赤との出会い 6
店の手伝いをしてずいぶん時間が過ぎた。
俺と赤羽はホールのフォローを終えてキッチンに集まっていた。
そろそろお昼時なので、もっと忙しくなっていくらしい。
「赤羽、次は何をすればいい?」
基本的な仕事は覚えたため次の仕事をもらおうとした。
「そうだね。そろそろおなかすいたよね?」
「まぁ、ほどほどには。」
「なら、一旦休憩してきたらいいよ。今日の人数ならここは十分回るから。」
「いいのか?」
「うん。黄花と一緒に行っておいで。」
「ありがとう。そうさせてもらう。」
「ゆっくりしてきてね。」
赤羽は俺にそう声をかけ厨房に姿を消した。
「何か食べたいものあるか?」
「とりあえずお腹が満たせれば何でもいいよ。」
俺は黄花と砂浜を歩きながら昼食について話していた。
まだ好みとか食べたいものとかないのか。
そんなこと思っていると
「主食は何でもいいの。けど、デザートにはプリンが食べたいな・・・・・・。」
「・・・・・・そうか。ならどこかにコンビニでもないか探しに行こうか。」
「うん。ありがとう。」
・・・・・・いつの間に好みが?
青矢は考えた。
一度も黄花にプリンを買ってあげたことなどない。どこにもそんなことほのめかすような
ことも聞いてはいない。なのになぜだ?
「ねえ、青矢。」
「うん?」
思考を巡らせていると真剣そうな声色で俺の名を呼んだ。
「私がプリンって言ったのがそんなに不思議?」
「うん?まぁな。一度も食べたことないのになって思って。」
「・・・・・・うーん。青矢の【色】に変化はないのね。」
「?」
色?何のことだろうか。
「なら違う話をするね。」
「おう。なんだ?」
「青矢が最近疑問に思ってることだと思うけど、私は感情がなかったわけじゃないと思うの。」
「・・・・・・その考えに至った理由は?」
いきなり俺の疑問の核心を突いた言葉に戸惑いながらも冷静を装った。
「感覚かな。例えば、何も知らないものを得た時って戸惑いとかあるいは感動とかあるででしょ?
特に青矢はこの【心眼】が使えるんだから見えるよね。」
「【心眼】?」
初めて聞く物だ。
そう思っていると少しからかうような目つきをした。
「そう。その感覚。疑問と思考が渦巻いた深海のような青色が好奇心の黄色とまじりあってる。」
「もしかして・・・・・・黄花にも見えているのか?」
そう聞いたとき黄花のルービックキューブの黄色の面が多くなる。
「前から見えてたよ。そして、常に探っていたの。知らないかもしれないけどこの【心眼】鏡に映る自分にも
効果があるの。」
「そうなのか。」
実際自分をあんまり観察しようとは考えないし、自分のことをあんまり知ろうともしない性格なために
重要なことを見逃していたようだ。
「【心眼】は今の私や青矢がしているような人の心を見る技術のことを言うみたい。」
「そんなこと聞いてなかったな。」
「これは軍のための発明。だからあんまり大きい声では言えない。」
「先生はそんなこともしていたのか。」
そういうと黄花が少し目つきが変わる。
「・・・ねえ、青矢。今から聞くことに答えてね。」
急に声に先ほどの緊張感が出る。
「おう・・・、なんだ?」
「青矢・・・何歳?」
「・・・・・・多分22くらい。」
「不正解。23だよ。」
「まぁ、そのくらい時々間違う。」
「なら次、好きな食べ物は?」
「・・・ないな。」
「不正解。本当はプリンが好き。」
「なんでわかるんだ。本人が好きとも言ってないのに。」
「黒斗が言ってたの。青矢のこといろいろ教えてくれたからわかる。黒斗はずっと青矢の近くに居たのだから好みくらい知ってるよ。」
黒斗とは俺が言う先生のことだ。
「ね、あなたは何を覚えてる?・・・・・・何も覚えてないよね。【心眼】でわかるよ。あなたの青は深い。そして、濃い。」
「・・・・・・なにが。」
言いたいと、繋げたかったが黄花は言わせてくれなかった。
「私は青矢に出会う前に黒斗からある程度の話を聞いていたの。その時は重要性もなにもわからなかったけど今はわかるよ。」
なおも黄花は話を続ける。
「黒斗も詳しくは教えてくれなったし、今もまだわからない。けど、今教えられる真実ならいくつかあるよ」
そして俺を見つめる。表情も心もすべてを見透かしている。
「あなたは記憶がないの。そして、黒斗はあなたの先生でもないよ。もちろん私の親でも。
あなたは何も知らされてない黒斗が隠している真実の一部を私は知っている。」
最近の出来事を丸ごと引っ掻き回したような言葉を、このとき聞いた。
それは、俺の記憶を何もかも否定するものだった・・・・・・。