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コンサのスープ

私が愛するフォスターと出逢えたのはジアのお陰。

そろそろいい年齢なんだからと父が連れてきた、所謂お見合い相手がフォスターだった。

もちろん最初は何の関心も無かった。自分に寄ってくる男性は見かけだけを見ていると知っていたから。

私とシュクリに気付いても、テリジアには何の関心も示さない。人の本質を見ようとするか、しないか。それですぐに分かった。

あの可愛いテリジアに気付きもしないなんて!信じられない。そんな人と一生を添い遂げることは不可能だと断言できる。

私は夫婦でジアを愛でることが出来ないなら一生独身でも構わないとさえ思っていたのだ。

でもフォスターは違う。初めてうちの屋敷にやって来た時、彼は私よりも先にジアを見つけた。

今でも色鮮やかに思い出せる。あの日私たち三姉妹は庭にいた。



「エストリタお姉さま、今日はどなたかお客様がいらっしゃるとお聞きしました」

「あぁ、ジア。そんなこと気にしなくていいのよ。ね、シュリ」

「えぇ、そうだわジア姉さま。男性なんてどうでもいいんです」

「でもせっかくいらしてくださるのに」

「それならジア、私のために何本か花を摘んできてくれないかしら。それに気分を良くした私は客人に会いに行くかも」


明らかに行く気がないだろう発言に気付きながらも、困ったように笑ってテリジアは花を選びに行く。

そうしてしばらく庭で過ごしていたときだった。




「ジア」


エストリタとシュクリが固まる。

愛する我が姉妹を愛称で呼んだこの男は誰だ、と。


「副団長さまっ」


呼ばれるとはじけるように駆け寄って行ったジア。

明るく輝くジアの満面の笑顔を独り占めしているこの不届き者は、誰だ。


「今日のお客様って副団長さまだったのね。知っていたら無花果のパイを焼いていたのにっ」

「少し驚かそうかと思ってね。パイはまた今度お願いするよ」

「とっても驚いたわ。ということは、もしかしてエストリタお姉さまの恋人になるかもしれない方って、副団長さま?」


副団長と呼ばれている男は我らが愛する妹に優しく笑む。


「副団長さまがお義兄さま?」


オニイサマだなんてジア、私は何とも言っていないわ!そんな気はこれっぽっちもないのよ!とエストリタが口を挟もうとしたその時。


「エストリタお姉さま、副団長さまがお義兄さまになってくださるなら私、とっても嬉しいわ!」


・・・振り向きざまのその笑顔を裏切れる姉がいただろうか、いや、いない。少なくとも私には世界がひっくり返ってもそんなこと、出来ない。

エストリタの白旗が背後に見えた。




「あの時のエスターの顔は酷かったな」


フォスターがくつくつと笑う。


「私がジアの喜びを裏切れないって、あの時から知っていたのね」

「あの笑顔を裏切れる人物が、君はいると思っていたのかい」


あぁ、この夫は妻をよく知っている。






「エスター、君がジアを可愛がるきっかけはなんだったんだ」


その愛し方は、下の妹シュクリに示すものとはまた異なる。

夫の質問に、妻は懐かしそうに目を細める。


「あの子、私の嫌いな食べ物を知っていたの」

「嫌いな食べ物を?」


ふふふ、とまた懐かしそうに笑う。


「私は長女だったから、厳しく育てられてね。私も期待に応えようと努力したわ。礼儀作法、立ち居振る舞い全てにおいて完璧であろうとした。苦手なものなんて一つもないように。ある日、誰かがジアに

聞いたの。お姉さんの好きなところはなぁに?って」


私は答えを気にしなかった。その質問はどこに行っても誰かに言われていたものだから。

人は決まって、その美しい髪、だとか、輝く瞳、だとか。外見以外を褒められたことがあっただろうか。

長女としていつか家を守らなければならない日の為にと毎日勉強に励み、立ち居振る舞いにもとても気を使っていた。

でも誰も私の内面なんてどうでもいいに違いない。ただ外見が美しくあることが、私の価値なのだ。幼いながらにそう感じていた。


「でもね、ジアはこう言ったの。『嫌いな食べ物を、嫌いな顔をしないで食べるところ』って」


それを聞いた人たちは笑っていた。だって私に嫌いな物はないはずだったから。私は何でも食べたし、出された物に嫌な顔をしたこともなかった。

しかしジアはあっけらかんと言ったのだ。


「エストリタお姉さまは、コンサのスープは苦手なのよ」と。

「実際、どうだったんだい」


聞いてくる夫に笑いかける妻。


「大っ嫌いだったわ。あれだけは、匂いがどうも好きになれなくて」


季節ものの野菜だから、食卓に並ぶことも滅多になかった。今だけの我慢だと、表情一つ変えず食べていたつもりだった。事実、エストリタがコンサを苦手にしていると気付く者はそれまでいなかったのだ。

ジアは続けて言った。


「せっかく出されたスープを嫌な顔をして食べたら、料理人が可哀想だわ。大人になって他の場所で同じ料理を出されたとき、本人も、それを用意したホスト側も恥をかくでしょう。お勉強だけでなくて、そういった気遣いをするお姉さまが大好きだし、何より嫌いなものごとを克服しようと頑張っておられる姿を尊敬するの」


驚きを隠せない大人達の中で、当たり前のようにそう言って誇らしげに笑った妹の姿は忘れられない。


「私は何を見ていたのだろうと思ったわ。自分のことばかり考えて、自分ばかり頑張って辛いのだと思っていた。誰も自分のことなんて見てくれないと思っていたのよ。でも小さな妹はしっかり人を見ていたのね」


自分はそれまで、妹が屋敷の人間に容易く見過ごされていることにも気付かなかったのに。

その日を境に、エストリタは頑張ることを少し止めた。

嫌いなものは嫌いだと伝えたし、苦手なことも苦手だと言うようにした。だけど、それを克服する姿が好きだと言ってくれた妹の言葉に恥じないように、克服する努力は止めなかった。


「その努力の甲斐あって、“完璧”なエストリタ嬢が形成されたというわけか」

「そうよ。私の“完璧”は、妹の憧れであり続けたいという姉の欲望で成り立ってるの」




小さな妹が、自覚なしに張りつめていたおバカな姉を救ってくれたのよ。

そう言って少しふざけて笑む妻は、真に美しい。



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