名と言われても……。俺は―― )


 答えに窮したイージャンは、顔を俯け黙り込んだ。


「ふふ……!」


 ああ、宝石とか知らないのか。と、ステライはすぐに察した。そこで、自分の方から、その名ではなくその特徴を聞いて、何の宝石なのか判断する事にした。


「ねえ、イージャン」

「は、はい」


 呼ばれて顔を上げる。ステライは、その困った様な顔を一度見て、ジャムシルドへと視線を移す。すると、聞いてくれて構わないと頷いて返されたので、そのまま尋ねる。


「イージャン。その宝石なんだけど――」

「はい」

「色が変わらないかしら?」

「……。色、ですか?」

「ええ」

「…………」


( 色……、か…… )


 彼は、自分の婚約指輪を思い起こす。シビアナがくれたものは、金属製の指輪だった。これも単純に赤一色ではない。指輪本体は銀色で、表面に一本、太めの弦みたいなものが巻かれていた。この弦が赤いだけだ。


 それは、一見すれば柔弦の様だが、よく見れば赤く透き通った宝石の様でもある。イージャンの感想通り。また、その赤には魅入られるような感覚があった。惹き込まれるのだ。銀色の輪に赤い弦が巻かれたような指輪であるのに、赤い指輪だと彼が答えるくらいには。


 硬さは、柔弦や宝石と同じくらいある様で、押し込むと僅かに弾力もある。だから、硝子でもない。確かにその形状には出来そうだが、強度がないため下手をするとすぐに割れる。この国でなくても、それは縁起が悪すぎるだろう。


 シビアナの婚約指輪は、そんな赤い弦みたいなものが、彫られた溝へ嵌め込むようにして埋まっている。そして、内側の裏面には、どこか異国でも使われいそうな文字、そんな模様が一回り分彫り込まれてあった。


 赤を主体とする婚約指輪としては、やはりこれは少々変わっている。その部類に入るだろう。とは言え、ないとも言えない。こういった指輪もあるにはある。


 ただし、熟練の名工であっても、この指輪は作れない。いくら冶金技術が上がっていても、この様な赤い材質、この国にはないのだから仕方がない。これは、近辺の国々でも同様だ。存在しなかった。


 イージャンは、この婚約指輪の事なら、事細やかに思い出せた。この指輪もまた、しっかりと永久保存されているからだ。指輪の内側に彫られた模様も、描き出せと言われれば可能である。


 しかし、そうやって思い返してみても、色が変化するなんて事は、一度も遭遇した事がなかった。


「いえ、変わりません……」

「そう……」

「はい」

「…………」


( うーん。あの子であれば、もしかしたらって思ったんだけど、流石に無理だったか…… )


 ステライは少し残念に思う。ジャムシルドからは、あからさまな落胆の色が見えた。この二人が思い浮かべたものならば、文句なしだったのだ。それは、入手が非常に困難で、この国の最高級品とされている宝石なのである。


「…………」


( な、なんだろうか……。この雰囲気…… )


 まるで、自分の答えが誤りであったかのような感覚。イージャンは、ジャムシルド達の様子に不安を覚える。本当の事を伝えているつもりだが、それでも今の答えが何かしら良くないものだろうか。そう考え、もう一度思い出してみる。


( うううん。変わらなかったな。変わらなかったはずだ…… )


 心中に婚約指輪の姿がくっきりと浮かぶ。その姿だけではなく、自分がその指輪を嵌めたり眺めていたりしていた時の事も。今まで見てきた事全て。


 そして、シビアナから渡された時の事も思い返していった。

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