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4: 日常風景 その2

ようやっと、主人公です。

銀髪よう●ょ!!ロマンあふれる響きです。

はむはむ……ごくん。


うん、やっぱり砂ウサギは『生』に限る。

焼けた石に乗せて灼いても良いが、みずみずしい生身は、それはそれで良い。

舌先に触れる瞬間の甘みと、口内で繊維がほぐれる時の仄かな酸味。

小さいのがやや難点か。何度も狩るのは正直面倒くさい。



ぷは。


私は口元を腕でぬぐうと、紅く染まった砂漠の砂を脚で良くかき混ぜる。

こうしておけば、熱砂で血が蒸発し、すぐに痕跡を消してくれる……らしい。



『リンシェ。おやつのつまみ食いも程々になさいね?』


「はぁい。」



ママの遠吠えが私を呼んでる。もう行かなくっちゃ。

私は足下の“銀砂”を蹴りあげ、心配性なママの元へと駆け戻る。

ママは私を見つけると、いそいそと、私を背中の鬣の上へに放り投げた。



『あまり離れちゃ駄目よ。此処から巣穴は遠いのだから、迷ったら大変。』


「随分遠くに来ちゃったけど、今日は何を狩るの?」


『今日は、火翔竜エクウスを狩ります。』



ママの脚が、力強く大地を蹴った。

大きな翼が風を受けて、ママと私を空へと持ち上げてくれる。

思わず歓声を上げた私に、ママもグルグルと嬉しそうに笑い返してくれた。







私の名前は、リンシェ。

本当は“リンシェリアリス”っていうけど、真名だから黙ってなさい、ってパパ。

“アリス”っていうのは、私の『お婆様』の名前らしい。

パパのママで、神竜っていうとっても偉い、竜の神様だって言ってた。

これも『黙ってなさい』って言われた。

私のまわりにはナイショごとが多すぎる気がする。


私の種族は『幻竜』の『皇竜』。

でも、私は雌個体だから、正確には『皇妃竜』なんだって。

皇竜はパパみたいに、赤い鬣と金の角。漆黒の甲殻にとても良く映える。

皇妃竜はママにたいに、蒼い鬣に銀の角。純白の甲殻がとっても綺麗なの。

私の鬣は、ママよりもずっと薄い蒼。

白に近い方が「美竜さん」だけど、私には甲殻がないから、もっと蒼い方が良かった。

パパとママは、『未熟な身体で生まれてきたから』っていうけど、それだけでこんなに

不格好でヒョロっとした不気味な姿で生まれてこれるのかなぁ。

身体も華奢だし、ママみたいに、一撃で獲物を仕留められない。

牙も短いし、翼すら持たない……極限まで不細工な自分が、本当に嫌になる。

だから鬣で変に目立ちたくないのよ。

私は、私の身の程はきちんと解ってるんだから。



「そんなことない、リンシェはとっても可愛いよ!」



そんなお世辞を、ライノ――許嫁の皇竜のオトコノコが言ってたけどね。

あまりにお世辞がわざとらしいから、ブレスで焦がしてやった。

それすら嬉しそうで気持ち悪かったから、更に焦がして、転がしておいた。

丸焦げになりながらも、ビクンビクン身もだえしている。

何だかアブナい気配がする。

次にあったら、問答無用で撃退してしまおう。

私の本能が“そう”いうのだから、間違いはなかったはず。



ところで、今日は、ママと狩りに来てる。


いつもだったら『夢幻砂漠』で狩りをするけど、今日はちょっと特別。

なんと、やっと“飛竜種”の狩猟許可が出たの!

ママに連れられて来たのは、お隣の“銀嶺砂丘”との境界線。

砂漠エリアを分ける地域に飛竜種が好む「谷間」があるんだって。

うっふっふ。初めて空を飛ぶ獲物!

今までは、タイラントとかバジリクスとか……走る獲物ばっかり。

翼があるからって、あいつ等と来たら!

これ見よがしに空を飛び回って、こっちの獲物を奪おうと、付きまとってくるし。

見てなさいよ!

一匹残らずその空から叩き落としてやるんだから!!



『ふふふ…やる気があるのは良いことよ。でも、まずは見ていなさいね?』



ママは品良くグルグル笑っている。

いけないいけない、素敵なレディを目指さないといけないのに。

せめて竜族の気高さを磨かないと、不細工なんだから目も当てられない。

私は、背中から飛び降りると、大人しく隣に座った。

ママが私を連れてきたのは、切り立った岩場、その突き出た山頂。

谷間には、たくさんのエクウスが飛んでいる。

ああ……見ているだけで腹が立つ!



『彼らは、見ての通り……翼が大きな種族よ。武器はその空を駆る俊敏さ。

 さて、問題よリンシェ。そんな彼等を無力化するにはどうするべき?』


「う~んと、地面に叩き落とす!」


『じゃあ、どうやって落とせばいいでしょう?』


「翼があるから飛ぶんだし……そっか、翼をブレスで壊せばいいんだ!」


『うふふ。大正解ね♪』



ママは私を見て牙をむきだし、ニッコリと微笑む。

こうしてみると、やっぱりママってすっごく美竜だよね。

染み一つない牙がとっても素敵。

いけない、いけない。

集中しないと「お仕置きブレス」が飛んでくる。



『此処で1つ注意が必要なのは、彼等が群れで行動すること。大きなブレスだと

 気付かれてしまって、群れごと焼却する羽目になるわ。ご飯が燃えちゃうわね。

 だから、ピンポイントで狙撃するの。こうやって、まずは魔力圧縮……』



ママは口を大きく開けると、『魔力』を集中させる。

顔の先に何重もの魔法陣が展開し、とんでもない密度の力が集まる。



『イメージは“細い紐”。一匹に的を絞って、その翼を糸で貫くの!』



キィン!


僅かな耳鳴りを残して、空気中を熱線が走った。

集中して僅かに見えるほどの、だけど、とんでもない密度を持った、魔力の糸。

ママの放った熱線ブレスが、上空を飛んでいた一匹のエクウスに直撃する。

エクウスは「訳がわからない」といった表情で、谷底に落ちていった。

周りの仲間の皆「?」を頭に浮かべている。



『あのブレスはね、触っただけで致命傷なの。傷口はほんの僅かでも、圧縮した

 熱量が一気に全身を焼き尽くす。エクウスが火竜族だから死ななかっただけ。

 魔力圧縮は操炎術(ドラゴンブレス)の基礎であると同時に、奥義でもあるのよ?』



さ、やってごらんなさい。

ママに促されて、私は、見よう見まねでブレスを構築する。


構築、圧縮、解放。


エクウス谷と呼ばれる岩場に、エクウス達の断末魔が響き渡る。

宙を舞う数多の竜灰。そして、焦げた肉。やけすぎた超こんがり焼きの肉。

私がコツをつかむまで、エクウス達の受難は続いた。




『ま、結局は威力があることが一番ね。それはそれで頼もしいことだわ。』



ママの慰めの言葉を聞きつつ、その日、ようやく狩れたエクウスを持って巣に帰った。

後日、谷は“竜灰の谷”と呼ばれるようになったけど、私の所為ではないはず。


……多分。



「エクウス=群れるリオ●ウス」みたいな竜です。

飛べないひがみで、八つ当たり気味のリンシェちゃん。


彼女の美的感覚は竜なので、自分のことをブッサイクと思ってます。

人間の視点で見れば、ものっそい美少女です。

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