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エデンの鬼人  作者: 鱗屋
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第二話「サイベル研究所」

※プチ解説

『鬼』

人間の天敵。

頭に角が生えており、身体能力が高いこと以外はほとんど人間と変わらない。

人と鬼がいつから争いを始めたのか、そもそも鬼はどこから来たのかなどの詳細な記録はなぜか残っていない。



『ディース』

鬼を殲滅するために人類が立ち上げた組織。

具体的な階級は、

四凛花

ディース

厳密に言うと王はディースではないが、四凛花に唯一命令できる権限を持つ。

鬼との戦闘を有利に進めるために、魂片(レゼル)という粒子を利用した特別な武装をして戦う。


四凛花(シリカ)

ディースにおける幹部的な存在。

4つの座が用意されており、その座には伝説的な活躍をした人物が王によって選ばれる。

その戦闘能力は圧倒的なものであり、1人で軍にも匹敵する程。

現在座に在席しているのは3人。1つは空席。

「やっと繋がりやがった!!おい無事かショコル!」


「うん、平気。心配かけてごめんね師匠。」


アスゼルア側の境界の森を、ショコルの後に続いて歩くキセア。

ショコルが自身の師らしき人物と通信機で話しているのをなんとなしに眺め、キセアは少し考え事をしていた。


「この子、何者なのかしら·····」


見るからに丈が余っている、使い古された白衣に身を包んだ子供。

使用する武装は光を放つ二丁拳銃。

今のところ、目の前を歩く少年のことはそれくらいしかわからない。


その中でいうと、光を放つ二丁拳銃には心当たりがあった。

昔、アスゼルアの『ディース』という戦闘組織は光る武装を使用していると聞いたことがあったのだ。


となると、ショコルは部隊の一員なのだろうか。


「それにしても…一番気になるのはどうして境界なんかをふらついてたか、ってことだけど」


本来境界という場所は、むやみやたらに近付いてはならない。それはアスゼルアでもリヴェルノアでも同じなのだ。

と言っても、魔物や罪人などといった魑魅魍魎が跋扈する未開の地に近付きたがる変わり者など、そうそういるものではない。


しかし、ショコルがその変わり者と呼ばれる類いの人物でないとも言い切れない。

そしてもう一つ、気にかかることがあった。


「なんとなく、私と同じ匂いがするような」


これは何の根拠もないただの勘だが、キセアはとても重要なことのように感じていた。

少年から漂う自身と同じ類の匂い。鬼の匂いと言い換えるべきか。


だが少年に角は生えておらず、体躯も一般的な鬼のそれより遥かに小さい。

加えて戦闘能力も低く、なぜ少年から鬼の匂いがするのか、キセアにはいくら考えてもわからなかった。


「さ、着いたよ。ここが僕の家だ」


ショコルが足を止め、後ろをついてきたキセアも足を止める。


「ようこそ、サイベル研究部へ!」


そこは家というより、小さな研究施設だった。

中に入ると、試験管やフラスコ、何かの資料などがあちらこちらに沢山置かれており、いかにもといった感じの雰囲気が漂う空間が広がっている。


「一つ質問良いかしら、あなたって一体···」


壁にびっしりと張られた怪しげな実験内容の報告書を見ながら、いくら考えても

結論が出なかった疑問をキセアが投げかける。


「僕は見ての通り、科学者だよ。ここはディースの研究所で、僕がここの所長。主に鬼の研究をしてる。」


ショコルはそう言うと、誇らしげに腰に手を当てる。

鬼の研究をしている科学者。なるほどそれなら鬼の匂いが染みついていても不思議ではない。


「というか…あなたが部長?へぇ、まだ小さいのによくやるわね」


感心した様子でショコルを見つめるキセア。


「いやいや、多分キセアと大して変わらないと思うよ。僕15だから。」


「驚いた。私と同い年なのね、あなた。」


キセアが口に手を当てて驚きの表情を見せる。

彼女が驚くのも無理はない。ショコルは背が低く童顔なため、実年齢より幼く見られることが多いのだ。


「というか男というより······女の子みたいね。」


何気なく思ったことを素直に口にしたキセア。


「やめてくれ!気にしてるんだから···」


だがショコルにとっては相当ショックな言葉なのだろう。明らかに元気がなくなっている。


「ご、ごめんね···まあ、これから大きくなるわよ!うん!それよりその···」


早くご飯が食べたいとは恥ずかしくて言えないキセアだった。

もう3日以上何も食べていない彼女は、今は何よりも食事を優先したいのだ。


「おお、帰ってきたか!その子がさっきの通信で言ってた女の子か?」


部屋の奥から、40代前半あたりの背丈が大きな男が顔を出す。

白銀色の長い前髪が顔の半分を覆っており、片方だけ覗える目がキセアに向けられている。


「初めまして。キセア、だったよな?俺はヴィラ・サイベル。こいつの師匠で、まあ、親代わりってところかな。」


「僕の部下でもあるけどねっ!」


ショコルが楽しそうにヴィラの肩に手を置いて言う。


「調子に乗るな小僧。まあ、よろしくな。」


ペシン、とショコルの頭を叩いてから握手を求めるヴィラ。

キセアは少し戸惑いながらもヴィラの手を握った。


「よ、よろしく」


「よし、飯でも食いながらゆっくり話そうや。なんでもお前さん、鬼と人の混ざり者なんだって?」


ヴィラがテーブルに食器を並べ始め、キセアに座るよう促す。


「ええ、まあ······貴方たちは、どうして私にここまで優しくしてくれるの?私、半分は鬼なのに」


椅子に座ったキセアが、俯きながら口を開いた。


「勿論、ただの鬼ならここでぶっ殺してるさ。俺も、仲間を何人も鬼に殺されたしな。だが半分は人間なんだろう。そしてお前さんには敵対する意思はない。それだけだよ。」


料理を作りながら、振り返らずにヴィラは言う。


「で、でも……」


「タダ飯は気が引けるってんなら、鬼人とやらの話を勘定代わりだと思ってくれていい。」


そう言ってキセアの目の前に料理を置くヴィラ。


「僕も聞きたいな。科学者として、鬼人というものに興味があるんだ。」


ショコルはキセアの隣の椅子に座り、彼女の方を向いて目を輝かせながら話を待っていた。

ヴィラが最後の皿に料理を盛り付けて、一丁あがり、とテーブルの上に置く。

その「コト」という音がしたタイミングで決心したように、少しばかり頬を赤らめて、ゆっくりとキセアが口を開いた。


「あ、あの······先にご飯······食べていい?」




最後の一皿も残さず完食したキセアがスプーンとフォークを置くまで、そう時間はかからなかった。


「良い食いっぷりだなお嬢さん···いや、作った甲斐があるってもんだ。」


「······よっぽどお腹空いてたんだね、はは。」


あまりの大食ぶりに驚くヴィラとショコルの二人。

主菜小物含めて8皿はあった料理をものの十分ほどで完食されたのだから、驚きもするだろう。


「ご馳走様。あ、私の話だったわね。」


ふう、と一息付いてから思い出したかのようにキセアは話をきり出した。

これから彼女が語るのは、自身の過去の話。

今の彼女を作り出した、その原因というべき物語。


「━━━私はリヴェルノアの国王、ガラテア・リヴェルノアの娘なの。」

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