第五話 最後
幸せは長くは続かない。というのは本当なのかも知れない。
それから三日後私は倒れ、大きな病院へ入院することになった。
一週間もすると、私の病状は思う以上に悪化し、もう周りの景色さえ私の目には映らなくなっていた。
「飛鳥…君?そこにいるの?もう、見えない…ごめ…私、なにも…出来なかったね。もう、死んじゃうんだ。ごめ…ごめ、なさ…。」
私は手を精一杯伸ばした。すると手には暖かいぬくもりが伝わる。
言葉なんて無くてもいい。
それだけで、いい。
「俺は晴海に出会えて、恋をして…沢山…幸せだよ。だから、もう泣かないで…俺は、大丈夫。」
「うん。飛鳥…。」
それが、晴海の最後だった。
飛鳥は声を殺して泣いた。
「俺、本当に貴女の事、好きだったんです。本当は…もっと、生きていて欲しかったです。一緒に笑っていて欲しかった。」
五年後、高校生になった飛鳥の横には明るく笑う彼女がいた。
少し晴海に雰囲気の似た、可愛らしい子だった。
高校の綺麗な緑で有名な裏庭。二人は並んで座っていた。
まるでそこを吹き抜ける風を感じているかのようだ。
「飛鳥君!私、飛鳥君が大好きよ。」
彼女は突然呟いた。
飛鳥は微笑んでいた。それはまだ晴海がいた、あの頃のような穏やかな笑顔だった。
この五年間変わったのは飛鳥の隣りにいる人と飛鳥の喋り方だけだ。晴海が死んだあの瞬間から、飛鳥は自分の事を俺から、僕に直し、話す言葉全てが丁寧になった。
「遥さん。僕も貴女が大好きです。」