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第十三話:第二試験

【大陸暦八六年六月十七日:第二試験・実技(剣術)】


※・※・※


 十人だけの魔導騎士科一年に、皇女と最高位の公爵家嫡男と魔導騎士団団長の娘がいる。

 身分の上下を気にする者ばかりの学院で、三人に本気で向かっていける者はいない。

 エルヴィア達を除いて。

 勝ち抜き形式になっていることを開始時に知らされ、表を見せられてジャネットは落胆した。

 最初は偶数だから良いが、第二試合になると五人になるため、一人だけ不戦勝で第三試合に進む。第三試合では三人になるが、ここは進ませるわけには行かないので、総当たりになる。

 昼を挟んで試合が行われる予定になっている。

 予定自体は良いのだが、第一試合を勝てば不戦勝になるように組まれているのが、ジャネットであることが本人は気に入らなかった。


「どっちにしろ、第三試合で総当たりなんだから。別に良いんじゃない?」

「第一試合でエルヴィアと当たるからって嬉しそうね」


 わくわくしているフローラに、ジャネットが悔しそうに唸る。

 ちなみに、試合の組み合わせは以下の通りだ。

 一組目:フローラ=セヴォル 対 エルヴィア

 二組目:アレン=オルセン=ソーレ 対 ジェルジ=ロダン=サーベス

 三組目:ラウル=グローツェ 対 マルティン=ヴァーロン

 四組目:クラウジア=ジルファーレン 対 ラユムンド=ギール=フォルゾス

 五組目:ジャネット=レウディ=サーディエラン 対 オットー=ラパイル=ガレオン

 同じチーム同士を対戦させるのはどうなのか、とエルヴィア達は思ったが、学院がおかしいのは今に始まったことではないので受け流した。

 エルヴィア達以外は相手が相手なだけに、すでに負けたようにだらけている。

 ジャネットが苛立っている理由の一端でもある。

 アレンもラウルもクラウジアも苛立っているが。

 本当に楽しんでいるのは、フローラとエルヴィアぐらいだろう。

 だから、アレン達は第二試合が本番だと思っていた。

 試験開始のチャイムが鳴る。

 評定用の用紙を出して、形だけを整えていた二人の監督教師は呆然としていた。

 実技で用いられる武器は、木剣ではなく模擬戦で使われるような、実物と同じ寸法と重さだ。

 学院に来て初めて武器をふるった少女達の試合に、教師達が真剣に取り組むはずがなかった。

 だが、それは教師達の一方的な認識。試験時に限って教養授業を受け持つ教師が監督することも、災いした。

 実技授業を受け持つ武術教師は、すでにエルヴィア達の実力を知っている。だから、彼らなら開始前からペンを構えていただろうし、真剣に評定を行っただろう。

 それをしなかったため、数分後に我に返った教師達は慌ててペンを取り出した。

 仲間内で、誰よりもエルヴィアと打ち合ってきたのはフローラだ。

 入学前からというのもあるが、同年同性同武器というのが大きかった。

 ジャネットは二刀流、クラウジアは槍。

 武器に大きな差がある二人との試合は、エルヴィアもフローラも楽しかった。

 だが、同じ武器であれば互いの有利不利は極端に少なくなる。

 今も、体格と体力差を除けば差はないように思えるほど、激しく打ち合っていた。

 教師達が互いに言い合いながら忙しくペンを走らせている。

 それを視界から遮断したまま、アレン達は試合を瞬きすら惜しんで見つめていた。

 はっきり言って、エルヴィアはかなり手加減していた。

 あまりに突出した実力を示すのは、危険だ。ただでさえ、休日の自習などで上級生から反感を買っているのだから。


(みんな、分かっているだろうに、喧嘩買う気でいるんだもの)


 勝ち気も負けん気も悪くない。むしろ良い。

 だが、叩きつぶされた時、友人達が絶望してしまわないかと、エルヴィアは心配だった。だから、最後の最後、友人達を守れる盾であり剣である為に、エルヴィアは実力を隠そうと決めた。


(でも、わざと負けるとうるさいんだろうなぁ)


 クラウジアに一度、生徒や教師の前で勝っているため、ここで負けると色々と波紋を呼ぶかもしれない。あの一戦は、まぐれ勝ちとは判断できないものだったから。


(拮抗した実力で勝つしかない、ってことね)


 かなり難しい。だが、同時に面白いとエルヴィアは思っていた。

 勝負は一瞬。

 一緒に鍛錬してきた者でなければ気付かない、エルヴィアの素早い剣さばき。それによって剣を弾かれ、喉元に切っ先を突きつけられたフローラは悔しそうに眉を寄せる。


「勝者、エルヴィア…」


 唖然とした様子の教師の声を、聞いている者はいなかった。

 同じく唖然としている生徒。次で確実にあたるアレンは不敵な笑みを浮かべ、当たるか分からないラウルとクラウジアはそれをうらやましそうに見ている。

 ジャネットも当たるが、試合数が減ることに不満がある。


「また負けた!」

「ふっ、まだ負ける気はないわ」

「八回、あたしが勝ってるんだけど」

「そうだったかしら?」

「あんたね。まぁ、体力勝負で逃げながらだった時だけだしね」


 持久力に頼った結果の八勝。その数倍の黒星があるが。


「次は、アレンだね。頑張って」

「頑張る必要性がねぇ気がするけど、ま、油断大敵ってことで」


 肩をならすアレンは、すでに一試合目の相手ジェルジを見ていない。その次、一対一でエルヴィアと対戦する時だけを見ている。

 だが、手加減も油断も一切しない。

 結果は、身分に遠慮したのだとしてもあまりにも無様な、ジェルジの惨敗だった。

 その次、ラウルの試合では、相手がラウルを見くびっていた。

 実際、ラウルは剣術は得意ではない。腕力・体力的に劣ることはラウル自身が理解していたため、小技を連発してかく乱する戦術をとった。技術的にはラウルは決して才能がないわけではなかった。

 騎士の家系に生まれた者にとっては、卑怯とも感じる戦術だ。

 だが、戦いに卑怯も何もない。

 結果、ラウルが体力的に厳しくなりながら、油断していたマルティンに辛勝した。

 ジャネットとクラウジアは、秒殺の圧勝だった。

 相手が身分に遠慮して、ほとんど棒立ちだったため、怒り心頭の主従は容赦なく急所に一撃を入れてやった。

 アレンとラウルが青い顔をして視線をそらしている。それで、ジャネット達がどこの(・・・)急所に入れたのかは、言わずともわかる。エルヴィア達も苦笑いをしていた。

 過去、バカにされたことを深く根に持っているらしい。



 第一試合一組目で、愕然とさせられた教師達は、第二試合でさらなる驚愕を味わうことになる。

 エルヴィア対アレン。

 結果、エルヴィアが勝った。

 制限時間が設けられていたにもかかわらず勝敗がつかず、延長した結果、武道場の壁と床に穴が開く事態に発展した。どうなったのか、教師達や一部生徒には分からなかった。

 分かった他生徒は口を閉ざした。

 なんだか、人外同士の殺し合いを見た気がしたから。

 ちなみに、第三試合で当たるかもしれないラウルとクラウジアは頬を引きつらせた。

 床に穴を開けたのはアレンだが、壁に穴を開けたのはエルヴィアだ。穴を開けた時に、勝敗が決した。武器が叩き折られたのだから、当然だった。

 同じ材質同じ重量の武器なら、あとは使い手の腕次第でどうとでもなる。

 つまり、圧倒的にエルヴィアの技量が勝ったことを示していた。

 武道場が破壊(一部)された結果、場所は外の演習場に移された。

 ラウル対クラウジア。

 ラウルの体力が尽きたことによってクラウジアが勝った。

 クラウジアにとっては不完全燃焼だが、同い年の少女に体力負けしたことに落ち込むラウルに、不満を口にすることはできなかった。

 真剣に体力向上のため、何かすべきかと思案し始めたラウルを見て、クラウジアは困惑気な表情をエルヴィアに向ける。

 エルヴィアはあいまいに笑って首を横に振った。

 第三試合、エルヴィアとクラウジアとジャネット。

 かつて、約束していた通り、万全のジャネットとエルヴィアは相対した。

 対アレン戦とは違い、エルヴィアはながし捌く技術を中心にしたため、土が抉られたりすることはなかった。

 だが、上級生にもいない二刀流の使い手と予想外の強者の対戦に、教師達は度肝を抜かれた。

 教師達は、相手が皇女であるにもかかわらず手加減していない(ように見える)エルヴィアに、怒りを抱くこともなくただ立ち尽くしていた。

 エルヴィア対アレンほど派手ではなかったが、それに次ぐほどに見応えのあるものだった。

 いっそ、上級生よりも。

 結果、予想通りに、エルヴィアが勝った。

 二人が終われば、昼休憩に入る。

 最終結果で言えば、エルヴィアの全勝で試験は終わった。

 本来、第四試合があって決勝があるはずなのだが、エルヴィアが全勝したために第三試合が決勝にな

ってしまった。

 ちなみに、クラウジアが二敗して、順列を決める必要もなかった。

 手加減したつもりはなかったが、無意識に力を抜いていただろうクラウジアに、ジャネットから説教があったが。



 一年担当教師達にとって、驚天動地の一日だった。

 職員室で、魂を飛ばしている同僚達に、一年武術を担当しているダレスは同情の視線を向けた。




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