怪しい影と暗躍
-1-
夜が明け朝の鐘が鳴るころ、トウヤとミレイアは魔動車に乗り込み出発の準備をしていた。
「あれ?あそこにいるの昨日の子じゃないか?」
トウヤが指さすと夕飯時に出会ったレミィがこちらに走ってきている。
「ホントね。何か用かしら。」
レミィは二人に追いつくと。
「二人とも、やっぱり山に行っちゃうの?」
開口一番昨日の件であった、二人は目を合わせ肯定する。
「ダメだから、いっちゃダメなの!」
昨日よりも切羽詰まった様子にどうにも様子がおかしいと話を聞いた。
「昨日も言ってたわよね、あの山にはなんかあるの?」
「うん、そうなの。」
「私たちが危なくなる?」
レミィはうなずく。」
「そうなの、あの山には———。」
いい終わる前にミレイアはレミィを車に載せると一気にアクセルをかけた。シートに叩きつけられるトウヤ。
「おいミレイア!いきなりどうした!?」
「話は後、一旦離れるわよ!」
ミレイアは荷台で小さくなっている。とにかくシートにしがみつきトウヤはミレイアに従うことにした。
-2-
しばらく猛スピードで村から離れ、落ち着いたところで声をかけた。
「この子を連れ出して、いったい何があったんだ?」
「アナタ村の門番がこっちに走ってきたからよ。」
「そりゃ俺たちがこの子を攫ったからだろ?」
「いいえ、この子が話しかけてきたからよ。」
それには気が付かなかった。レミィは連れ出されたわりに変わらず荷台でこちらを見ている。
「最初から違和感があったの、あの村は何かおかしいわ。」
追われてない?、と聞いてきたため後方を確認するが人影はなにも見当たらない。
「誰もいない。」
「わかったわ。」
ミレイアはスピードを緩めるとレミィに声をかけた。
「驚かせてごめんなさい、何か言いたいことがあったんでしょ。」
レミィは小さくうなずく。
「あの山には竜神様がいるの、お姉ちゃん達が食べられちゃう。」
彼女の発言に二人は目を合わせる。
「竜神様はいつも寝てるんだけど、目を覚ましちゃったの。竜神様はお腹がすいてるからご飯を用意しなきゃいけなくて冒険者さんを呼ぶことになったの。」
必死に話す少女は服の裾を震える手で握りしめる。
「でもかわいそうだから止めてほしいんだけど、話してるとすぐにみんなから止められるの。食べられちゃうのに…………。」
涙を浮かべる彼女の姿にミレイアは「なるほどね。」と合点がいく様子だった。
「何か思い当たる節でもあるのか?」
「昨日からおかしいと思っていたわ。まずあの村に入った時になんか変な感じがしたの、最初は結界かと思ったけどその感じとも違うなんだか生暖かい気持ち悪い感じ。」
ミレイアは続ける。
「それに夕食時にこの子が話しかけた時や部屋で打ち合わせしてるときにやたらタイミングよく店主が割って入ったでしょ?」
昨日のことを思い出す、あの話はミレイアなりに状況を把握しようとしていたわけだ。
「最後にここを出る前、この子が話し始めたところで門番が走ってきたわ。おそらくだけど、会話を盗み聞きしてたんでしょうね。」
余計なことを勘繰らせずに大人しく山に登ったもらうために、と話を終える。レミィはそれを黙って聞くばかりであった。
「じゃあ今はこの山にはドラゴンがいて、餌になる冒険者を今か今かと待ち構えてるってワケかよ。」
「そういう事よ、おそらくアルタレードにだけクエストを流して、仮にセントナードから私たちみたいな冒険者が来てもなにか疑われるようなことが無いように事前に対応してたってことでしょう。」
さて、ここまで話がまとまったところでこれから山に向かうかそれとも帰るか、それにレミィのこともある。
「思ったけど、だいぶ勢いで動いちまったな。」
「私も同じことを思ったところよ。」
「このままセントナードに帰れば。」
「あの街のギルドに居場所は無いわね。」
「村に帰れば。」
「レミィのこともあるしなにされるかわからないわ。」
「山に挑むとして。」
「ダメなの、竜神様に食べられちゃうの。」
「八方ふさがりね。」
「…………いや、1つ方法があるぜ。」
「なぁに?」
トウヤは指を鳴らした。
「俺たちでドラゴンを討伐すればいいんだよ。」
レミィは騒ぎ始めたがそれを制してトウヤは続ける。
「レミィ、あの村でひとりで頑張ってたんだよな。大丈夫、俺たちに任せてくれよ。」
「まぁ、後ろに下がって損するよりは前に進んだほうがいいわよね。」
「ホントに、ほんとに行くの?」
「あぁ、レミィは竜神様にあったことはあるのか?」
彼女は首を横に振る。
「じゃあどんな相手かわからないんだ。大丈夫、いざとなれば流石に逃げるさ。」
「レミィはどうする?村に帰る?」
しばらく考えて後答える。
「二人についていく、あの村嫌いだから。みんなこわい。」
なら決まりだ、進路をガリダ山に向け車を走らせた。
-3-
トウヤ達がドラゴン討伐に出た頃、セントナードの酒場に小綺麗な恰好をした壮年の男が現れた。受付嬢に促され男は奥のカウンターに座り、しばらくするとマスターが横に座る。
「わざわざお前がここに来るなんて珍しいな。」
「急ぎの用事がありましてね。」
「ほう、どうした?」
「ガリダ山のドラゴン討伐クエストはまだ張り出されていますか?」
「一応まだ攻略されてないからな。」
「先月アルタレードでそのクエストと同じ内容の依頼が掲載されました。」
「なんだと?。」
「数組のパーティーが向かったそうですがいずれも戻ってきていません。」
「アルタレードのギルドマスターはなんて言っている。」
「現在確認中です。」
「とはいえあそこも去年新しいマスターに変わったばかりだ、何も知らなかった可能性は十分あるな。」
「そうですね、もう10年以上前の出来事です。」
「公国軍の動きは。」
「現在部隊の派遣を検討中とのことです。」
「ギルドでも被害が出たからと軍を派遣したとして、そこでドラゴンが姿を現さなければ当時と同じだな。」
「このクエストを受注しているパーティーはいますか?」
「昨日新人がガリダ山に向かったところだ。」
「では彼らが戻ってこなければ…………。」
「あまり考えたくはないがな。」