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風が紡ぐ詩  作者: 日向晴希
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帰路に揺れる松明の火

「でさー、結局ぼくらの試験ってどうなったの?」


 復活した獣の死体の回収やその他諸々の用事が済んだ帰り道、自分達が分かれてからの出来事を聞くのを控えていたクリスが、ようやく我慢していた疑問を口にした。


「あー、とりあえず死体を検分した限りじゃあ通常の個体との差異は見られなかったから、これからの精密検査で何か分かるまでは平常通りの評価になるってさ」


 松明を持ち、先頭を歩くカイトが僅かに後ろを振り返って答える。


 現在彼らがいるのは、地上と地下迷宮とをつなぐ、馬車も通れそうなほど広々とした空間を誇る洞窟の中。

 足元を埋め尽くすなめらかな丸石や、壁面からのぞく無骨な岩などがほんのりと淡い光を放ち、洞窟内部は多少の見通しが効く程度の明るさが確保されているのだが、それに油断した人々を襲う不埒な輩が物陰に潜んでいる事もあるため、カイト達は事前に支給された松明をしっかりと灯していた。


「ふーん、じゃあまだはっきりとした事は分かってないんだ」

「まぁ、想定外の出来事みたいだし仕方ないんじゃねえの?」


 松明の光が届く範囲に浮かび上がっている人影は全部で四つ。本部で顔を合わせたユウことユージーンとフィオナの二人は既に地上へと戻っていた。


「しっかし、想定外の出来事ってどういう事なんだろうなー」

「うん? 言葉通りの意味じゃないのか?」


 自分で想定外の事だと言っておきながらその意味を図りかねている様子のカイトに、クロードが首をかしげる。

 四人は丁度地上までの道のりの半分ほどのところまで差しかかっており、周囲には他の階層へ通じる道もなく、誰かが近くにいる様子もなかった。ちらと道の前後を見回し、その事を確認したカイトは他の三人を近くに呼び寄せ、声を抑えて自身の推論を口にした。


「だってさ、考えてもみろよ。うちの学校何十年も常夜の森エヴァーナイトフォレスト舞台にして試験やってきてるんだぜ? L3に生息してる魔物の生態とかとっくに全部把握してるだろうし、今までそいつら相手にしてきてどういう事があったのかみたいな経験だって豊富にある。それなのに、生徒のいる前でその歴史と威厳を否定するような想定外の事態なんて発言を軽々しく言っちまうなんてさ、先生達内心実は相当焦ってたって事なんじゃねえの?」


 その言葉に、クロード達はなるほど、そういう事かと頷く。


「でもさ、それだけで前例のない出来事だって判断するのは早計なんじゃないの? ただ単に頻繁に起こるような出来事じゃなかったからすぐには判断付かなかったって可能性もあると思うんだけど……」


 なるほど、と頷きつつも即座に自分なりの反論を口にするレナ。


「えー、それじゃあんまり面白くねえじゃーん。わくわくする方に賭けてみようぜー?」


 先程までの真剣な表情から一転、子供のように唇を尖らせるカイトに、


「わくわくする方って……」

「お前なぁ……」


 クロードとレナは溜息をつき、思わずお互いの顔を見やる。しかし、唯一クリスだけはカイトの意見に賛成のようで、オレンジ色の綺麗な瞳を好奇に輝かせてしきりに首を上下させていた。


「ところでカイト、一つ良いか?」

「ん? 何だよクロード」

「この話ってわざわざこんな小声でする必要があるようなものだったのか?」


 眉間にしわを寄せ、あからさまなしかめっ面を作り出したクロードが問いかける。

 話の内容自体は真面目なものだったと言う事が出来るのだが、いかんせんそれを口にした本人の態度が態度だった為にその重要度が実際よりも低く感じられてしまうのだった。


「ま、まあ良いじゃん。別に小声で話してるからって重要な事言わなきゃいけない訳でもないだろー?」


 若干引きつった笑いを浮かべつつも、大仰な身振りでクロードの視線から逃げるカイト。その動きに合わせて、手に持った松明の火がゆらゆらと揺れる。おどけるカイトとそれを無言で見つめるクロード。

 しんと冷える洞窟の中で静かな攻防が繰り広げられる。


「……いや、うん、ごめん、ちょっとふざけ過ぎたわ」


 しばしの沈黙ののち、わずかに肩を落としたカイトが目線を下へと向けながら謝る。その姿にクロードは再び浅くため息をつき、「まぁいいさ」と、この話はこれで終わりだという合図を示す。現時点では分かっている事が少なすぎるので、これ以上踏み込んだ事を考えても仕方ないだろう。そう判断したのである。

 仲間内で意見をまとめる時はクロードに判断をゆだねるというのが彼らの暗黙の了解であり、カイトとクリスは無言のままにそれに従う。

 しかし、レナはまだ何か思うところがあるのか、「でも……」と一瞬口ごもる。だが、すぐに「まずは少し調べてからにするわ」と、首を横に振った。


「じゃ、早く帰ろうよ。早く帰って、学校の食堂でお疲れ様のケーキを食べるのだー」


 言うやいなや、カイトの手から松明をひったくりクリスが先へと駆け出す。


「あ、おいこら! 勝手に行くなって!」


 つられて後を追うようにカイトも走り出し、仕方ない奴らだと一瞬顔を見合わせた後、クロードとレナも二人の後ろをついて行った。

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