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幻想郷の百番さん  作者: 紀璃人
傭兵さんの思い出~再会のお話~
4/4

傭兵さんはラジオを聞いてないんです?

――119季、残暑の厳しい夏の終わり頃。


 シュウは寺子屋を訪れていた。月に一度のボール補充も随分と慣れてきた様で、手のひらからゴロゴロとボールを作り出している。ボールの補充を終え、バットなどを確認し、補充漏れが無いことを確認すると倉庫をあとにした。するとほぼ同時に寺子屋のチャイムが鳴り、中からガタガタと椅子を引く音が聞こえてきた。しばらくすると中庭へと生徒が溢れ出してきた。どうやら休み時間らしい。シュウは「勉強よりも走りまわりたいのは、どこの人間の子供も同じなんだろうなぁ」となんとなく思いつつ、校舎を目指して歩く。

 するとその中でも背の低い男子が野球のホームベースをわきに抱えて駆け寄ってきた。

「ねーねー。シュウ兄ちゃん」

「ん?どうした?なんか壊れてるか?」

「うんにゃ、そうじゃないんだけどさー。昨日の「らじお」聞いたー?」

「……なんだって?」

 シュウは耳を疑った。ラジオが幻想郷にあるなんて聞いたこともなかったからだ。その様子を見た少年はきょとんとした表情で首を傾げた。

「あれ?シュウ兄ちゃん「らじお」知らないのー?」

「いや、ラジオは知っているが…。幻想郷にもあったのか」

「うん。職員室にあって、「らじお」を聞きにみんなで集まるんだー」

「ほぉ…。慧音に言えば見せてもらえるか?」

「たぶんねー」

『おーい!トモヤー!はやくベースもってこいよー!』

「あ、いま行くー!じゃあね、シュウ兄ちゃん!」

 そう言うと少年はタッタと走って行ってしまった。シュウはその様子をなんとなく見守っていて、すぐに照りつける太陽の熱で気が散ってしまった。そこで気になったのは先程知った「幻想郷にラジオがある」ということ。

「ラジオ…か…。たしか、職員室だったな」

 シュウは校舎の中へと足を向けた。


 ¶


コン、コン――。


『入っていいぞ―』

「失礼するぞ、慧音」

 シュウは一言断ってから職員室へと足を踏み入れた。慧音はどうやら採点をしているようだった。…先程からバツしか書いていないあたり、気分は優れていないだろうなぁ。と思いつつ慧音のそばまで歩み寄る。すると確かに奥にある机の上にはラジオが置かれていた。

「なぁ、ラジオがあるって聞いたんだが」

「うん?あぁ、あるぞ。これがそうだ。いつだったか、黒い「ぱーかー」を着た男と大きな背負い鞄を持ったカッパが来てな。設置していったんだ」

「パーカーの男…?……もしかして、『しがないはぐれ天狗』か?」

 慧音はシュウの受け答えに首を傾げた。しばらく口元を人差し指でつつきながら考えていた慧音はふと合点したように手を叩いた。

「あぁ、そういえばシュウは既に会っていたんだったな。しかし、よくもそんな口上を覚えているものだ」

 と言って感心してみせる慧音は、その後に「口止めされているからどうにも隠しがちになってしまってな」と小さく付け加えた。

「口止め……?随分と物騒だな」

「いいや、案外そうでもない。まぁ、気になるなら香霖堂に会いに行けばいいさ。私は詳しく話すことが出来ないからな」

 そう言って慧音はすまなそうに苦笑した。その後手元にあった生徒の解答用紙を一瞥して頭を抱えつつ、ラジオが取り付けられた机を抱えて持ってきてくれた。なんとなく見た解答用紙の記名欄には「ともや」と拙い字で書かれており、隣に赤墨で「0点」と記されていた。……頭を抱えたくなるのも、少しわかる気がした。

 直後、「よいしょっ」という掛け声と共に机が運ばれてきた。机には真空管ラジオの様な外見のラジオが机の上の面にネジ止めされていた。机の側面には二つの穴があり、それぞれに「電気」「音」という注釈が書きこまれていた。……どうやら外のものを改造した訳では無いようだった。

「これが「らじお」だそうだが、この二本の紐を穴に刺してここを押すと音が流れるそうだ。といっても放送されていないときは音が出ないとかなんとか…、よくわからないんだけどな」

「電気も通っていたのか…。それに有線放送とは……」

「シュウ、もしかして「らじお」に詳しいのか?」

 慧音は壁からのびるケーブルをぷらぷらと揺らしながら不思議そうに首をかしげた。

「いや、外にはもっと小さくて、ケーブルもいらない奴があるんだ。……というか、それさえも過去のものとなりつつあるがな」

「そうなのか!?だったらこんなに難解な機械を使わなくとも「らじお」が聞けるのか…!」

 慧音は割と本気で驚愕している様だった。ポトリ、と手にしていたケーブルが床に落ちたのにも気づかずに呆然とシュウを見ている。その様子に苦笑しながら、さらに質問を重ねてみることにした。

「それで、さっきのカッパってのはにとりの事か?」

「あ、あぁ……。確かそんな名前を名乗っていた気がしたが――、欲しいのか?」

「まぁ、な」

「……そ、それならそのカッパに言うといい、うん」

 慧音は「外にはそんなに便利なものが…」とブツブツつぶやきながらラジオの付いた机を片付け始めた。すると寺子屋に素朴なチャイムの音が鳴り響く。時計を見ると倉庫をあとにしてから30分以上が経過していた。

「む、もうこんな時間か…。すまないが…」

「これから午後の授業、だろ?俺はこれでお暇させてもらうよ」

「そうか、また来てくれて構わないぞ。今度は子供たちと遊んでやってくれ。……それと、もう少し外のラジオについて――」

「気が向いたらな」

 シュウは慧音の言葉を苦笑しつつ遮って寺子屋をあとにした。靴を履いて、飴玉を一つ口に含むと颯爽と外に飛び出して、照りつける太陽に顔を顰めた。ため息一つ、今後の予定をつぶやきながら妖怪の山へと足を向ける。

「ちょっと、にとりのところに行って話を聞いてくるか。運が良ければ白玉楼にもラジオがつくかもしれないな。ケーブルは……。うん、電波タイプを開発してもらおう。カッパだしなんとかなるだろ。……香霖堂は、また今度で――っ!?……げほっ!……。うぇ……」

 口のものを含んだまま喋っていた所為で、飴玉を飲み込んでしまったようだった。咳き込みつつ、そのことに気がついたシュウは小さく呟いた。

「あの飴、高かったんだけどなぁ……」


お久しぶりです。

今度は打って変わってシュウ視点です。

こちらは三人称で行こうかな、と思ってます。

……。久しぶり過ぎて三人称とか使い慣れない……。

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