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色彩BOX  作者: 秋雨 玲翔
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赤との出会い3

電車に乗り海に向かう。

電車は揺れと黄花の寝顔に安心して眠りについてしまったので、一瞬で目的の駅に着いた。

二人とも寝ぼけ眼で電車を降り、駅を後にする。

駅の周りは木で囲まれた林のようになっており、海はまだ見えなかったが、

「……なんかよくわからない匂いがする。」

と黄花が呟いた。

「……あ、そっか。黄花は磯の匂いを知らないのか。」

黄花が言う匂いとは沖から流されてくる潮風のことだろう。よく『海の匂い』と形容されるものだ。

「これが海の匂い……不思議……。」

なにか思うところがあるのだろうか?だとしたら、感情を得るきっかけになりそうだ。

目的地に向かうべく海を目指す。そして海の匂いが強くなっていき、いよいよ海を拝むことができた。

「これが……海。」

枝木をかき分け出てきた先には、俺たちを感動させるほどの広大な光景が広がっていた。

陽炎や蜃気楼があちこちで発生して、まさに熱したフライパンの上にいるような印象を受けるその砂浜では大人も子どもも時間や暑さを忘れ、ビーチバレーやバーベキューを楽しんでいる。

そんな賑やかな砂浜を後にし奥に進むと『無限』を思わせるような圧倒的な青さが真夏の太陽を反射し、冷たく、しかし堂々とそこに存在していた。

「やっぱり、人が多いな。当初の予定とは真逆になってしまった。」

俺が苦笑しながら言った。

「いや、来てよかったの。この光景は見ておいてよかったから。」

「黄花がそう言うなら来てよかった。」

「うん。ありがとう。」

と、黄花からぐぅと小さなお腹の虫が鳴いた。

「……お昼食べてなかったもんな。」

「うん……お腹すいた。」

海という滅多に行かないところなためか夢中になって時間が過ぎていたのを忘れていたようだ。

時計を確認すると14:40となっていた。お腹が空いてても不思議ではない。

「とりあえず、何か食べようか。お腹が空いてると泳ぐのも危ないから。」

「うん。」

「うーんと……あの向こう側に海の家の旗が見える。そこに行こう。」

今いる場所からある程度離れた場所に海の家の旗が見えた。遠くもなく、近くもなくといったところだ。

「砂に足を取られるなよ?」

砂浜は慣れていない人にとっては足を取られる可能性がある。少し目線を配りながら歩いて進む。

「……歩きにくいし、靴の中に砂が入って気持ち悪い……。」

黄花が不愉快そうな声をあげる。

……だいぶ、丸くなってきた気がする。

黄花と居てまだ1週間も経っていない。なのに、黄花は少しずつ感情を表すようになってきた。感情を得ているというより、やはり、少しずつ前に持っていた感情を出せるようになっているような印象だ。

……先生は本当のことを俺たちに言っているのだろうか?何か大切なことを隠している気がする。

この時、俺の中に初めて先生に対して『疑い』という感情が表れた。

それは……深海のように深く暗い青だった。

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