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外伝・黄昏のデカダンス



夕焼けに融けるように飛ぼう。それは鳥になれた様な気がして、呪縛から解かれたような気さえして、やがて何も解らなくなるんだ…。か…。懐かしいなぁ…。


◆◆◆


それ知ってる。それは僕らがまだ高校生だったころの話。でも僕らは綺麗な鳥にはなれない。なれたとしても鴉がいいところ。解ってるでしょ?


◆◆◆


解ってる…。夕焼けが、町中に拡散し始めたね。よくこうして眺めてた…。





そう。あれはもう随分と時間を遡らなければならないような気がするほど、色褪せた記憶。黄昏に鴉が耳障りに鳴いていた。


死神というモノがいるのだとしたらそれは多分、僕のことだ。






僕の大切な人は、すぐいなくなる。






◆◆◆




つくづく死に魅入られてるよね僕たち。ところで君はこんなところでいったい何をしてるんだい。ここはもう使われなくなった学校の校舎。新しい校舎のせいで死んでしまった過去の遺物。


そんな死と忘却が蔓延したところに、いったい何の用がある。黄泉の世界に生者が迷い込んだようなものだよ。




◆◆◆




知ってるだろ。知ってるはずさ。ここから黄昏の空に飛んでいった、僕たちの大好きだった人のことを。


◆◆◆




不確かな希望と未来は私を突き落とす偽善でしかない。でもちょっとだけ、嬉しかったよ。縁があったら、また逢いましょ。


嘘だったなら…。こんなの嘘なら良かったのにね。これじゃ誰にも許されないね。




◆◆◆


現実。彼女にとっての現実、世界というのはそれほどまでに辛辣だった。そして彼女は、差し伸べられた手を払い、黄昏に融ける鳥となり空へ飛んで行った。


夕焼けに融けるように飛ぼう。それは鳥になれた様な気がして、呪縛から解かれたような気さえして、そして何も解らなくなるんだ…。





ごめんね。ごめんね布江君。私もう耐えられなかったの…。彼に裏切られ、友達に疎まれ、もう誰も信じられなかったの…。君の事、知ってたんだよ…。私の事、悲しそうな目で見てたの、気づいてたから。私が死んで悲しんでくれてありがとう、なんて言ったら怒るかな…。もっと、早く君に逢えてたら良かったのにな…。



もう少し早く逢えていたら…。



◆◆◆




でも出逢えなかった。それが現実。どんな仮定も真実も、結果には劣る。実はそうだったが悲しいかなそうはならなかった。高校を卒業してから、好きだった子と実は両想いだったと知るようにね。




◆◆◆





もう僕らには何もないんだ。

家族も、友も、金も、信頼も。

全て無くしてしまったんだ。

もう希望など残されていないのだ。

もう僕らには…。


だから僕らは鳥になる。

大好きだったあの人を追って、黄昏の中に飛び出して、飛んで行くんだ。




さよなら。

大好きな人が生きた世界。


さよなら。

色褪せた思い出の世界。


さよなら。

僕の生きたこの世界。




さよなら。






◆◆◆






珍しいわね。こんな所にまで来る人がいるだなんて少し驚いたわ。


ここ、綺麗なところでしょ。


ねぇ。君は綺麗だと思わないかな。



こんなボロボロの建物が綺麗だなんて頭おかしいんじゃないかって思われるかも知れないけど、私は好きなの。ここ。




こうやってね。もう誰も見向きもしない終わってしまった場所の中で、昔、まだここに人がたくさん生活していた時のことを想像するのよ。


いったいどれだけの人が、どれほどの思いを此処に残していったか想像するの。


そして、賑やかな過去からパッと現実の寂れた景色に戻ってくる。想像の残響、残像がこの静寂に微かに残るの。


そうすると胸がキュッと締め付けられるような寂しさと暖かさに心が支配されて、何とも言えない気分になるの。



そう、まるで、この黄昏のよう。


ねぇ、美しいとは思わないかしら。






◆◆◆






邪魔をされた。

僕は飛ぼうとしていたのに。


もう、僕の死の声が聞こえない。

完全に死期をなくした。



君は分かっていたはず。

僕が死のうとしていたことを。


死の声を聞いた僕には分かる。

君は、既に死になっている。


何故、邪魔をした。






◆◆◆






私は、生きたかった。


そんな私の前で、私の欲しいものを捨てようとしている人がいたら、邪魔をしたくもなるわよ。腹が立つもの。


でもね、一つだけいいことを教えてあげるわ。あなたの死期はまだ、あなたに寄り添っている。私が見えて、声が聞こえるというのはそういうこと。


私があなたの視界から完全に消えたらそれは、あなたが死を無意識に恐れ始め、否定した証拠になる。先天的に私のような存在が見える人以外は、そういうものなの。


だから、早く私が見えなくなることを祈ってるわ。話し相手がいなくなるのは寂しいんだけどね。




◆◆◆




名前は。




◆◆◆






新木楓。




縁があったら、また逢いましょ。






◆◆◆






鴉が笑っている。

闇を湛えたその体を宙に投げて飛んでいき、黄昏の中に消えた。







あの時。


新木楓が黄昏の中に消える瞬間。


その表情は、大好きだったあの人が、別れ際にした顔にそっくりだった。




懐かしくて、暖かくて、寂しい。

綺麗な表情だった。





その人はいつも黄昏の中にいた…。

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