乗合馬車は貸し切り状態
次の日、カイト達四人は何か新しい事が分かっていないかと校内に幾つかある教員詰所の内の一つを訊ねてみたが、その時点では何も目新しい情報を得る事は出来ず一旦解散の運びとなった。
原則昨日彼らの行っていた期末試験が文字通り学校の生徒達の学期最後の登校日となるので、終業時間まで校内に留まっている必要はない。という事で四人は学校に待機していた乗り合い馬車に揺られながら、学校のある郊外から人々で賑わう中心部へと向かっていた。
「それじゃああたしはここで。お師匠さまから何か聞ければ寮で教えるから」
そう言ってレナは中心部へと向かう道すがら、行き交う人もまばらなまだ郊外に近い住宅街の真ん中で降りた。残された三人はその後も特に何か会話をするという事もなく、馬の蹄の音と舗装された石畳のもたらす規則的な振動に身を任せていた。
しばらくして馬車の窓から見える風景に道行く人の姿や高層建築が増えていき、石畳もより平らに整備されたものへと変わっていく。一際道幅の大きな通りへと出て、道端に停まる乗客のいない馬車の姿が目立つようになった辺りで、ようやくいななきと共に蹄の音が止まる。
「ありがとうございましたー」
カイト達が口々に感謝の言葉を述べると、御者は鞭を持つ手を軽く上げ、通りを行きかう馬車の流れに乗るようにロータリーの向こう側へとゆっくりと去って行った。
「さーて、一ヶ月ぶりの帝都かー?」
長時間馬車に揺られて凝り固まった身体をほぐすために、カイトが大きく伸びをする。
彼らが今いるのは、街の中心部でも最も人々で賑わい、活気に溢れる広場の一つ。四方に伸びる大通りと、広場を囲うようにそびえる一繋がりの煉瓦造りの建物群。そこかしこに広げられた露店と、商品を覗きこみ、口早に店主と交渉をする人々。広場の大部分を占めるロータリーの中心には、半世紀ほど前に起きた大火の慰霊碑代わりのモニュメントが高く高く天を突いている。
「俺はこれから色々店見て回ろうと思うんだけど、お前らどうする? 一緒に来る?」
二人に問いかける体裁をとってはいるが、その目はじっとまだ成人前のあどけない顔立ちをしたクリスへと向けられていた。
「むっ、変な気を回さないで欲しいなー。これでも自分の身くらい自分で守れますー」
カイトの言外の懸念を感じ取ったクリスは、自分の力を信用されていない、とむくれて赤みがかった血色の良い頬を膨らます。そういった幼い仕草がこっちの不安を煽っているのだという事は感じ取ってくれないのだろうか。知らず眉間にしわを寄せてしまうカイトであった。
「遠回しな誘いをしていないではっきり言ったらどうだ、もうすぐクリスとチームを組むようになって一年だからさりげなく欲しいものの調査がしたい、と?」
通りを行きかう人々の様子を眺めつつ、クロードがぼそりと呟く。その言葉に「えっ!?」とクリスが目を見開き彼を見やり、すぐさま視線をカイトへと向け直す。
「あ、あー……うん。実はそうなんだよ。出来ればぎりぎりまで内緒にしておきたかったんだけど、ばれちゃしょうがないよな」
クロードの助け船に目線だけで感謝しつつ、即座にそれらしい言い訳を考え出す。と同時に、プレゼントの内容によってはこれからの長期休みでユウ達と遊び倒す計画に支障が出るかもしれないな、と内心溜息をついた。
けどまぁ、何かプレゼントでもあげてお祝いをしようって考えていた事は本当なんだから、結局はこうなってたのかもなー。同時にそうとも考えて、何とも言えない気分になるカイトではあったが、両手を上げて無邪気に喜んでいるクリスの姿を見て、まあ……それでも別に良いか、と苦笑を浮かべるのであった。
「そんじゃ、今度は一緒に来てくれるよな?」
先程までとは違った響きを感じるカイトのその言葉に、クリスは「もちろん!」と大きな声で元気良く返事をした。