ひと休みと新しい出会い
-1-
宿に到着するとすぐに食事が振舞われた。
「わざわざありがとうございます。かなり準備がいいですが、普段から冒険者が来てるんですか?」
「おたくらはセントナードから来たんだっけ?そこからは少ないけどアルタレードからはちょくちょく来てるんだよ。」
「なるほど、確かにここからだとアルタレードの方が近いですもんね。」
アルタレードって?、というトウヤの疑問にセントナードとは別の都市であることを伝える。
「ドラゴンはここ10年くらい調査しても見つからないって言われてますけど、実際のところどうなんですか?」
「そうは言いますけどね、たまに羽ばたいきや影を見聞きしたって話を聞くし、もしいないとしても冒険者さんの方で探してきてくださいよ。」
「アルタレードからの冒険者もやっぱりドラゴン討伐に行くんですか?」
「ん、いやそうだねぇ。それもあるけど、まぁほかにもぼちぼちってところかなぁ。」
食べ終わったらそのままでいいよ、と店主はいそいそと奥へ消えていき、その姿を二人は不思議そうに眺める。そんなこんなで食事も食べ終わったところで少女が声をかけてきた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ガリダ山に行くの?」
年齢は10歳には満たない程度に見える。少女は燃えるような赤い髪を二つに縛り青い瞳でこちらを見つめていた。ガリダ山と言えば明日自分たちが登る山である、トウヤは椅子から降りて少女に目線を合わせて答えた。
「そうだよ、お兄ちゃんたちは冒険者だからね。」
「行っちゃダメだよ。」
少女は遠慮がちな態度だったがしっかりと意思を感じる瞳で答えた。
「行っちゃ、ダメ?」
オウム返しにもコクコクと頷きトウヤの袖をつかむ。まいったなぁとミレイアを見ると彼女も椅子から降りた。
「ねぇ、あなたってここの子?」
首を縦に振る。
「じゃあお店の奥のお父さんのところに行っておいで。」
首を横に振る。
「お父さんとお母さんは?」
首を横に振る。トウヤ達はが目を合わせている間も少女はか細い声で山に登るなと言うばかりであった。
「おうレミィ、お客さんを困らせるんじゃない。
すると様子を見に来たであろう店主が少女を抱え上げた。
「大丈夫ですよ。ここのお子さんですか?」
「いやいや、コイツの両親はもういなくてな、叔父の俺が育ててやってんですよ。」
再び店主はレミィという少女を抱えて奥へと消えていった。
-2-
夕食後トウヤはミレイアの部屋に呼ばれた。ついにこの時がと期待したが大方の予想通り明日の打ち合わせでありまぁ当然である。とはいえその内容は村長と話したころと変わらず、地図を見ながらルートを確認するばかりでわざわざ呼び出してすることかとも思った。
(大猪のときやダンジョンの時は特に打ち合わせなんてしなかったけど、山登りだからか?)
その後もミレイアはたわいもない話を挟みつつしばらくだらだらと話したところで「さてと。」と手を止めた。
「さっきの赤髪の子のことなんだけどさ。」
「あぁ、レミィって呼ばれてた。」
「そうそう、あの子の言ってたこと覚えてる?」
「なんか山に行くなってやつね、あれなんだろうな。」
そうなのよね、とミレイアは背伸びをする。ラフな部屋着の袖からチラリと見える脇に目線が飛ぶ、我ながらノンキで単純な生き物である。
「それでね、この村に来てから思ってたことがあったんだけど————。」
話の途中でノックが鳴り、先ほどの店主とは別の従業員が覗き込んできた。
「おや、お取込み中でしたか。」
そんな事はない。
「大丈夫ですよ、何の用事ですか?」
「いえ、お風呂などいかがでしょうと思いまして。」
風呂という言葉に胸が躍った、この世界ではサウナが一般的でゆっくり湯につかるなど一度もなかったのだ。
「お風呂があるんですか。」
「ここは大きな川のほとりにありますので、水が調達しやすいのです。セントナードにお住まいなら珍しいかと思いまして。」
「それじゃあ後で入ろうかな。」
「お湯が冷めますのでできればすぐのほうがよろしいかと。」
少し考えミレイアを見ると「私は行かないからいってらっしゃい。」といった様子である。
ではお言葉にあまえて、とトウヤは荷物をまとめ店主に連れられ浴場に向かった。
ミレイアとトウヤの関係性を深めるエピソードを入れるつもりで1500字くらい描きましたが、話を進めることを優先してしまいました。
また今度投稿します