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第十四話  武器

 焚き火の上でグレイブボアの肉が焼かれていた。

 油が滴る。お腹が鳴る音は止めれない。


 そんなことを考えながら、カイルはお肉を凝視していた。


 口を開いたのはリセリアだった。



「剣の修行はね、間違ってはいないわ。でも時間がかかり過ぎてしまう。

 構え。足運び。重心。これらの要素を5日間で習得するのは無理。

 基礎が崩れた剣は、ただの重りよ」



(あ、ですよね。そんな一朝一夕で武器が使えるようになったら僕は宝具ハンター、

 いや一国の英雄になれていただろう。)



「耳が痛いです。……あれ?魔除けの魔法具が切れたら僕、どうなるんですか?」



 リセリアが指を折って足りない部分を手で数える。



「初心者じゃ剣で間合いに入れないし、体術は、まあ……これからだし、

 防御は……魔法具頼りだし、戦闘経験はなし。」



(……あ、あれ?これ詰んでない?)



「まあ、短時間で、無理なのはわかっていたわ!

 だからこれからしてもらうことは魔法よ!」



「……魔法?」


 

 思わず間の抜けた声が出る。



「でも僕、トーンレスですよ?

 魔法って、こう……才能ある人がやるやつなんじゃ」



「あなたは、もう黒になってるのよ!

 どういう原理かは分からないけど。前と同じ前提で考えると、失敗するわ」



「……あ、そういえばそうなんでした!もう僕の髪色も目の色も白ではないんでした。」



 自分で言って、自分で納得する。


(白じゃないなら、白の常識は捨てるべき、か。そもそも、トーンレスは魔法を

 使えない。唯一の人種だから魔法を使う感覚なんてわからないな。)



「まずは見せるわ」


 

 リセリアは立ち上がり、少し距離を取った。



「人は皆、魔力回路を持ってる。

 魔力を内側から外へ流す“道”よ。通すことで、魔力は色に変わる。

 ちなみに、どういう訳かわからないけど、使える魔法は髪色と同じ属性しか使えなのよね。」


 

 指先から小さな炎が灯る。

 リセリアは誇らしげな顔で指先の炎を消す。



(うわ、分かりやすい……か?リセリアが説明している部分って概念的部分っていうか、

教える部分にとしては間違っているというか。けど、あんなに誇らしげな顔しているし、

多分ここでそれを指摘してしまうと怒るだろうな。)



「じゃあ、僕にも……」



「人によっては、感じるために火に飛び込む人もいるけど」



「火に飛び込む!?」



「驚きすぎよ。それは極端な例だから」


 

 そう言われても極端すぎる。



(黒……影……。

 理屈が合ってるなら、色が強い場所のほうが、何か感じやすいのかもしれない)



 カイルは周囲を見回し、木々の影に目を留めた。



(光がない場所。黒っぽい。……それっぽい)



「……ここ、どうでしょう」



 影の中に入る。



「確かに、それは良い判断ね!」




 少しだけ胸を張る。


 木の陰に座り、目を閉じる。



(集中……呼吸……内側……)



 ――何も起きない。


 熱もない。

 流れもない。

 違和感すらない。

 


「本当に、こんなので合ってるんですか?なんか恥をかかされているだけとかないですよね?

 笑っていないですよね?」


 

 カイルは片目だけ開けてリセリアを見る。


「し、知らないわよ」


 リセリアは即答だった。


「私は生まれた時から朱だし。

 聞いた話しか分かんないし」


 リセリアの顔は赤くなっていた。

 


(これが天才というものか。

 火に飛び込んだ人も、たぶん同じ気持ちだったんだろう。

 ……僕も、そのうち似たような穴に落ちるのかもしれない)



「……ということは」


 息を吐く。



「気長にやるしかない、ってことですね」



「まあ、そうね」


 

 彼女は軽く笑った。



「カイルが死ぬのが先か、

 魔法を習得するのが先か、ってぐらい」



「またそんなフラグみたいなことを!」


 

 思わず突っ込む。


 結局、その日は何も起きなかった。


 答えは分からない。


 でも一つだけ、はっきりした。


(僕はもう、白の人間じゃない)


 それだけが、妙に現実味を持って胸に残っていた。

 


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