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Chapter1.11

前回の数日後からの話

 あの、日常が変わる切欠となった日から一週間。話を聞いてから六日。有希と朱里は学校の外に出て走っていた。

 二人の耳元には無線通話機。特殊害獣駆除科の備品の一つで二人に与えられた物。それから流れてくる声を聞いながらのダッシュ。二人はこの無線機が振動した事でズヴェーリの出現を察知し、すぐに二人を呼び出しに来た源十郎にとある場所にあった非常用脱出口から飛び出してそのまま外へと出て行った。

 口裏は源十郎が合わせてくれているし、授業に関しては各教室に備えてある録音機がそこから先の授業を録音してくれている。


『もうすぐビヨンドホープと草薙ノ剣の準備は完了するわ!準備はいい!?』


 外を走りながら聞こえてきた声に有希は反応する。


「はい!」

「有希、こっちなら人目はないよ!」

「おっとっと……改めて、大丈夫です!」


 朱里の声にしっかりと反応して有希と朱里は人気のない路地裏に入って人が居ない事を確認してから通信機に答えた。


『初めての空中戦だけど、訓練通りやったら大丈夫よ……よし、準備完了!何時でもいいわよ!』

「はい、じゃあ、いきます!」


 有希の体が金色に光り始める。その光はドーム状に広がっていき、有希と朱里を包む。


「希望を超えて、未来を掴む!来て、ビヨンドホープ!!」


 ドーム状に広がっていった光は段々とその光度を増していき、二人が見えなくなった所で完全な球体になった光の玉は空へと昇っていき、空中に現れたビヨンドホープに吸い込まれる。

 ビヨンドホープには草薙ノ剣に装着されていたエクスターナルブースターが装着されており、二人がビヨンドホープのコクピットに座った所でブースターが火を噴いてビヨンドホープの体を滞空させる。かなり高い出力の炎を噴出し続けるエクスターナルブースターだが、その分かなり燃費は悪く、一部を空気中の窒素を取り込んで噴出する事で賄っているとはいえ、ブースターは精々二十分前後しか機能しない。代わりに戦闘機よりも速い速度で空を飛ぶ事が出来るのだが。

 コクピットの中の二人はすぐに機体状況のチェックを始めた。


「ブースター接続部、異常なし」

「燃料満タン、各関節と武装異常なし。行けるよ、有希!」


 特注されたサブパイロット用のパイロットスーツに自動的に服を変えられた朱里は有希とは違う部分の機体状況を有希のシートの後ろ側に接続された新たなモニターで確認し、関節と燃料の量、武装の異常、火炎放射器用の燃料とミサイルの残弾を確認してから有希にゴーサインを出す。

 その言葉に有希は頷いて球体状のモニターの上を見る。それに呼応してビヨンドホープも上を見る。


「行くよ!!」


 有希がその言葉と同時に足元のペダルを踏む。それと同時にバーニアの炎が更に強くなり、ビヨンドホープが空へと昇っていく。

 酸素などは大丈夫だが、かなりのGで呻き声が漏れる。二人のパイロットスーツはビヨンドホープの生み出したかなり特殊な作りになっており、朱里のはそれに少し劣るが、Gをかなり軽減する作りになっている物の、体を打ち付けるような衝撃はかなり辛い。

 雲を抜けた所で飛ぶのを一旦止めて滞空する。


「わぁ、綺麗……」

「雲の上って初めて……」


 二人は映像では見たことがあった物の、こうやって生、とは言わない物の、ビヨンドホープのカメラ越しに見るのは初めてであったし、自分の手でこうやって雲の上を見たのは充分興奮できる物だった。

 二人が雲の上の真っ青な景色を見ていると、二人の頭上を何かが飛んで行った。それをすぐに朱里がタッチパネルにもなっているモニターをタッチしてそれを拡大する。

 それは人間が作ったにしては余りにも以上であり、青すぎて透き通った、正しく異常な飛行物体だった。

 青色の液体を噴出しながら飛ぶそれを確認した二人は頷きあう。あれは確実に二人がこの雲の上まで飛んできた理由。飛行型ズヴェーリだった。


「飛行型見つけた!」

「朱里、ミサイル撃つから弾数管理よろしく!」

「うん!あ、一応頭ぶつけると痛いから、ヘルメット着けておいてね」

「分かってるよ!」


 近くにあったヘルメットを掴んで被る。有希のはビヨンドホープの作った物のため、頭から被るだけで首元と同化して装着が完了する。

 朱里も急いで被って首元を絞めようとした所で既に有希はビヨンドホープを動かしていた。朱里はその中でササっと首元を完全に絞めてからモニターに視線を落とす。Gはキツいが、それでもやらなくてはならない。

 今回の作戦の目的は二人による飛行型ズヴェーリの対応であり、もしかしたらこの先、空中戦を強いてくるズヴェーリが出てくるかもしれないので、それに対抗するために二人にも空中戦に慣れてもらおうという魂胆だった。二人は空を飛ぶズヴェーリを精一杯追う。

 しかし、飛行型のズヴェーリはかなり速い。有希の全力ではかなりキツイ位の速さを叩き出しながら青い液体を噴出して悠々と飛んでいる。


「お、追い付けないよ!」

「うぅ……ジェットコースターに乗ってる感じできもちわる……」

「あ、朱里ぃ!!?」


 そしてここで有希が調子に乗って結構縦移動をしていたため、後ろの朱里の顔色が段々と面白い事になってきていた。

 流石にここで吐かれたらマズい。主に臭い的にマズい。有希まで臭いテロによって吐きかねない。流石に焦って有希がブースターのスピードを落として腕を突き出してミサイルを発射する。しかし、ズヴェーリはそのミサイルを体から液体を発射してミサイルを次々と撃墜していく。

 うそん。と有希がマヌケな声を漏らす。そして朱里は本格的にマズい事になってきているのか、自分が忠告したヘルメットを外して口元に袋を構えている。

 あ、これは吐くな。と有希は確信してヘルメットの前面のバイザーを密閉させて真空下での活動を可能にするためのモードを起動させてから新鮮な空気がパイロットスーツから送られているのを確認してから再び全速力で飛ぼうとするが、その前に有希達の横を赤い機体が物凄い速さで過ぎ去っていった。

 何が?と有希達がその何かを確認すると、それはエクスターナルブースターを装着した草薙ノ剣、咲耶の姿だった。

 いきなりの援軍に有希が目を丸くしていると、モニターに草薙ノ剣のコクピットの様子が投影される。そこには赤色のパイロットスーツに身を包んだ咲耶の姿が映された。


『貴女達は後ろに下がっていて。アレは私がやるわ』

「ほ、本当ですか!?実は、朱里が結構ピンチで……」

「ご、ごめ……げんか……うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

「きゃあああああああ!!?朱里が吐いたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

『……その、お大事に』

『そ、そうですね……東雲君達は下がった方がいいですね……』


 流石に有希と朱里の惨状を見てジョンも咲耶の言葉に同意して有希と朱里が地上に降りる事を許可した。それを受けて有希はすぐにビヨンドホープのブースターを滞空モードにしてからエチケット袋の中身が漏れ出さないようにしてからシートの近くに設置されていたダストシュートに放り込んでから雲の下まで降りてからすぐにコクピットの前面にある、整備士の人しか基本的には使わないハッチを全開にしてか空気の入れ替えに入った。

 滞空しているため、風が物凄い速度で入ってきている等は無い。むしろ気持ちいい風が入ってきているが、有希はヘルメットで外界との空気を遮断しているため、それを味わう事が出来ない。朱里もグロッキーでそれどころではない。

 これは早く地面に降りて朱里を寝かせた方がいいんじゃないかと思いながらブースターの出力を下げ、段々とゆっくりと降下していく。空から降りてきたビヨンドホープに地上の人たちが騒ぎ始める。

 あ、これはもっと人気のない場所でビヨンドホープを戻した方がいいかなと思いながらハッチを閉めて近くの山目掛けて飛ぼうとしたが、それだと帰るのに時間がかかってしまうと思い、暫く悩んでいると、彩芽から通信が入った。


『有希ちゃん、朱里ちゃん。そこで降りてもいいわよ。私がもう待機しているわ』

「あ、ホントですか?なら、降りますね」


 有希がシートの下のレバーを引いてビヨンドホープを格納庫まで戻す。そして有希と朱里は光に包まれて地上に着地する。すると、その数秒後に彩芽の車がやってきて目の前で止まった。

 有希は朱里を抱えて車に飛び込んでドアを閉める。その直後に車は発進して学校の方へと走り出した。


「お疲れさま。初めての空はどうだった?」

「とても綺麗で凄かった……んですけど……」

「あぁ……朱里ちゃんの事は不幸だったわね」

「死んだみたいに言わないでください……」


 朱里の呻き声混じりの声を聞いて二人は失笑を漏らす。流石にこの様子は人様にはお見せできないかな。と有希は思い、学校についた所で迎えに来た源十郎に朱里をおぶってもらって教室までは有希一人で移動した。

 まだ先ほどの授業中であり、授業をしている教師は戻ってきたのが有希だけなのを見て少し小首を傾げた。


「ん?錦はどうしたんだ?」

「か、階段で転んで酔っちゃって……」


 苦しい言い訳だと言うのは分かっていた。何か言われるかなぁと思って構えていたが、先生はそうか。じゃあ、授業に戻るぞ。と軽く流してくれた。

 有希はそれにホッと息を吐いてから席に座り、結構進んだ板書を写していく。朱里にも後で見せなきゃなぁ。と思いつつも板書を写しながらも先生の言葉に耳を貸している。その最中に携帯ではなくポケットに突っ込んだ通信機の方がバイブレーションで震えた。このタイミングで震えたという事は咲耶がズヴェーリを無事に討伐したという事だろう。すぐに彼女も三年生の教室に戻って何食わぬ顔で授業を受ける事だろう。

 有希は聞き流しているようで聞き流さないといった絶妙な表情で窓から空を流し目で見ていた。空には有希がつい数分前に作った真上へと昇っていく飛行機雲のような物があり、今でも空中にそれは残っている。

 あんな感じで垂直に上っていったんだー。と考えながら板書を写していると、急にチャイムが鳴り響き、授業の終わりを合図した。

 先生が今日はこれで終わりだと言って挨拶をしてから教室を出て行った所で一気に教室の中が騒がしくなる。今の時間は丁度四時間目。ここからは昼休みの時間だ。有希は弁当をまだ食わずに先に朱里の寝ている保健室の方へと教室を出てから歩き始めた。

 数分歩いて到着した保健室には保険医の人が座っており、友達の様子を見に来ましたと一言告げてから唯一カーテンの閉じているベットの所に、朱里、入るよーと一言言ってから中に入る。

 朱里はベッドの上でまだ若干顔を赤くしながら横になっていた。


「朱里?大丈夫?」

「結構気持ち悪い……」

「あ、あはは、ごめんね……あ、お昼はどうする?」

「有希は食べてて……今食べたら吐く……」

「うん、分かった」

「収まったらすぐに教室に戻るから……」


 結構悲痛な朱里の声を聞いて有希は保健室から出た。さて、これで昼休みにやる事が無くなってしまった。今から本部に行って訓練でもしようかと思ったが、それは時間がかかるので止める。

 訓練と言っても、シュミレータを使ったものではなく、本当に自分の体を使って覚えるに限る。空中戦に関しては有希のみが三百六十度回転する装置にコントローラーと画面をくっ付けたゲーム筐体のような物を使っていたため、有希は今回の空中戦でもかなり慣れたような感じで機体を動かせた。

 そして、訓練、体を動かす方に関しては有希はトンファーを使う機体に乗っているという事で徒手空拳にトンファー特有の動きを混ぜた物を源十郎に習っている。源十郎はただの陸上部の顧問という訳ではなく、格闘技全般のエキスパートだった。剣術、槍術、ガンカタ、狙撃その他諸々の動きを達人並みに出来る。そんな彼から習ったのは色々とあったが、それによって変わったのは歩き方だろうか。

 まずは日常的な体運びから、と源十郎からは歩法と体重の動かし方、体の効率的な動かし方を教わった。これは朱里も同じで、何かしらの理由で有希が狙われた時は自動的に朱里もターゲットになる可能性があるので、彼女は護身術を学んでいる。

 有希の学ぶ徒手空拳とトンファーを使う武術はまだまだ素人の域を出ないが、それでも一週間前からは別格と思える動きを出来るようになった。

 トンファーとは本来、斬撃等に使うのではなく、叩き、突き、相手の骨や内蔵を外から叩いて壊すための物。有希はこれまでソードトンファーという特殊な武器を使ってきたため、斬る事に重点を置いた戦い方をしていたが、これを学んで有希は戦い方を斬るのではなく、防ぎ、潜り込み、叩きつける戦い方をするようになった。

 トンファーの利点は、回転させることでならに威力が増す事。そして、腕の外側での防御が可能になる事。ソードトンファーの本来の使い方は、素早い動きでズヴェーリの斬撃をトンファーの刃で受け止め、弾き、潜り込んで先端で頭部を殴り砕く事。遥の戦い方を見せてもらった時は、正しくこの動きでズヴェーリを殲滅していた。

 そして、徒手空拳。これはトンファーによる戦闘の下地となる物。徒手空拳の動きを元に、拳で殴るという動作をトンファーで行い、防ぐと言う動作とトンファーで行う。打撃のリーチの延長。それこそがトンファーの強みの一つ。さらにその下地となったのは歩法。

 縮地と呼ばれる歩法は有名だが、有希はこれを既に使える。縮地とは決して瞬間移動のように移動するのではなく、前に出した足の力を抜いて前へと倒れこんだ時にそのまま一気に移動するという、口だけで言うなら簡単なもの。有希は陸上をしていた時に体の動かし方はある程度学んでいたので、すぐに出来た。

 これを学んだからか、有希の普段の体運びは見る人が見れば、武術をしているなと分かる程度には変わっていた。


「えっと……まずはご飯食べよっと」


 保健室を出てから有希は再び教室に戻った。そして、カバンの中から弁当を取り出してから移動をし始めた。行くのは屋上。余り人はいないが、一人で食べるには陽も当たるのでかなりいい場所だ。

 弁当片手に鼻歌を歌いながら歩いていると、目の前から見知った顔がこちらに向かって歩いてきてた。

 咲耶だ。手に弁当を持っているというのは、同じ目的なのか、それとももう食べ終わった後なのか。よくわからないが、それでも咲耶の事が有希は何処か苦手だった。

 その理由は、あの時殺されかけたからではない。あの事は咲耶が謝った事で水に流した。では何が彼女を苦手と思わせているのか。


「あら、東雲さん。こんにちわ」

「こ、こんにちわ」


 デウスマキナの事は触れないように、あたかも時々話をする知人風に挨拶をする。しかし、有希の言葉は若干震えている。しかし、咲耶は気づいてか気づかないでか、『笑顔』を浮かべている――――

次回に続く

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