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Chapter1.13

前回の続きです

 先ほどの通信。それは、深海からかなり焦った声で伝えられ、その内容は、『真上でズヴェーリが人型形態に移行しました!すぐにビヨンドホープを呼び出してください!』だった。もし、二人の反応が遅れていれば三人仲良くお陀仏だっただろう。


「ビヨンドホープ!」


 真上を向いた有希がすぐさま右隣の操縦桿に手をやり、そのまま後ろに引く。

 足元には彩芽の車。どうしても着地させるわけにはいかなかった。

 ビヨンドホープの腕が徐々に金色に光っていく。それを朱里は目の前のモニターでエネルギー量を確認しながら、最低限のエネルギーを使うように調整していく。

 そして、真上から落ちてきたズヴェーリに照準を合わせた有希はタイミングを合わせてそのまま操縦桿を前へと押し出す。


「超振動爆砕拳!!」


 有希の叫びと共に腕のエネルギーが更に光り、頭上から降ってくるズヴェーリとビヨンドホープの拳がぶつかり合い、もの凄い衝撃が生まれる。

 ビヨンドホープの足がアスファルトに陥没してズヴェーリはそのまま吹っ飛んで少し遠くに背中から落ちた。


「有希、ちょっと無茶しすぎ!ビヨンドホープの腕が持たないよ!」

「ご、ごめん……でも、ああするしかなかったんだ」

「分かってるよ。だから、ここからは余り無茶させないでね」

「うん。分かってるよ」


 朱里の見ているモニターのビヨンドホープの全体図は、腕の部分が真っ赤に染まっており、足の部分も黄色に染まっていた。これは、機体の関節がダメージを受けすぎているという意味で、このまま腕を使い続ければビヨンドホープの腕は修理しない限り動かなくなってしまう。幾ら進化して出力も上がったビヨンドホープといえど、高度数千メートルから落ちてくる液体の塊を拳で迎撃するのはかなりの負荷になったし無茶でもあった。

 有希はすぐに足元の車をデウスマキナの全機体に備わっている小型作業用アームを指から出して車を丁寧に掴んでローラーでダッシュし、戦いに巻き込まれない場所まで移動してから車を置いた。

 そして、有希は振り返って再びローラーダッシュし、ゆらゆらと歩いてくるズヴェーリの前に立った。何度相対しても不気味さと怖さは据え置きだが、それでも戦わなければ大勢の人が犠牲になる。


「ソードトンファー、アクティブ!」

「了解。ソードトンファー、ロック解除!」


 有希の言葉に反応して朱里がソードトンファーにかかっていたロックを解除。そしてビヨンドホープはソードトンファーを握り、構えた。その構えはこの前までの素人同然の構えではなく、実戦を想定した構え。

 何故有希が機体の操縦の練習と合わせて武術を習っていたかと言うと、それはビヨンドホープの操縦法にある。

 ビヨンドホープ他、デウスマキナは操縦者の思考を読み取ってその通りに動く。それ故に操縦者がちゃんとした武術を習えば習うほど、動くときの思考は細かく、より繊細になっていき、機体の動きは段々と洗練されていく。それ故に、有希は武術を習っていた。朱里の場合はただのおまけだが。

 トンファーを持った片手を肘先から立てて構え、もう片方の腕は腰で溜めておく。

 ズヴェーリは先ほどビヨンドホープの放った超振動爆砕拳の影響で体の一部を超振動で分解され、腕が片方再生できていない。だが、それでももう片方の腕を変形させて振るわれる剣は軽くデウスマキナの装甲を貫く。故に、油断は出来ない。

 ジリジリと構え、そして有希が動く。ローラーを使い高速での移動。それをズヴェーリにただの突進だと錯覚させてカウンターで剣を振るわせる。しかし、有希はそれを途中でローラーを止めて踏み込んだ足の力を抜いて頭を下に。横から迫る剣を内側からソードトンファーの刃を展開して防ぎ、逸らす。そして、もう片方の足でさらに踏み込み、下からのアッパーをズヴェーリに決める。軽く空に浮くズヴェーリ。有希はそのまま追撃で両手のソードトンファーを腹に叩き込み、ズヴェーリを吹き飛ばす。


「ふうぅぅ……」

「有希!コア破壊しないと!」

「あ、忘れてた」

「ちょっとぉ!?」


 ずっと対人戦での訓練をしてきたため、人間相手の無力化は色々と学んだ物の、ズヴェーリ相手の戦い方はあまり習っていなかった。これは有希が頭を狙えばよゆーよゆーと先に対人での基本的な動作を学んでいたからだが、それが裏目に出た。幾らズヴェーリの腹を殴って足を殴ってもズヴェーリには効かない。コアを破壊しなければどうしようも無いのだ。

 いけないいけないと有希はソードトンファーの刃を展開して再び構える。しかし、その直後、頭上から降ってきた何かが有希達の前に着地した。


「く、草薙ノ剣……咲耶さん!」

『下がってて。私が貴女を守ってあげるわ』

「え?いや、この調子なら有希でも……」


 いきなり振ってきた草薙ノ剣は朱里の言葉を聞いても関係ないと言わんばかりに背中の刀を手に持ち、そのまま構えて走り出した。そして、ズヴェーリの振るった剣を一刀で弾きそのまま腕を切断して返す刀でそのままコアを一刀両断した。

 そして崩れていくズヴェーリ。それをロクに確認せず、草薙ノ剣はそのままビヨンドホープへと向き直った。


『貴女は絶対に私が守るわ……誰にも傷つけさせやしないわ』

「咲耶さん……」


 金色の粒子に包まれて消えていく草薙ノ剣。有希はそれを見届けてから空を見上げた。


「やっぱり、何とかして話を聞いてもらわないとダメかな……」

「有希……御剣さんの事、何か知っているの?」

「うーん……まぁ、降りてから話すよ。咲耶さんは悪い人じゃないっていうのはわかってほしいからね」


 多分、この考えは合っているのだろう。有希はビヨンドホープを格納庫に戻し、朱里と共に地上へと降りた。

 パイロットスーツから制服に戻った二人はポケットの中の携帯を確認する。すると、時間的には後数分で授業が始まってしまうという所だった。有希はあちゃー……と呟き、朱里もあーあ。と声を漏らしている。

 咲耶は自前のバイクがあるが、有希達には足がない。これじゃあ確実に間に合わないね。と二人で笑いあってから、彩芽の到着を待つ事にした。そして、その間に有希は咲耶の事を話すことにした。


「きっとね、咲耶さんは私を遥さんが命を懸けてまで守る価値のある物って思ってるの。だから、咲耶さんは絶対に何があっても私を守る。守るためには自分が死んでもいいって思ってるの」

「え?でも、それならあんな風に前に無理矢理出るなんて……」

「咲耶さんは多分、私に傷一つ付いて欲しくないんだと思うの。だから、多少無理矢理にでも私を守ろうとしている。そう、勘違いしてる」

「勘違い……?」

「遥さんは、きっと、そんな事望んでいない。何となくだけど、分かるの。こうやって、ビヨンドホープが出てきたのは、きっと、寂しがってる咲耶さんを慰めて、死んじゃった自分の代わりに咲耶さんと戦ってほしいって遥さんが思ってるからだと思う……だから、咲耶さんは勘違いしているし、私は咲耶さんの考えを根本から否定しなきゃダメなんだ」


 咲耶が先程、過保護なまでに有希を守ろうとした事。いや、有希の代わりに戦ったこと。それは、確実に有希を守るため。有希に傷一つ付かないようにするためだと仮定したら、何となくだが合点が行く。有希に守りの型や動き方をずっと教えていたのも、きっと自分が来るまでは自分の身を何とか守れるようにするためだ。

 朱里は完全に納得はしていない物の、その考えは自分なら何となくわかると思う。最初は有希の事が、遥を奪った仇だと思って憎くて憎くて仕方がなかった。しかし、恐らく何処かで有希の体の事を知って、有希の体は遥とビヨンドホープが起こした奇跡の塊だと知り、その考えを改めて、自分の命を擲ってでも守る価値のある物だと思っている。

 少し有希とは解釈の仕方が違うが、そう大差のある物ではない。朱里は有希の言葉を聞いて頷いた。


「なら、私も手伝うよ、有希」

「うん、ありがと」


 絶対に咲耶を間違った考えから正して見せる。彼女の中の間違った遥の言葉を変えて見せる。そう決心し、有希は拳を握った。きっと、朱里と共になら咲耶と戦える未来を作れる。そんな確信も彼女の心の中にはあった。

もうすぐChapter1は終了

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