ご都合主義的舞台背景説明
「ならプレゼントが被るといけないから俺が一緒に行くのは控えた方が良いだろうな」
「え、なんで? クロードも一緒に見て回ろうよー」
きゃっきゃとはしゃぐ二人を横目に、遠目からぼんやりと通りを眺めながら何やら探し物をしていたらしいクロードが、足元に放置していた肩かけの荷物を持ち上げる。その様子に、てっきり自分達と一緒に回ってくれるものだと思っていたクリスが名残惜しそうに声をかける。
しかし、クロードは静かに首を横に振り、
「一緒に行きたいのは山々なんだけどな、残念ながら今日は先約があるんだ」
と二人に背を向ける。そして、じゃあ気をつけてな、と手を振り、せわしなく馬車の行きかう道を小走りで横断していった。
「むー……」
「また今度って言ってたんだからさ、次機会見計らって声かければ良いじゃねえか」
またしても頬を膨らませるクリスに、カイトが二人分の荷物を手に取りながら慰めの声をかける。
「でもさー……」
「はいはい、分かったからさ、まずは昼ご飯でも食べないか? この前来た時にフィオナに教えてもらった店があるんだよ」
「え、本当に!? 行く行く!」
ほら、早く支度して!とカイトの腕から自分の分のリュックをひったくり、店の場所も名前も知らないというのにぐいぐいと力強くカイトを引っ張っていく。
そのあまりの態度の変貌ぶりに、ちょっとずるい手だったかなー?と苦笑するカイトだったが、少し気分屋の気があるクリスを釣るには食べ物が非常に有効な手段だというのは本人も認める事実であるのだから仕方が無いといえば仕方が無いのかもしれなかった。
カイト達の暮らす国、クレメント帝国。建国より千年以上の歴史を誇る世界で最も古い国であり、世界に三つある大陸の内の一つ、グランディア大陸を代表する大国でもある。その首都たる帝都クローディアの郊外に彼らの在籍する学校、聖レヴェノス学院クレメント校は存在している。
この学校は単なる教育と研究の場というだけではなく、国際組織であるレヴェノス聖教会の警備をする人員を育成するという側面も持っている。その為、一般の学生であっても本人が望めば軍事教練の科目を受講する事が出来る。カイトやクロード、クリスは元から戦技科の生徒であるが、魔術の研究発展を至上命題とする側の魔術師であるレナがこのケースに当てはまる。
本来なら鍛練の量や積み重ねてきた経験が違う一般の生徒と戦技科の生徒とが同じ班に割り当てられるという事はない。しかし、武器を手に持ち身一つで戦う人間と、呪文を唱え魔術を行使して戦う魔術師とを同じ土俵で力量の差を比べる事は出来ない。その為、ある種特例のような形で魔術師のいなかったカイト達第四班にレナが編入されたのだった。
ちなみにこの特例的措置はレナの技術が同年代の魔術師たちよりも高く、より技術のある生徒達と組まなければ逆にチームの足並みを乱す事になってしまうかもしれないという事情があっての事なのであるが、本人達には前述の人員不足の理由しか知らされてはいない。