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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

獣姫

作者: 半月

人間ではない、取り付かれた、異形の姫。人は私をそう呼ぶ。

もともと私には人にはない力があった。大切な人を守るときにだけ使いなさいと言いつけられた一つの力。

私が一度本気で願えば、国おも滅ぼす力。

私は、炎の使い手だった。

それを自覚したのは7歳の頃。大臣に反抗的になりはじめ、あまりの無礼な振る舞いに、私の怒りは収まることを知らなかった。

じりっと、何もないところから焼け始めた大臣の服と、まるでその対価とでも言うように異形な姿へとかわろうとしていた私の一部は、小さい私にとてつもない恐怖を植え付けた。

大臣はその後、私を化け物と蔑んだ。それに王が激怒し、大臣は左遷されたものの、私は監禁されるかのように、一人きりの部屋に移された。

食事はメイドが運び、着替えもメイドが運ぶ。

勉強も専属がいて、何一つ不自由ない空間がある。

けれども私は、この部屋から出られない。

動き回るには十分な部屋と、お手洗いと、お風呂も遠くの方へ設置してあるけれど、この部屋。いや、フロアは、基本的には、私一人しか存在しない。

一つのオモチャ箱のような私の空間。ここが、私の知る、世界だった。

窓を開けて、ぼんやりと外を眺めた。

その刹那、突き飛ばされるようにこちらの下にきた騎士が罵倒を受けた。

「化け物!」

夜空のように黒く、青みを帯びたその髪は、ゆらりと揺れると、絶望に似た瞳で、少しばかり身を乗り出した私を見上げた。

「あんたが、姫様・・・・・・?」

騎士の第一声は、それだった。なんと無礼だろう、そう思ったけれど、それ以上に私は興味がわいた。化け物と呼ばれる、その美しい髪の毛を持つ青年に。

青年は、敬礼すると、頭を下げた。「いや、失礼。お見苦しいところを。」と言って去ろうとする。私は身を乗り出して「待って」と叫んだ。

私は人のことをなにも知らない。世界のことを知識のみの小さな器でしか知らない。当然、この国のことも知るよしもなかった。

何が起こっているのか、何で化け物と蔑まされていたのか、その騎士に問いたいことはたくさんあった。騎士は私のたくさんの質問にふっと、笑うと、また夜に来ますと告げて、私のもとを去っていった。

来るはずもない、わかっていたけれど、それでも私は夜をまち、外を眺め続けた。

私が寝る時間になっても訪れない騎士を待ち続け、ついに、数時間と経った頃、その騎士はやってきた。

「遅くて、待ちくたびれましたわ!」ちょっとあきれたように言うと、騎士は少しだけ申し訳なさそうに「すみません」と謝った。

ここから飛び降りれたら、彼の近くで話せるのだろうか、そんなものわからないままに私はブランケットを羽織り、ベランダに出た。

騎士は毎晩私にいろんな話を聞かせてくれた。そのおかげで寝不足になったほど、興味深くおもしろい話ばかりだった。ただ、自分達の境遇の話は一切触れなかった。それが、私たちの中で暗黙の了解だった。

そんなある日、騎士は、内防壁の隣の塔の外階段をひょいっと飛び越え、私と同じ目の高さまでかけ上がってきた。

私は驚いて目を丸くし、彼はなんということも無いような顔で私を見返した。

「やっぱりだ。」

そう呟かれ、私は、わけがわからず、ただまばたきをした。彼は続ける。

「いつも下から見上げてたからちゃんと顔が見えなかったけど、あんた、綺麗だな、姫様。」

そう言って、かすかに私の髪の毛に触れてから手を引っ込めた。

私は赤面し、顔に熱を帯びるのを感じながら、やっとのことで、「何を・・・・・・」と言った。

彼は何もなかったかのように、いつもの話をしはじめた。なんてことはない、国の話を。

私が笑って興味津々で話を聞くたびに、騎士は微かに笑った。そのたびに、今まで知ることのなかった距離の近さを感じ、ドキリとした。

いつも抑揚のない声に、私は彼の感情が読み取れなかった。ただ、微かに彼が笑うたびに、彼のことも知りたいと思った。私は思いきって暗黙の了解であったそれらの話を持ち出した。

「何故、あなたは、あの日、化け物と呼ばれていたの?」

彼はあの日?と軽くとぼけてから、真っ直ぐに私を見て、それから観念したように「いつものことですよ」と告げた。

そんなのおかしいわ、と私が呟けば彼は人は皆自分にないものに憎悪するものです。特に大体の人間が出来ぬことは・・・・・・と静かに私を諭した。それなら私だって・・・・・・といいかけて、騎士は不意にだしかけた左手をしまい、右手で私にしっと、指を近づけた。

私は「何故?」と問いかけた。騎士は左手が利き手のように見えるのだ。けれども、左手でなにかを触れることをしない。無機物以外がその手に握られるところを、少なくとも私は見たことがない。騎士は私が言わんとすることを理解したのか、軽く左手をあげて見せた。

ゴツゴツとした細いのに太くてしっかりとした手が、月の光に晒される。「やはり、私なんかの手とは違いますね」と言って私がその手に触れようとすると、彼はその手を避け、まるで触れられたくないとでも言うようにその手を奥へと引っ込めた。

「何故・・・・・・!」今度は嘆きにも似た声色で私は騎士に問いかけた。

彼は虚無に口の端を持ち上げると、「いいか、姫様、人には触れられたくないことの一つや二つくらいある。とくに俺はこの指一本であんたなんか殺せるんだよ、殺されたくなかったらこれ以上の詮索はやめて、こんな無駄なおしゃべりもやめるんだな」そう言って、騎士は私の首をその片手で絞めるそぶりを見せた。

妙な迫力に私は一瞬身を引いた。けれども、私は怖いよりもずっと、知りたいと願ったのだ。この身が滅びたところで、特別誰かが困るわけではない。こんな鳥かごのなかの鳥一匹消えたところで、正妃ではない妃達の姫君たちがのしあがってくるだけなのだ。私は、私の命の価値がわからない。何故、こんなふうに閉じ込められる形で生かされているのかも、わからない。

今は、ただ、この人のことが知りたい。

彼はそんな私に驚いたように、目を見開いてから、「やめたやめた。あんた殺したら俺も殺されちまう。あんたはもっと驚けよ、鳥籠の鳥にしちゃ勇敢すぎるだろ」 と飽きれ気味に吐き捨てた。

私は離れていく手を目で追いながら、「私も、経験があるのですよ」と静かに告げた。

彼はぴたりと止まって、静かに私を見た。何故私が化け物の姫君と呼ばれるのか、何故閉じ込められているのか。対価の事を覗き、彼に話した。彼は静かにうなずくと、いきなり下へと階段をかけおり、またひょいっと壁を乗り越えると、一輪の花をもって戻ってきた。彼は、右に持っていた花を左手に持ち変えてから、私に手渡した。私はわけがわからないままその花を受けとると、花はすっかりドライフラワーになっていることに気がついた。

想わず「冷たい・・・・・・」と呟けば、彼は花びらを握りつぶし、粉々にしてから、こう続けた。

「これが、俺の力ですよ、姫様。無情にも俺は、意図も簡単に人を殺してしまえる。だから俺は、あんたには触れられない。嫌うならいいんです。どうぞ嫌ってください、その方が楽だ・・・・・・」彼はそう言って空をあおいだ。

どうやら彼はその左手で触れるすべてを凍らせるようだった。

「私があなたを嫌うと、本気でお思いですか?」

私の言葉に、空をあおいでいた彼はピタリととまり、ゆっくりと私を見返した。

それから、静かに、「じゃあ、あんたは俺が守りましょう。この力を武器に変えて」とかすかに笑った。

私はにっこりと微笑んで「では、お願いします」と返した。

彼は、顔を背けると、「また来ます」と私に告げて階段を降り始めた。私は「お待ちしてます」とその背中に向かって呼び掛ければ、彼はこちらに背を向けたまま、微かに笑ったような気がした。

そこから本当に仲良くなれた気がしたのに、次の日、彼は私の元へは来なかった。

次の日も、そのまた次の日も・・・・・・わけがわからず、涙が出たとき、私は悲しいという感情を知った。

私は彼が来ないのが悲しいらしかった。寂しいより、悲しいのだ。私が嫌われてしまうようなことをしたのか、嫌われたのか。そう考えるほどに悲しくなる。

そのまま5日が経とうとした頃、彼は、ふと私の前に現れた。

私はお昼だということも忘れ、窓辺に駆け寄ると、「どこにいらしたのですか!」と叫んだ。

彼は、ふっと、お辞儀をすると「人違いではありませんか」と告げた。

「人違いであるはずがありません!私が貴方を間違えるはずがありません!違うというのなら、私に左手で触れなさい!己の左手で!・・・・・・どこにいってらしたのですか・・・・・・」気がついたら怒鳴りは涙に変わり、あわてて涙をかくして騎士に背を向けた。

騎士は以前のように壁を乗り越え、階段をかけあがり、背を向けた私の横まで壁を簡単なはずもないのに簡単に飛び越えてくると、「・・・・・・あんたには負けるよ、まったく」と告げて、私の横に屈んだ。

お昼を運んできたメイドが慌てて「どなたです!出ていってください!」と彼を退かそうとしてから息を飲んだ。

「王族家の守護兵!?し、失礼しました。けれどもここは、姫様の部屋・・・・・・いくら守護兵とはいえ、無断で入ってくるのは・・・・・・」そういいかけたメイドに「いいのです、彼は無断ではなく、許可を得てきましたので」と諭して返すと、私は「あなた、王族の守護兵になったのですか!?初歩は歩兵のはずです、騎士の地位を捨ててまで何故・・・・・・!」と彼に言えば、彼は静かに「あんたを守ると約束したからさ」と告げて、綺麗になびくその頭を下げて、私にこう続けた。

「俺はあんたの犬だ。この身は、全部あんたのものだ。だけど、直属になるにはまだ時間がかかる、だから、それまで待ってくれないか」とそう告げた。

犬でもなければ、その身を自分に捧げて欲しいとも私は思わなかったけれど、王族と兵士、はじめて対等にはなれない壁を実感した。

空は澄みわたるまでの晴天だった。

私はハッとしてから、「そう言えば、何故私を知らないふりをしたのです?」と訪ねれば、まだ会うとき、つまり、来るべき時ではないと思っていたからだと言う。「けど、あんたには負けだ」と、 また彼は呟いた。

「先程から何で勝ち負けを競っているのです」飽きれ顔で私が問えば「まだ知らなくていいです」と彼はまた静かに笑った。何故かそれが妙に小憎たらしく「もう」と言って私は軽く彼の肩を小突いた。

それから数ヶ月と時は過ぎ、元々実力のあった彼はめきめきと頭角を表した。

日に日に彼は裏で化け物と呼ばれる機会が増え、私の守護兵を志願したことから、化け物の集いと呼ばれたことも彼の口から、知った。

別段、それを悲しいとも思わなかった。仲間がいるとはなんとも心強いとそう思った。

そうして2年ほどの月日が経とうとした頃、彼は私に告げた。

「姫様、そろそろ国の情勢が不穏になりつつあります。今貴方が前に出なければ、この国は滅び、あなたもろとも滅ぼされる運命をたどることとなるでしょう」

いつも彼は・・・・・・マシュアは、私のことを姫様と呼び、名前を呼んではくれない。

「マシュア!姫はこの城内、たくさんいるのですよ。私だけの守護兵になると誓ったのなら、私をファルエと呼びなさいと言ったはずです!」

「・・・・・・失礼しました、ファルエ姫。国が革命を起こそうとしています。何もしないというなら、国は滅びます。この前、東の国が革命にて撃ち取られました。近々この国もそうなるでしょう。この国もそうなるのなら俺は・・・・・・」

「俺は?」

「姫様、あんたをつれて逃げます」

真っ直ぐに私の目をとらえてそう語る彼を、私は笑いながら「逃げてどうするのですか?行く宛などありはしないのに。ましてや私達は化け物、この国でも居場所などないのですよ?」と問えば、彼は「それでも、逃げます。俺はあんたを殺すわけにはいかない」と切羽つまった声でそう告げた。

私は、「ありがとうございます。けれど、私も一国の姫、逃げるわけにはいきません。私がなんの役に立つのかはわかりません。それでも、逃げるわけには行かぬのです。ですから、国が安定してまた出会った頃のように話し合えたら、私をここから連れ出してください。姫と、騎士なんて身分など関係のない場所まで」とのんきに言ってにっこりと微笑んだ。

マシュアは、ただうつ向いてから、「あんたは・・・・・・あの時もそうだった・・・・・・姫様、あんたは、死ぬことが怖くないんですか・・・・・・!」絞り出すような、届かない願望にでもすがるつくような、そんな声だった。

私は、ただ一言、「怖いです」と告げて、マシュアがなにかを言い出す前に言葉を続けた。

「マシュア、あなたと出会って、死ぬことがもっと、より濃く怖くなりました。だけど、だからこそ、私は逃げてはならないのです。この国を滅ぼしてはならない。私に何ができるのかは、わかりません。何もできないのかもしれません。けれど、今逃げ出すのもよろしくはないのです。貴方をただの逃亡犯、しかも、私をさらった罪での犯罪者になど、させません。貴方を革命の犠牲者にする気もありません。貴方が私を守るというなら、私だってあなたを守るのです。貴方の居場所を守るのです。わかってもらえますか・・・・・・?」

マシュアは度々頭を垂れ、「あんたはズルい・・・・・・俺の居場所なんかいらない。あんたが無事でいてくれるなら、それが俺の居場所なんだよ」と吐き捨て、「それでも、あんたは逃げないと言うんだろ?」と私を見た。

私は微笑んでから頷き、「勿論、マシュアも大事です。けれど、私はこんな蔑まされた私でも、家族を見捨てるわけには行かない。黙って国が滅ぶのを遠くで見ているだけなど、出来はしないのです。できるなら、国を救いたい。すべての人を救いたい。だから、逃げ出せない。私がなんの力になるのかはわからなくても、破滅の力しかなくても、それでも、私にできることがあるならやりたいのです。わがままなのは百も承知ですが、今回は黙って聞き届けてはくれませんか?」彼はまた「あんたには負けたよ」と呟くと、身を引き、頭を下げた。

「あんたが戦うなら俺も戦う。もし、あんたに危険が及ぶなら、俺は全力であんたを守る。今ここで、きちんと忠誠を誓ってもいい。姫様、あんたをみすみす殺しはしない」深々と立て膝に頭を下げたマシュアの肩に「忠誠など・・・・・・」と言って手を置こうとすると、彼はその手をとり、静かに口付けた。

「騎士の分際で姫様の手に口付けることを、お許しください」彼はそれだけ告げて、私に背を向けると部屋から出ていってしまった。

手の甲に口付けるのは、挨拶の意味合いでしかない。それでも、何故だかその手を私は強く洗えなかった。

何故なのですか・・・・・・と呟いてみても何かが変わるわけではなかった。

その夜、革命への幕開けとなるであろう、小さな反乱が首都で起きたと、風の噂で聞いた。

召使らの幾人かが、城から逃げ、兵士の数人が革命側に寝返った。

城下内共に空気がピリピリとし始め、ついに数週間後、私は王に呼ばれた。(おとうさま)からの初めての私への言付け。

それは、私が望まぬ強制の仕方。また、私がもっとも恐れた結末の一つだった。

「反乱軍すべてを燃やし尽くせ」という、非情な命令。

マシュアは険しい顔で、私を全く見ずに、前だけを見据えていた。

この結果(こたえ)にまだ揺らぐのは、私だけだというのですね・・・・・・私は一つ息をついてから、前を見据え、ドレスではなく、身にまとったこともないような鎧を纏うと、歩きだした。

戦火の中、私は遠くから戦場を眺め、静かに息を吹き出して、集中すると、手を前につきだした。ふと、炎がその場に現れ、火柱が立つ。痛い。心が。痛い。皮膚がどんどん人ではなくなっていく。焼け付くような、疼くような肌の痛みと、心の痛みが私を襲った。

私の手がほんのりと紫にかわったころ、マシュアが、姫様!と叫んで、近くに飛んできた矢を凪ぎ払った。

「きゃあっ!」と驚く私に、マシュアは、くそっ!と言っていつ産み出したのか、氷の刃を相手に投げた。相手はひらりとよけると、走り去っていった。

「中々の腕の持ち主だな」それから私の手を見て、姫様・・・・・・?と、声を落とした。

私はそっと後ろで腕を組むと、なんでもありませんよ?と微笑んだ。

それから革命はどんどん波紋を呼び、圧倒的に城が不利になった頃には、私の体は包帯だらけだった。

マシュアは、人々を次々となぎ倒し、私は流す涙も枯れ果て、ついにマシュアの喉元に剣が突きつけられようとしたとき、私は全身全霊の力をつかって、あたりを焼き払った。

力を使い果たしたのか、使いすぎで急激に獣化が進んだのか、私は体が動かせなくなった。全身が裂けるかのような鋭い痛み。呻く私をマシュアは、森まで連れてきてくれた。

全身が燃えるかのように熱く、裂けるかのように痛い。

「姫様!」

私は、獣に変わってしまう私を、マシュアに見られたくなかった。

「マシュア・・・・・・最後のお願いがあります・・・・・・私を、どうか私を・・・・・・その手で殺してくれませんか・・・・・・」

最後まで私を信じてくれた彼の手で殺されるのなら、それ以上の幸せはない。

けれど、このままでは私は、いや、もうすでに私は、以前彼が美しいと言ってくれた容姿はどこにもない。

彼は、「できません、できません、姫様!あんたが死ぬなら、俺も死ぬ!」と涙声で言った。

「それは、なりません・・・・・・いいですか、マシュア、私は、もう以前の私ではいられません・・・・・・私は奇跡の力の代わりに、対価があるのです・・・・・・対価は、力を使うたびこの身が、獣化するということなのです。もうすでに、ここにあなたの知る姫様はいないのですよ・・・・・・」

「何を・・・・・・包帯がとれかかってますよ、姫様・・・・・・」

「触ってはなりませんっ!!」

私の大声に彼は身をこわばらせた。私はまた静かに、「なりません・・・・・・いいですか、マシュア・・・・・・私を殺せぬなら、私をここに置いていくのです・・・・・・私の姿を、見てはなりません・・・・・・あなたは、私のものだと言いましたね。あなたは、私に忠誠を誓うと、言いましたね・・・・・・?ならば、これは最初で最後の命令です。二度と、私の姿を見てはなりません。私をここに・・・・・・置いていってください・・・・・・」と続けた。

彼は、ぐっと息を飲むと、そっと、私から離れた。

「マシュア・・・・・・これが、本当に最後のわがままです・・・・・・もしよければ・・・・・・また、ここにいらしてください・・・・・・私の姿は見えずとも、私はここで、生きています・・・・・・」

マシュアは、泣いていたのかもしれない。酷く震えた声で「ええ、ええ、是非・・・・・・会いに来ます。何度でも・・・・・・姫様・・・・・・」と告げて走り去っていった。

私は、「最後まであなたは、ファルエと呼んではくださいませんでしたね・・・・・・」とかすかに笑うと、あまりの体の痛みに、「あぁぁぁああっ!!!」と叫んで、そのまま視界は暗転した。


その後、騎士と姫の行方を知るものは今は、いない。


―昔焼け野原になったある国のある森のなかで、幻想的な光がふると、恋人たちに噂の場所があった―


―人々はその光をただ、愛しい者と共に眺めた―


―その国には化け物と呼ばれた美しい姫と、化け物と呼ばれた騎士がいた―


―美しき姫は戦争後行方不明となり、騎士は騎士の座を降りて、その後は風の噂がすべてのたより―


―ちょうどその頃、光の噂も生まれた―


―騎士は姫にこがれたようで、姫が行方知れずとなったあと酷く落ち込んでいたという―


―ところがある日、その光の中に化け物が一体潜んでいたという―


―勇者と名乗る数人は上半身が女体の化け物を切り殺し、村に平和をもたらした―


―ほんのりと青光する白髪の男が叫び狂い、その化け物にすがりつくと、やたらめたらに武器を振りかざしてから、勇者たちに殺された―


―そこには、男と化け物の死体が残り、その後の幻想的な光りの噂は一切途絶えた―


―もしかしたらその光は、愛しき人と結ばれなかった、姫の流した涙から生まれた、愛しき者達(われわれ)への低温の炎であったかもしれないことを知る者は、いない―






―これは、もう実在したかもわからない遠い遠い異国のずっと昔のお話である―

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝見させていただきました。 異端の者からの視点で書かれた感じが良いですね。 最後の結末も良かったです。
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