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9: 竜を追うものども (前編)

皇竜との遭遇編。

視点はハクレン嬢。


今回はまだ本格的には触れてませんが、

戦闘描写にはあまり期待しないでくださいorz


狂ったように吹き荒れる、砂漠の風。

紅砂を巻き込み、耐え難い熱を孕んだ風の中に、「それ」は居た。


地上に堕ちた太陽。

翼ある獅子。


「王」の名を持つ幻竜――皇竜ソル=グリムレア。


堂々たる姿は、命ある者に『畏怖』を呼び、魂を恐怖で縛り上げ、

その身を守る業火は、対峙に値せぬ“弱者”を容赦なく焼き捨てる。



「よう、王様。今度こそ、決着を付けようじゃねぇか。」



魔剣士が、剣把を握りしめる。

革のグローブが、彼の手元で僅かに不快な音を立てた。


一歩、また一歩。


皇竜と魔剣士の距離が詰まっていく。

魔剣士の黒鋼のグリーブが紅砂を踏み抜いた瞬間。 風が吠えた。







Side:ハクレン





「まだ、あたし生きてる。」



今日も無事に、『拠点』まで帰って来れた。

流石に日も落ちれば、砂漠の熱気も薄らぎ、大分過ごしやすくなる。

……とはいえ「過ごしやすい」だけで、蒸し暑いのには変わりない。

夜も暑い砂漠など、この『夢幻砂漠』の奥地くらいだろう。


シェラザードを出発して、はや4日。

初日に発見した『遺跡』を拠点に、“探索”が続いている。

こんな広大な砂漠で、特定の竜をどうやって探せばいいのか………

幸か不幸か、その心配だけは、杞憂に終わった。

『遺跡』は偶然にも“餌場”の側であったのか、『骨の谷』と名付けた

場所で、あたし達は、ごくあっさりと、皇竜と遭遇した。

見たこともない程巨大なエクウスの死体と、それを引きずっていた皇竜。



(これを、いったい「どうしろ」と?)



ファーストコンタクトの、第一印象はそれだった。

皇竜は、こちらに一応気がついていたようだが、興味はない、とばかりに

一心不乱にエクウスを解体していた。

おそらく、あたし達は『砂漠の民』と認識されてたのだろう。

『骨の谷』には無数の『砂漠の民』の姿があり、竜素材の回収をしている。

彼等の中には、あたし達の存在に気がついた者も居たらしい。

1人。また1人と、何処と無く消えていく。

最終的にはあたし達だけとなったのに、皇竜はまだ食事に夢中だった。



《折角油断してくれているのだから、便乗して差し上げましょう。》



耳元にある通信の“呪印”から、簡易テレパスにてアルバが『開戦』を告げる。

口火を切ったのは、イグナの弓。

対竜矢の鏃が皇竜の左目に突き立った瞬間、この“泥沼の闘争”が幕を開けた。


気力と体力の、壮絶な消耗戦。


アルバの“卑怯きわまりない”罠を駆使し、オッサン達の火力でゴリ押して、

それでも。

何度突進で骨が砕かれ、何度ブレスで死にかけたか!

皇竜の発する熱風で眼は乾くのに、地面をぬらす血反吐は乾く暇すらない。

竜も人も、切り裂かれた体組織を宙にブチ撒き、それでも戦いは続く。

あたしは常に“治癒魔法”の詠唱状態。

治癒魔法も『部位蘇生』などと、生やさしいものでは足りない。

使う術式は最初から『状態維持』の1択。

腕がもげようが、両目が潰れようが、命さえあれば『元の状態』に戻す。

神獣の血を引く白虎族、その純血種のみが使える、固有魔法。

適応範囲をチーム全員に広げるのは“しんどい”けど、死ぬよりはマシ。

あたしだって伊達や酔狂で『竜殺し』の名を背負っている訳じゃない。



そんなこんなで、漸く、皇竜が退いてくれた頃には、此方も満身創痍。


皇竜の姿が夕焼け空の“染み”になった頃、まずアルバが頽れた。

魔力切れ。

自分とあたしの分の障壁を張りながら、“広域探査”で哨戒にあたりつつ、

常時『呪印』による通信の媒介を勤め、各人に指示を出すという、激務。

彼が魔術師の最高位称号『ウォーロック』持ちとはいえ、魔力が無尽蔵

ということはなく、皇竜相手には流石に分が悪かったらしい。



「もう、無理。」



呟きながら、白目を剥いてぶっ倒れるアルバ。

それを、キースとイグナの“オッサン組”が回収し、拠点へと引き上げた。

この戦闘で用いた消耗アイテムは、通常討伐の7倍以上。

何処にそれだけのアイテムを収納していたのかと、オッサンに聞けば……



「アイテムポーチが、拠点ホームの倉庫に繋がってんだ。これが。」



――――とか言いだした。

いくらキースのオッサンとはいえ、先住文明最大のブラックボックスを、

どうやって改造したのか………。

うん。突っ込むだけ無駄なんだろう。

重要なのは、その非常識のお陰で、今日まで踏ん張って来れたということ。


少しずつ。


少しずつだけど、あの『皇竜』を追い詰めつつある。

出来れば、巣から離れて単独行動をしているうちに、倒してしまいたい。

こちらが決定的に追い詰められてしまう、その前に。




焚き火の炎が、遺跡の壁を照らし出す。

あたしの目の前では、干し肉を囓りながら、キースが愛剣に砥石を当てていた。

時折思い出したように咳き込むと、地面に血痰を吐き出している。

『冷却剤』の副作用を抑える治癒魔法は、所詮「誤魔化し」に過ぎない。

キース自身が言ったように、この討伐依頼は「時間との戦い」だ。

断続的に猛毒の『冷却剤』を飲み、身体が蝕ばまれ続ける以上、致死量を超える

のが先か、はたまた、討伐するのが先か。

それ以前に、勝てる見込みは大凡4割。コレはあたしの勘に過ぎないけど。



「………なあ、相棒。お前は正直、アレをどう見る。」


「厳しいな。だが、討伐は不可能ではない。」



同じく、エモノの点検に余念のないイグナが、弓を手入れしながら応じる。

彼もだいたい、あたしと同意見みたいだ。

因みに、アルバは今日も、戦闘終了と共に夢の中。

時折浮かべる気味の悪い笑顔に、何とも言い難い寒気が走る。

多分、碌でもない夢を見て居るんだろう。

コイツ変態だし。



「不可能ではない……か。なるほど。」


「単純な膂力では負けるが、此方には『状態維持』がある。無論、竜の再生力

 は凄まじいが、アルバの“呪符”が効けば、傷の治りが遅くなるはずだ。」


「呪符?アイツ何時の間に使ってたんだ?」


「薬莢に詰め込んで“呪弾”にしていたらしい。ついでに、矢に呪符を焼き

 付けた呪殺矢も作ったらしく、数本貰った。何の“術式”を込めたのか

 知らないが、きっと碌なものではあるまい。」


「ああ…なんせ施術者がアルバだもんな。」


「物騒な王子だ―――― ん!?」



返事を返して弓を折り畳んだイグナが、不意に視線を走らせた。

緊張した面持ちで、遺跡の入り口を睨む。



「どうした?」


「入り口で熱源反応があった。砂漠の民だとは思うが……少し見てくる。」


「『冷却剤』の所為で、外は極寒と同じ。身体が冷えるまえに戻れよ?」


「そこまで時間を要すると思うか?」



矢筒から矢を引き抜いて、イグナは徐に立ち上がった。

対竜矢を片手剣代わりにするくらいなら、サブウエポンを持てばいいと思う。

そんなことを考えていたら、何故かうっかり、目が合ってしまう。



「ハクレン。まだ交代には早いぞ。それとも一人じゃ怖くて眠れぬか?」



ポン、と頭が叩かれた。

見上げれば、イグナが裂けた口端をつり上げて、ニヤリと笑っている。



「不安なのは解るが、眠れる内に寝ておけ。戻る魔力も戻らなくなる。」


「そうだぞお嬢ちゃん。何とかなる。いや、俺達がどうにかしてやる。

 俺達を誰だと思ってる。俺達に背中を預けるのはそんなに不安か?」



贅沢な奴め、とキースのオッサン。

炎の照り返しを受けた琥珀の瞳は、穏やかに凪いでいる。

普段のオッサンは廃人寸前でどうしようもないが、この目は嫌いじゃない。


(考えたって仕方ない。此処まで来たらなるようにしかならないし……。)


大人2人の好意に甘え、あたしは素直に目を閉じた。

一歩、二歩、三歩……拠点から遠ざかっていく、イグナの足音を数える。

十歩もかぞえないうちに、あたしの意識は途切れ、闇に沈んだ。




あたしが再び目を開けたのは、夜明け前。

『夢幻砂漠』に少しずつ、あの鬱陶しい“熱”が戻りつつある。

十分睡眠をとったであろうアルバを叩き起こし、オッサン達と休憩を交代。

不味いと評判の携帯食料を加工し、簡素な朝食を作る。

全員が起きたところで朝食。皆、無言でひたすら流し込む。



「それじゃあ、今日もちょっくら行くとするかね!」



オッサンが外套の砂を払って立ち上がると、みな、それに続く。

アルバにマーキングを辿って貰い、皇竜の逃げた「痕跡」を追って、

砂漠の更に最深部まで足を踏み入れる。




そして、あたしたちは今日も「それ」と対峙する。




狂ったように吹き荒れる、砂漠の風。

紅砂を巻き込み、耐え難いまでの熱を孕んだ風の中に、「それ」は居る。


地上に堕ちた太陽。

翼ある獅子。


「王」の名を持つ幻竜――皇竜ソル=グリムレア。


深呼吸を1つ。

それは、魂を縛り上げる恐怖を飲み込むため。

“弱き者”の存在を許さぬ業火に屈せぬ、強い意志を保つため。



「よう、王様。今度こそ、決着を付けようじゃねぇか。」



キースが、剣把を握りしめる。

革のグローブが、彼の手元で僅かに不快な音を立てた。

一歩、また一歩。

皇竜とキースの距離が詰まっていく。

彼の黒鋼のグリーブが紅砂を踏み抜いた瞬間。

魔力が世界を蹂躙し―――― 風が吠えた。


反抗期で素直になれないお年頃の、ハクレン嬢。

(仕事中は)生き生きしている髭親父を、ちょっと尊敬してます。


ちなみに、キースのアイテムポーチは、任意の空間と接続できて

やろうと思えば、無尽蔵に収納できるそうです。

『収納』と言うより、『召喚』に近いとかなんとか。


『歩く兵站』の二つ名は、伊達ではないのです。


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