第64話:クラウドの不安はラナベルのたった一言で解決した!
聖剣の儀を司る為のアルクレゼ侯爵家内の神殿にはしばらく無言が続いた。
クラウドの発言にも一理あるからだ。どんなに当主が決めたとしても必ずしも従う人間ばかりではないのだ。王族なんかは特に顕著にその様が表れている。実際にハンダル王国での権力争いを目の当たりにしたクラウドだからこそ、今、この発言が出てきたのだろう。
アルクレゼ侯爵家の人間は領地民も合わせて皆、温かく優しく穏やかな性格の人ばかりだ。しかし、長子が継承権がないと知った時に、果たして全員がそれを納得するのだろうか…。
ルクセブルが重い口を開いた。
「クラウド…、お前の心配はよくわかった。私もそれは懸念すべき問題で軽んじてはならないと思う。だからしばらくはお前の剣の宝飾については触れないでおこう。ちょうど、今、お前はハンダルへ派遣されている身だしな、暫くはこれで乗り切れるだろう。」
〝それを…。いつまで続けるつもりですか?父上。すぐに皆に白日の元にさらされますよ…。僕は……………。〟喉まで出そうになったその言葉をクラウドは飲み込んで返事をした。
「はい、わかりました。父上。」
クラウドは不安を抱えながらも父の言うことに返事をした。そして自身のこれからのことを考えながら生活をしていくこととなる。
〝ラナベル…。すごく不安だ。こういう時、凄く君に会いたくなるんだ…。この気持ちは本当にただの憧れなのか?〟
クラウドは複雑な心境だった。そして、1日でも早くハンダル王国に戻ることを考え始めた。
聖剣の儀式が済んだその日の午後、クラウドは真っすぐにラナベルの元に向かった。彼女の笑顔が見たい!今はこの不安な気持ちを少しでも楽にしたいと思ったからだ。
「ラナベルっ!」
「え?クラウド?どうしたの?昨日の今日だなんて…、珍しいわね?」
クラウドはラナベルの元を訪れはしたものの、何をどう話せばいいのか、わからずに言葉に詰まってしまった。
「ふふっ。いいわ。好きなだけここにいなさい。あなたのその気持ちが晴れるまで…。何日でもいたっていいわよ?」
「ラナベル……………。」
クラウドはあっけらかんとそう言い放つラナベルに少し救われた。こんな顔をしていたらきっと、「どうしたの?」って聞くのが一般的だろう。だが、ラナベルはそうしない。こちらから言うまで何も聞かず、そっと傍にいるのだ。
「はは…。僕の母上ですら、〝どうしたの?〟って聞きそうなのに…。」
「あら、私はあなたのお母さまじゃないもの、それに私にはたっぷり時間があるのよ?ふふっ。」
〝そういえばラナベルって…。いつもこの百合の園を管理してる番人だと言うけど、ここから出たことがないのかな?〟
ふと、そんな考えがよぎった。が、
「うん、ラナベル。聞いてくれる?僕の聖剣の話を…。」
「勿論!私でよければ!」
ラナベルはそう言ってニッコリと笑った。その笑顔にクラウドはやっぱり癒されるのだった。
「僕はアルクレゼ侯爵家を継ぐ為に、小さい頃から必死になって勉学、武術に励んできたんだ。今も、家門のためにってハンダル王国への派遣という任務に就いてる。けど、聖剣を受け取って、僕がやってきたことが全部無意味だったんだと知ったんだ。」
「無意味って?」
ラナベルは同情するでもなく、普通に話を聞いていた。
「うん、聖剣には宝飾が付いていて、その色で家門を継ぐかどうかがわかるんだってさ。僕の色は黄色で、弟のアランが青だってさ。アルクレゼの色は青だから、アランが家門を継ぐってことなんだ。だから、僕はどんなに頑張っても継げない…。」
「ふ~ん、あなたのお家にはそういうシキタリがあるのね。」
「うん…。」
「だったら、自由に生きていいんじゃない?」
「えっ?」
「だって…。今まで家門の為って生きてきたんでしょ?そのしがらみが無くなったんだもの、自由に、あなたが望む生き方をすればいいと思うわ。」
「そういうもの?」
ラナベルの言葉にクラウドはキョトンとしていた。
「そうよ、だって言い換えれば〝あなたはアルクレゼを継がなくてもいい〟ってことなのよ?それに今までしてきた努力は絶対に無駄じゃないわ。どんな時に役に立つかはわからないけど、あなたの中から無くならないものでしょ?」
「………………‼」
クラウドは今まで〝自分がしてきたことが無駄だった〟と悲観していたのだ。だが、ラナベルの言葉はクラウドに〝自由な新しい自分〟を見出してくれていたのだ。
「ああ…!やっぱり、ラナベルっ!君は最高だよっ‼」
クラウドに笑顔が戻った。
「ふふっ。それを踏まえた上でこれからのこと、ゆっくりと考えればいいんじゃない?時間が増えたってことでしょ?ふふっ。」
────そうだ。当主としての人生を歩まないのなら時間が自由に使えるようになる。将来、ラナベルと一緒になることも可能になる?
そう考えたクラウドは一瞬で顔が真っ赤になった。
「あら?どうしたの?顔が赤いわ…。」
「い…。いや、大丈夫。うん。大丈夫だから。はは…。」
たじろぐクラウドだった。そして
〝ラナベルに会いに来て正解だった。彼女のアドバイスは適格だし、何よりも僕自身がとても癒されるんだ。ずっとずっと彼女のそばにいたいな。早く任務の任期が終わればいいのにな…。〟
そう考えていた。
ご覧下さりありがとうございます。自分が今までしてきたことが全部無駄になったと思って悲観していたクラウド。しかし、ラナベルに会って違うこと、そして違う考え方が出来ることに気付き、元気を取り戻す。本当にクラウドにとってラナベルは大きな存在であるようです。
次回もお楽しみに!




