第73話:約束の5年を迎え、帰国の準備をするクラウド。そしてそれぞれの思い………
ここはフィリア王女の応接間だ。
王女が執務室から戻って一息ついたところでクラウドは帰国の話を切り出した。決意をしたなら少しでも早い方がいいだろう。婚約者のふりをしていた件もあるのだから…。
「え?……………。帰国されるのですか…?」
驚いてそう言ったのはフィリア王女だった。
「はい、もう使節団派遣の約束の5年がもうじきやってきます。そこで私も共に帰国しようかと思っております。」
「そうですね、間もなく約束の5年がやってきますね。使節団の団長としては共に帰国するのが常ですね。…ですが…クラウド様は私の婚約者のふりをして下さる約束ではありませんか。また、戻って来て下さるのですよね?」
「それは…、申し訳ないのですが、私もアルクレゼ侯爵家のこともありますし、帰国したのち、戻ってくるわけにはいきません。」
フィリアは愕然としていた。そしてすぐに思いついたようで
「では、一時帰国。という形はいかがですか?使節団を自領へお返ししなけらばならないのは理解出来ますから、その後、いつになってもかまいません。再度戻ってきて下されば何も問題はありませんわ。」
フィリアは必至に理由をつけてクラウドを自分の元に置くための策を考える。それは同じような言葉を繰り返している時点で彼女がかなり混乱しながら言葉を探しているということが伝わってくる。
しかし……………
「それは…難しいと思います。申し訳ございません。」
「………………そう…ですか。」
「婚約破棄の告知のタイミングはお任せします。色々とお世話になりました。」
「まだ帰国まで日がありましてよ?」
「はい、それまでしばらくは…。」
フィリアはコクンと頷いた。
クラウドは静かにフィリアの部屋を出て行った。クラウドのことだ、今後は仕事の話であっても二人で会おうとはしないだろう。実質の「別れ」なのだ。
〝クラウド様が去って行く…。この数年、頑張ってクラウド様に振り向いてもらおうとしたのに何故?彼は女性には興味ないの?それとも好きな女性がいるの?わからないわ。とてもそんな素振りすらなかったのに…。でも、そんな事よりもクラウド様が去ってしまう…。どうしたらいいの……………?〟
フィリアは静かに涙していた。
◆ ◆ ◆
その頃、アルクレゼ侯爵家では間もなくクラウドが帰ってくるという知らせを受けて、いつも以上に邸全体が明るくなっていた。
「やっとクラウドが帰ってくるのか。長かったな、お前たちが黙って帰してしまうから私はゆっくり話も出来なかったじゃないか。」
そう言ったのはクラウドのおじい様であるグラナスだった。
「父上、その件はもうお許し下さい。本当に。突然のことでしたので…。」
父にひたすら謝っているのはルクセブルだ。
「まあ、仕方ないな。あやつも相当ショックだったのだろ。安易に想像出来るさ。」
「はい…。」
「それで、その件に関して今後、どうフォローしていくつもりだ?」
「そうですね…。やはり、アランの剣の宝飾はブルーなので、クラウドの剣は今も黄色なのでしょう…。アランも8歳になりましたが、まだこれらの事を打ち明けるには早いかと思いますので、暫くは触れないようにしたいと思います。」
「家臣たちには?」
「何も言わなければクラウドが跡継ぎだと思っていると思います。彼の聖剣を見せなければ大丈夫かと。」
「うむ、ひたすら時がくるまで隠すしかないだろう。」
グラナスとルクセブルの話のやり取りを遠くから見つめるのはアレクサンドラとグラナスの妻、ラモニアだった。
二人はお互いの顔を見あってから静かに頷いた。
これはフランやアランにも秘密だ。
クラウドを迎えるための準備をこうして少しずつしていたのだった。
そして夕食の時、クラウドが間もなく帰国することをルクセブルの口からフランとアランに伝えられた。
「えっ!もうすぐお兄様が帰ってくるの?」
「ああそうだよ。」
「わぁ~~~!嬉しいっ!」
「うん、嬉しい!やっと剣の相手してもらえるね!お姉さま。」
「ねっ!約束したもんね!」
ルクセブルもアレクサンドラも無邪気に喜ぶ二人の姿を見て嬉しくもあり、クラウドのこれからのことを考えると少し不安もあった。
ご覧下さりありがとうございます。とうとう約束の5年を迎えることで帰国するとフィリア王女に告げたクラウド。そしてクラウドを迎える父母や弟妹、それぞれの思い。
このあと物語は急展開を迎えます。
お楽しみに!




