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Chapter1.9

前回の続きです

 有希はそのまま俯かせていた顔を上げて――――笑った。


「よかった~。なら、朱里と一緒に居られるね!」

「……心配は無用でしたか」


 有希の顔は、ショックを受けた顔ではなく、笑顔だった。そこからは、憂いは感じられなかった。


「確かに、体の半分は自分の物じゃないっていうのは少しショックでしたけど、それで生きれたのなら私は感謝するべきです。それに、ここ数年、体の異常なんてありませんでしたから、それもコアと融合したお陰なら得したかなって。まぁ、朱里と一緒にいられるなら、そんなの関係ないって言うのが本音なんですけどね」

「ゆ、有希……ちょっと恥ずかしいよ……」


 有希の言葉に顔を赤くする朱里。おやおや。とジョンは微笑ましく有希と朱里を見て、彩芽は何だか百合の花が……と呟いている。その中心の有希は、何でビヨンドホープが進化したのかは分かりませんけど、とりあえず分かりました!と馬鹿っぽい事を言って次の説明を!と則した。長年人を見てきたジョンや、職業柄、色んな人を見てきた彩芽は有希の顔色や目から、本当に気にしていないと把握すると、次の説明に移した。


「さて、次からは聞きたかったら、といった感じになるのですが……何か質問はありますか?」

「うーん……あ、その……前のビヨンドホープのパイロット……多分、遥、っていう名前なんでしょうけど……その人について聞きたいです」


 有希の言葉に先ほどまで明るかった雰囲気が一変する。しかし、これはジョン達には容易に予想出来た物。だが、死者の話というのはどうしても少しは空気は重くなってしまう。有希とて死者の話はなるべく掘り返したくない。しかし、聞かなければならない。これから仲間になり、一緒に戦っていく事になる咲耶が思考回路の中心に置いている、遥という少女の事を。

 暫しの沈黙。そしてジョンが口を開いた。


「……三年前、ビヨンドホープと共に亡くなった少女……名前は、白鷺遥と言いました」


 白鷺遥。それが有希の前任であり、彼女の命を救おうとその命を張り、散っていった少女の名前だ。

 スクリーンには何も映らない。彼等とて、あまり遥の最期は思い出したくはない。彼女はここが動き出してから初めてデウスマキナと共に死んでしまった少女だ。その死に方は死んでも死にきれないような物だったとジョン達は記憶している。


「彼女はかつてズヴェーリの襲撃で両親を失った孤児だったんですよ。彼女はそれから御剣夫妻……咲耶君の両親に引き取られて咲耶君と一緒に姉妹同然に育てられました」


 咲耶と共に育てられた。最早その友情は友人や親友を超えて家族のような物だったのだろう。あの咲耶の言葉の端々から感じられた怒気も、今ならば納得できる気がする。

 少し納得したような表情の有希と朱里を見てジョンは話を続ける。


「遥君は両親を殺したズヴェーリを憎んでいました。なので、彼女が十歳になった時に、これが駄目なら後は私達に任せてほしいと言って納得させてから一度だけ、デウスマキナの召喚機を握らせたんですよ。その時に……」

「ビヨンドホープに選ばれた」

「はい。その時の遥君の目は復讐心に燃えていました。この世のズヴェーリを全て駆逐してやると言わんばかりに」


 ジョン達としては、遥に諦めさせて、復讐はこっちに全て託してもらい一人の女の子として生きていってもらいたい。そう思っての企みだった。しかし、ジョン達の思惑は外れて遥はビヨンドホープに選ばれた。そして、今まで動くことの無かったビヨンドホープのパイロットとして選ばれた遥は政府から特殊害獣駆除科に入ればズヴェーリの駆除は遥が自分の手で出来ると言われ、迷うことなく特殊害獣駆除科に入った。

 そして、その時に遥がやるのなら私もやると駄々を捏ねて草薙ノ剣の召喚機を握った結果、パイロットに選ばれたのが咲耶だった。言わば、咲耶の始まりは遥だったのだ。

 それから数か月後、パイロットが亡くなった黒いデウスマキナの代わりに遥は戦場に出る事になり、そのまま黒いデウスマキナは盗まれ、遥はそれから八年もの間、自らが名付けたビヨンドホープと共に戦い続けた。しかし、その八年間の間にはいい事もあった。

 遥は八年の間に咲耶と共に戦っていく事で過去を振り切り、もう二度と自分のような、確実に自らの手で晴らすことのできない復讐心に駆られる事が無いように、力ない人々を命尽きるまで守ると誓った。

 そして遥はその命と引き換えに有希を守り抜き、最期は愛機のビヨンドホープと共に散っていった。


「彼女はバイクのツーリングが趣味でしてねぇ……十六歳の時に免許は取って十七歳の時には咲耶君を後ろに乗せて色んな所に行っていたのですが……その時に買ってきたお土産や写真を見るのが楽しみでしてねぇ……」

「ジョンさん、話が逸れていますよ」

「おっと、失礼しました。歳を取ると話が長引いてしまいましてね……」

「いえ、話を聞くのは好きですから」

「それに、遥さんの事もよく分かりましたし、大丈夫ですよ」


 それならこちらも気が楽です。とジョンは言って一つ咳払いをした。遥の話はこれで終わり。それでは、他に何かありますか?とジョンは聞いた。

 その言葉に有希は首を横に振った。しかし、朱里だけは小さくあの。と声を上げた。有希は何故朱里の方が質問があるのか分からなかったが、ジョンがどうぞ。と聞いた。その言葉に朱里は暫くどうしようかと迷ってからその質問を口にした。


「あ、あの……私も有希と一緒にビヨンドホープに乗って戦いたい……んですけど……」

「えぇっ!!?」

「ほう」


 朱里の投下した爆弾に有希が声を出して驚き、ジョンも声を漏らす。彩芽は何時の間にか消えてこの場に居ない。有希は驚愕の余り椅子を蹴り倒しながら立ち上がった。

 それに気が付いてか気が付かないでか、朱里はそのままジョンに話し始めた。


「その……私も有希と一緒に戦いたいんです!」

「いやいや、朱里、危ないって!」

「それは有希も同じじゃない!」

「真っ当過ぎて言い返せない!」


 有希の抗議を一言で両断して再びジョンに再び話を再開する。


「有希はその……何処か抜けてる所も幾つかありますし……もし、有希が遥さんみたいな事になっちゃったら、きっと一緒に居なかった事を後悔すると思いますから……だから、私も一緒に戦いたいんです!」

「その気持ちはよく分かります……それに、サブパイロットの方が機体状況をチェックしながらなら、戦いやすくはなります」

「それなら!」

「ただ、それを決めるのは東雲君です。一応、デウスマキナには緊急脱出装置があります。遥君は東雲君を守るために使いませんでしたが……ただ、間に合わない可能性があるのは確かです」


 その言葉を聞いてどうにかこうにか朱里を乗せないようにと思考を張り巡らせていた有希はすぐに朱里に反論を開始した。


「そうだよ、朱里!だから、朱里は……」

「それで有希が死んじゃったら、私自殺するよ!!?」

「斬新な脅迫は止めてくれないかな!!?」


 しかし一瞬で止められた。


「でも、私は有希が死んじゃったら自殺するよ。有希が居ない未来なんて、何の価値も無いもん」

「朱里……その言葉は嬉しいけど……朱里は戦う必要はない!」

「そんな事言ったら、東雲君もここで乗りたくないと言えば乗らなくても済むので、戦う必要なんてないんですよ?召喚機も作り直せばいいだけなので」

「まさかの所からの援護射撃!!?」

「最初に言った筈ですが……」

「ぐぬぬぬ……でも、私は朱里に危ない事はしてほしくないんだよ……」

「それは私もだよ。それに、有希も私が一緒に戦えば、有希が負けない限りは私は有希の後ろで守られ続けるんだよ」


 確かに、それはそうだ。有希が負ければ、何時かは朱里もズヴェーリに殺される。そして、もし市街地戦になった場合、朱里が避難した場所にたまたま攻撃や瓦礫が落ちたら朱里は死んでしまう。その可能性を完全に排除するには一緒にビヨンドホープに乗せるのが最適解だろう。

 しかし、まだ安全な場所はある。ここ、特殊害獣駆除科だ。ここなら朱里は確実に安全だ。そう思い、口を開いた時にいきなり現れた彩芽が口を開いた。


「言っておくけど、この本部も学校が壊されて上にズヴェーリみたいな質量の物が乗ってきたら流石に崩れる可能性はあるわよ?一パーセント未満だけど……」


 彩芽の最後の所は有希には聞こえなかった。


「何せここも古いですからねぇ……それに、ここを直接ズヴェーリが攻撃してこないという可能性は無いとは言えませんので。最も核にも耐えれますけど……」


 ジョンの言葉も、最期の部分だけが聞こえなかった。


「ガッデム!!」


 そして有希はハメられた。大人ってきたない。


「それに、東雲ちゃんが戦うときは確実に近くに錦ちゃんが居るわけだし、もしかしたら召喚した時に押しつぶしちゃうかも……そんな確率一パーセント未満だけど」


 更に追い打ちをしていく。こうかはばつぐんだ。


「あうあうあうあうあ……」


 彩芽、ジョンからの追い打ち。彼らは朱里の言葉を全て肯定している訳ではない。しかし、有希の意地だけで決めて後からそれを選ばずに後悔させるよりも、ここでもしもの可能性を出来る限り提示しておこうと思ったのだが、その結果、朱里の言葉を後押しする事になってしまっている。詐欺まがいな感じだが。

 朱里が有希と共に戦った時のデメリットと言えば、有希が負けたとき、必然的に朱里の命も危険に晒されるという物。そして、それを二人は分かっている。故に、他に言う事と言えば、先ほど言った事で、その結果が朱里の後押しだ。


「あーもう、分かったよ!だけど、朱里が危険だって感じたら降りてもらうからね!」

「うん。ありがと、有希」

「こ、今回だけだからね……それに、いつも朱里にはワガママ聞いてもらってるし……」


 有希が若干照れながら朱里から目を逸らす。そして朱里は有希に認めてもらった事で笑顔だ。

 有希とて納得はしたくなかったが、一番最初の戦いでの、朱里と共に戦った時の安心感と、これから戦っていく中での事を考えてみたら、朱里も一緒に居た方がいいという結論になっただけだ。と有希は自分の中で言い訳をしている。

 それを知ってか知らないでか、彩芽はその手に持っていた書類一式を有希と朱里に渡した。その書類は特殊害獣駆除科へ所属するに当たっての説明等が書いてある書類とここに所属するために記入用紙だった。

 そこには色々と書いてあったが、有希はその中にズヴェーリを倒した時の報酬等が書いてある欄を見つけて目を見開いた。


「えっ……報酬って出るんですか……?」

「えぇ、勿論。ただし、ズヴェーリ一体を討伐する毎に、と言った感じですが」

「いや、その……桁が……」


 具体的な桁は言えない物の、毎週一体倒していれば将来、一切働かなくても年金生活まで楽に持っていける程の金額がそこには書かれていた。


「一体倒すごとに何人もの人を救っているのですよ。私はこれでも少ない方だと思いますが……」

「いやいやいや!!」

「よかったね、有希。これからはお金持ちだよ」

「錦君、君の書類は確かに東雲君のとは違いますが、ここに所属する事になる上に東雲君と一緒に戦う事になるので東雲君よりは少し少ないですが、お金は入るという事は書いてありますよ」

「えっ」

「ちなみに、高校、もしくは大学卒業したらここで務める事も可能ですよ。公務員扱いですけどね」

「何気に私達、人生の勝ち組コースに足を踏み込んでるよ……命がけだけど……」


 二人はアルバイトをする時間は無くなったが、代わりに公務員になる事がほぼ確約され、さらに高校生にしては多すぎるレベルのお小遣いをもらえる事になった。

 有希と朱里はお金の事なんて頭の中には入っていなかったので、まさかの事に開いた口が塞がらなかった。


「では、彩芽君に休憩室に案内してもらいますので、そこで今日書ける分は書いておいてください」


 ジョンの言葉に従って彩芽が二人を案内するために着いてきて、と声をかける。そして、二人が立ち上がった所でジョンがあぁ、忘れていましたと言って立ち上がった。


「ようこそ、特殊害獣駆除科へ。私達は貴女達を仲間として歓迎しましょう。これから、よろしくお願いします。有希君、朱里君」

ジョンと彩芽の援護射撃に有希は轟沈。大人には口では敵いませんよ

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