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息子(社長)の育て方  作者: 修壱
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社訓2 入学式に臨みます【2】

そして冒頭に戻る。

「何でスーツ着てるのよ。高校生として学校に通う訳だから制服着なきゃダメでしょ。そもそも、それならば何故数日前に制服の採寸を受けたの?」

「あれは高校に通うにあたっての通過儀礼ですので」

「いや、通過儀礼は今日でしょうが。あの採寸の過程に何の意味があったのよ。制服はいつ役に立つんだよ」

スーツを脱がせるためにジャケットに手を掛けようとしたら、透が一歩下がった。

「皆と同じ制服を着て、僕は何がアピール出来るというのですか!他者とは違う事をするからこそ、独自性や立案性を見出せるのでしょう!」

「早まるな!そのエリート思考は学校において一歩間違えれば校則違反の不良と紙一重よ!規則は守れ!」

「ぐっ……規則、だと……」

頭を押さえ、透は顔を歪めた。意味不明な突然の頭痛が透を襲う。誰か解説してほしい。

「仕方ありません。規則である以上、僕が守らなければ示しがつかない。しかし他者と全く同じというのは、やはり納得出来ないのでロルェックスの腕時計は必須としなければ」

私は無言でロルェックスの腕時計を奪い、夫が昔ゲーセンで獲ってきたゴムバンドの腕時計を代わりにつけてやった。

「な、何ですか、この見た事もないガラクタは!」

立ち眩みを起こした透を納得させるために説明した。

「高校生なら、その腕時計の方がしっくりくるわよ。他の子と差をつけたいんでしょ?そっちの方が断然効果的よ」

「俄かに信じ難いですが……。まあ、粗悪品を身に着けていても輝いている自分をアピールする手段にはなりそうですね。承知しました」

良かった。夫とは違うタイプだが、コイツもバカの一種だ。



トイレで制服に着替えさせ、私たちは体育館に向かい、入学式が始まった。

自分が高校生の時と同じような雰囲気だが、保護者として参加するのは何だか妙に心が落ち着かない。

大丈夫、大丈夫。一般的な高校の入学式だ。

「校長よりご挨拶お願いします」

司会進行の教師より案内があり、校長が壇上に上がった。

「みなさん、おはようございます。そして、お疲れ様です」

へぇ、入学式の挨拶でお疲れ様ですって言葉は初めて聞いた。自分の入学式でも無かった気がする。

「緊張している人もいるでしょう。でも大丈夫、それは最初だけです。段々と慣れてきて、周囲は自分と同じ役目を持った人間と認識していきます。そして一人ひとりが学校における歯車として機能し、この梅沼高校を回していくのです。そして好成績をキープしてください。みなさんが優秀であれば、来年以降の新入生がみなさんに憧れて大勢入学するでしょう。つまりですね、高校生活の恩はみなさんの出世払いで構わないから見返りの確約がほしいって話です。ほら、簡単な話でしょ?分からない人はいませんよね?もちろん」

校長がいきなり圧をかけてきた。いやいや、え?何、この学校。気の狂った事しか言わないじゃん。大丈夫なのかしら……。




校長先生の挨拶など、一通りの流れが終わり、新入生代表の挨拶となった。

「新入生代表、上条 拓くん。お願いします」

呼ばれた上条くんは、背筋がピンと伸びており、身だしなみも文句なしで清潔感に溢れる子だった。

流石、選ばれるだけはある。

ふと、透の方を見ると上条くんを食い入るように見ている。

どうしたんだろう?

……まさか、新入生代表に選ばれなかったことを悔しく思っているのだろうか?

自分と違うところを、まずは外見から探しているのだろうか。

外見としては、透も身だしなみはきちんとしており清潔感もある。パイプ椅子に座っている姿勢も90度を保つなど、ぬかりのない態度で入学式に臨んでいる。

それを自覚したのか、透は鼻で笑うような仕草をし、今度は上条くんを見下すような目で見ている。

あ、そういうところが貧相だぞ。

「新入生代表、上条 拓。この度は……」

挨拶が始まった。内容としては良くある文章であったが、上条くんは笑顔を絶やさず、これからの高校生活を楽しみにしているような声色で読み上げていた。

「最後に、私は新入生代表に選ばれた事を誇りに思います。入学して早々、こんなにも大勢の皆さんに自分の気持ちを伝える事が出来る機会を頂けて、とても嬉しいです。これから学校で様々な出会いがあり、友達も作りみんなで楽しい高校生活を送っていきたいと思います。以上で、挨拶とさせて頂きます」

一礼し、盛大な拍手が起こった。

すごくしっかりしている子だなあ。こっちまで気持ちが伝わってくる。爽やかで好感が持てる。

思い出したかのように、透を見てみると、何故か肩を震わせている。

え、どうした?具合悪くて震えてるとかじゃないよね?

凝視してみると、透は唇を噛みしめて、上条くんを睨みつけるように見ている。

あ!これは劣等感だ!

あまりにも素晴らしい挨拶だったものだから、内面で透は敗北を覚えたのだろう。

唇を噛みしめすぎて、口を切って血が少し流れている。

いやいやいや、度が過ぎるでしょ。アイツ普通じゃないわよ。

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