第8話:ルクセブルの異変に気付くアレクサンドラ
聖剣が新たな剣を生み出していた。
しかし、その宝飾はアルクレゼの紋章でもある「青」だった。それはつまり、その剣の持ち主がアルクレゼを継ぐということだ。
それだけなら問題ないのだが、今のアルクレゼには長子のクラウドが既にいるのだ。
つまり、クラウドはアルクレゼを何らかの理由で継ぐ事が出来ない───────!!
16歳で聖剣を継ぐ。正式に本人に剣を渡されるのだ。その時点でクラウドは〝いない〟ということだ。
それは病気で完治の見込みがないか、或いは最悪の場合…………。
ルクセブルはこの事に怯え、そして身重のアレクサンドラに気付かれないようにひとりでその事実を背負う事に覚悟を決めたのだった。
そしてそれからもクラウドは何も問題なくスクスクと成長し、また、フランディーヌの相手もしている事から更に同い年の子供に比べてしっかりしてきたのだった。
〝クラウドは責任感もある立派な息子だ。なのに何故…!!〟
ルクセブルは時々思い悩む姿を見せる。
本人は気をつけてても知らずに態度にも現れていたのだろう。
アレクサンドラはルクセブルが何か悩みを抱えているのだと気付いた。元々聡い子だなのだ。どんなに隠そうとしてもきっと見抜くだろう。
しかしアレクサンドラはルクセブルに追求はしなかった。
何故ならルクセブルの事だ。手に負えないのならきっと相談するだろうし、そうでないなら自分に気遣って隠そうとしているのだろうと、そう思ったからだ。
心配ではあったが、いつかルクセブルから話をしてくる事を待つ事にした。
〝私には私にしか出来ないことがあるんだもの。しっかりしなきゃ!〟
そう、アレクサンドラは今はお腹の子を無事産むことだけに集中しようとした。
きっとルクセブルのことだ。彼もそのつもりで何も言わないのだろう…。
ふたりのお互いを思いやる気持ちは今も変わらずずっとあるのだ。
そうこうしているうちに月日は流れ、お腹の子の出産日がやってきた。
「お腹の子の性別は楽しみにとっておこう!」
ルクセブルがそう言っていた。彼は既に知っているのに、モヤモヤしたが、それもゲームのように楽しむことにしたアレクサンドラ。
〝もう間もなく我が子に会えるわ!!〟
そうしてお産に挑むのでした。
フランディーヌの時のようにお産室の前には3世代の男が「今か今か」と待っていた。
その横で時々フランディーヌが侍女に連れられてやってきていた。
「フラン、きみの弟か妹がもうすぐ産まれるんだよ!楽しみだね!」
ニッコリと笑ってクラウドはフランに言った。
「うん!楽しみ!」
そんなやり取りをしていたら中から赤ちゃんの鳴き声が聞こえて少しして扉が開いた。
「おめでとうございます!元気なご子息様でございます!!」
その場は歓喜に溢れた!
「やったぞ!これでわが家門も安心だな。」
グラナスがそう声をあげた。
「男の子二人になると安心なの?」
と、素朴な疑問を抱いたクラウド。
「ああ、そうだよ。君たち二人で我が家門を支えて欲しいからね。」
「ふぅ~~~ん。そうなんだ。」
わかったようでわかっていないクラウドだった。
ルクセブルはそんなクラウドに
「さあ、クラウド。フランのようにこの子も可愛いがっておやり。」
「はい、お父様!」
クラウドは産まれたての弟をしっかり見つめて目をキラキラ輝かせていた。
〝僕は大きいお兄ちゃんになったんだ〟
胸の中は興奮して高鳴っていた。
〝フランとはまた違って赤ちゃんなのにちょっとガッツリしてて男の子って感じで可愛いな。〟
その日は1日ワクワクしていた。
「僕、大きなお兄ちゃんになったんだ!」
と、出会う使用人に言い回っていた。
そんなクラウドの様子を見てアレクサンドラは〝ふふっ〟と微笑んでいた。
「フランも、この子もいいお兄ちゃんが。いて良かったわ。ね、ルク。」
「…………………。」
「ルク?」
「……!! あ、ああ。そうだね。安心するよ。」
〝また、ぼーっとしてたわ。まだ悩みは解決していないのかしら………。〟
「さあ、アレン。あなたは大仕事の後なんだ。しっかり休んでおくれ。」
ルクセブルはアレクサンドラの額に軽く口付けした。
「ふふっ。わかりました。」
まだ……、話をする状態ではなさそうね。
アレクサンドラはルクセブルが自分に気を遣って話を打ち明けずに飲み込んでいる事に気付いていたが、彼からいつ話をしてくれるのだろうと気になって仕方なかった。
ご覧下さりありがとうございます。
無事に第三子も産まれましたね。しかし今回でクラウドがアルクレゼ侯爵家を継がない事がほぼ確定したようです。クラウドの身に一体何が待ち受けてるのでしょうか…。
次回もお楽しみに!