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風が紡ぐ詩  作者: 日向晴希
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再会の喜びもつかの間に

 それからしばらくして、何度か木に登って方角を確かめつつではあったが、カイトとクロードは無事この階層の入口付近に設置された試験監督本部まで戻ってきた。この付近は魔物が近付いてきたらすぐ分かるように周囲の木々を根こそぎ伐採してあり、非常に見晴らしの良い場所となっている。


「お、カイト! クロード! 良かった、無事だったんだね!」


 生い茂る木々を抜けて、庭つきの一戸建てが数軒建てられるほどの空間に二人が姿を現すと、それまで所在なさげにうろうろしていた一人の少年が砂利がちの地面を一目散に駆け寄ってきた。


「おークリス、そっちも無事だったか! レナは?」


 カイトは駆け寄ってきた赤髪の少年と再会のハグをし、飛びついて来た勢いそのままにしばしくるくるとその場で回転する。


「レナなら今フィオナ達と一緒に話してるよ」


 クリスと呼ばれた、年相応に小柄な少年はそう言って自身の背後を指差すが、残念ながら即席のテントに阻まれ、目的の人物の姿は見えなかった。


「って、クロード血だらけじゃん! 大丈夫なの?」


 カイトの次にクロードにもハグをしようとしたクリスが、その血まみれの装いに気付き、驚きと心配の声を上げる。


「ん、あぁ、大丈夫だ。これ全部相手の返り血だからな」


 問題ない、とそっけなく返すクロードだったが、クリスは、


「いや、でもびっくりするって。ほら、顔べとべとだから今ちょっと拭いてあげるね」


 と言うと、すぐさま相手の元へと近寄り、腰のベルトに捻じ込んでいたぼろ布でごしごしとクロードの顔を拭き始める。身長差があるのでクリスは少し背伸びをする形となってしまっているのだが、そのせいで着ている服の袖が汚れてしまうのは構わないようだった。


「おーい、二人とも大丈夫だったー?」


 そんな風に騒がしくしているうちに、外の様子に気がついたのだろう、緑色の髪をした少女がテントから出てきた。裾の長いローブを着てはいるが、切れ目を入れたりなるべく袖を短くしたりと最大限に動きやすい改造を施してある為あまり重苦しい印象は受けず、それらの工夫はむしろ見る者に少女の活発さを印象付けていた。


「おーレナか。二人とも無事だぜー」


 カイトは小走りで近寄ってきたレナとハイタッチを交わし、その後ろに控える人物たちにも声をかける。


「フィオナ、ユウ、お前らはもう試験終わったのか?」

「もうとっくにな。じぶんらがたぶん今日試験やっとる中では一番最後なんちゃう?」

「まぁ、今日試験を受けている班自体が少ないから、それだけで何かを言う事は出来ないでしょうけどね」


 指抜きのグローブをはめた黒髪の青年、ユウがきさくに笑いかけ、向日葵色の髪をした女性、フィオナの方は含みのある笑みを浮かべて、腰辺りまで伸びるその特徴的な色合いの髪を掻き揚げる。


「へいへい、のろくて悪かったですねー」

「あら、わたくしは別にそんな事を口にした覚えはないんだけど?」


 カイトが眉根に寄せて唇を尖らせると、くすり、とフィオナが意地悪気に口元に手を当てた。その様子にさらに何事かを言おうと口を開いたカイトだったが、後ろから袖を引かれて喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。


「どうした、クリス?」


 自分を見上げるオレンジ色の瞳を見つめ返す。


「早く報告に行かなくていいの? ぼく達何がどうなったのかよく分かってないから自分達が知ってる事しか教官たちに伝えてないよ?」

「あ、そうか。そうだよな。んじゃ、早く行かないと」


 フィオナにからかわれ、本来の目的をうっかり忘れるところだったカイトは、レナ達に「また後で」とだけ言い残し、クロードと共に足早に急ごしらえの試験本部へと向かう。

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