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風が紡ぐ詩  作者: 日向晴希
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報告、けれども謎は謎のままに

「第四班、カイト・クーランジュ、並びにクロード・カイウェル、ただいま戻りました」


 入口代わりになっている虫除けの布をくぐり、中に詰める数人の教官たちへとカイトは大きな声ではっきりと用件を伝えた。すると、近くにいた一人の教官が歩み寄ってきて、


「あぁ、クーランジュか。よく戻ってきたな。セシリーから話は聞いている。こっちへ来い」


 と、あらかじめ用意されていたのだろう、他のテーブルが書類や生徒が持ち帰って来たと思しき布袋などで溢れかえる中で一ヶ所だけぽつんと何も置かれずにあるテーブルへと案内された。


「話は聞いている……のだが、正直それだけでは何が起きたのか判断するには情報が足らん。実際にその復活した相手と接触したお前達からも詳しい経緯を聴かせて欲しい」


 テーブルに着くやいなや、ぴしっと教官用の制服を着こなし、見るからに真面目そうな風貌をした女性教官が口早にそう告げる。


「あーっと、実はオレ達も具体的に何が起きたのかってのはよく分かってはいないんですけど、脳天ぶち砕かれたはずの相手が何故か息を吹き返して襲ってきたってところまでは知ってますよね?」

「そう聞いている。というか、それしか聞いていないと言った方が正しいだろうな」


 故に何が起きたのか正確に知りたいのだ、と教官は言葉を続けた。

 テーブルに肘をつき、両手を口の前で組んで話を聞く姿勢となった教官に対し、カイトとクロードは自分達でもさして理解出来ていないものをどうやって分かりやすく伝えようかと目を合わせる。


「……えーっと、ですね。まずは俺達が試験の課題であるキマイラを一旦倒したところから始めようと思うんですけど――」





「なるほど、何が起きたのかは今の話で大体把握出来た。たしかにそれは普通の個体であるとは言い難いな」


 カイト達の話が終わった事を確認すると、それまで無言で二人の話を聞いていた教官が、ぎしり、と背もたれに寄り掛かる。


「と言うか、そもそもそれが普通のキマイラであるという保証もないな」


 二人から視線を外し、その向こうに広がる樹海を見透かすように目を細めて、ふう、と息を吐く。


 キマイラとは魔獣の中では比較的低いランクに分類されている獣である。様々な伝説、逸話に同じ名前の怪物が登場するが、現在キマイラと呼称されている生物はその伝説上の生物と同様に数種類の動物の特徴を兼ね備えているからそう名付けられただけであり、口から火炎を吐き出す事もなければ、蛇の形をした尻尾に猛毒を秘めてもいない。

 強靭な獅子の体躯と、力強い鷲の翼、そして自在に動く蛇の尻尾。それが実際にキマイラと呼ばれる生物がもっている特徴である。その中に粉々に砕かれた頭蓋を再生させる、もしくは脳無しでも行動できるなどというものは含まれていない。


「とりあえずはお前達が持ち帰ってきた爪とやらを調べさせてもらうとしよう。試験結果については一時保留だ」


 構わんな?と聞かれるが、自分達ではどうする事も出来ないので二人はただ頷くしかない。下手するともう一度試験やり直しという事になるのだろうか。それだけが二人の気がかりだった。


「場所が分かるならお前達が件の相手と交戦したという場所に連れていってもらいたいのだがな。そうすればそれだけ早く色々な事が分かるだろうし、お前達の試験を再度行うかどうかの判断も早期に済ませる事が出来る」

「ほ、本当ですか?」


 そんな二人の心情を推し測ったかのような発言に、思わず身を乗り出す。


「お前、道覚えてるか?」

「何かしらの調査を行うだろうと思って帰りの道すがら、近くの木々に目印を付けておいた」

「でかした!」


 自分達の遭遇した謎の獣の正体よりも試験の結果についての心配の方が勝っている二人の様子を見て、教官は緊張感のない奴らだ、と内心溜息をついた。


「あぁ、そうだ。一つ聞かせてもらって良いか?」

「はい、なんですか?」


 おふざけ程度に互いを小突き合っていた二人が、手を止めてこちらを向く。その年相応の素直な姿に、今回の件が秘めている事の重大さに気が付かないのも仕方が無いのかもしれない、と組んだ両手に込める力を僅かに緩める。


「今回の試験は、課題の対象となる魔物の強さによって獲得出来る点数が違う。得点の高い相手の方が強く、討伐が困難になるのだから、弱い相手を倒して点数を稼ぐのが最も無難な方法のはずだ。それなのに何故お前達はわざわざ一番得点の高いキマイラを選んだのだ?」

「あーっと、それはですねー……強い奴倒して颯爽と帰ってきたら格好良いかなって思ったからです」


 あはは、とカイトが照れくさそうに頬を掻く。半ば予想していた答えではあったが、その能天気な回答にがくっと肩を落とした教官であった。

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