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戦いの夜明けと二人の始まり

-1-


目を覚ますとそこはベッドの上だった、全身に包帯が巻かれ身動きが取りにくい。状況が理解できずぼーっとしていると騒がしい足音と共に屈強な男が入ってきた。


「冒険者の兄ちゃん!起きたか!よかったよかった!」


「ここは、いったい…………?」


「採石場の医務室さ!どうだ?痛むところは無いか?」


「全身が痛いです。」


そうか!、と男はトウヤの脈を図り身体にベタベタと触れた後「命に別状なし!」と答え血がにじんでいる箇所にのみ治癒魔法を施していた。見た目にそぐわず彼が医師なのだろう。


「あの、俺以外に女の子はいませんでしたか?」


「いたいた、彼女は無事だぜ!先に目を覚ましたし、今は場長と話してんじゃねぇのかな?」


 医師はトウヤに水を勧めた。


「なにがあったか教えてくれますか?」


「そりゃもう大ごとだったんだ!夕方くらいだったかな、ドカーンと大爆発が起きたと思ったらダンジョンが消えててな、資材置き場は元に戻ってたんだがそこにボロボロのアンタたちがぶっ倒れてたんだよ。」


 外を見ると真っ暗になっている、それなりの時間眠っていたようだ。


「もしかして覚えてないのか?まぁ見つかった時にはもう気絶してたし、仕方ないか。」


「手当ありがとうございます。助かりました。」


「ハッハッハ!ほんとだよ全く!にしても二人とも無事でよかったよ、死人が出たとなりゃあ目覚めが悪いってもんさ。」


 それじゃあ朝まで休んでな、と医師が出ていくのと入れ替わりでミレイアが戻ってきた。


「トウヤ!大丈夫?」


「俺は大丈夫だよ、ミレイアはどうなんだ?」


「私の方は大したことないわ。本当、無事でよかった。」


 大したことないというミレイアもローブは土で汚れ頭には血のにじんだ包帯が巻かれている、お互い満身創痍だったのだろう。


「それにしても、とんでもない奴がいたな。こんなの普通のことじゃないんだろ?」


「当然よ。もっと楽なクエストかと思ったのに、まさか魔人が現れるなんて。」


「その魔人ってのは何なんだ?あと魔王軍とも言ってたよな。」


 ミレイアはベッドの脇に腰掛けた。


「まず魔王軍って言うのは西方の大陸にいる魔王を中心とした連中で、魔物達を使って人間の国に攻め込んできているの。魔人って言うのは魔法が使える魔物の中でも上位の存在で、魔王軍でも高い立場にいるわ。」


「そんな奴らがいるんだ、詳しいんだな。」


「ここは魔王軍からかなり遠い地域だから話を聞かなかったのかもね。…私はアナレシアの人間じゃないから、いろいろ噂を聞く機会があったのよ。」


 ふうん、と思ったところで傷が痛み、先ほどの戦いを思い出す。


「魔人、とんでもない相手だったな。」


「魔王軍の幹部だから当然よ、生きて帰れたのが奇跡だわ。」


「いや、手加減されてたんだよ。あいつ最初から俺たちを殺すつもりはなかったみたいだし。」


 トウヤは拳を握りしめる。


「とにかく、お互い命があったことを喜びましょう?ここの責任者から朝までいてもいいといってもらえたし、ゆっくり休んで明日ギルドに報告するわ。」


 そう言ってミレイアは隣のベッドに移った。


「え、同じ部屋で寝るの?」


「ベッドは別でしょ、それとも詰め所に布団を持っていく?言っておくけどあそこめちゃくちゃ臭かったわよ。」


 少し考えた後「いや、何でもない。」と言いトウヤはミレイアに背中を向けた。


————しばらく経ち、静かになった部屋の片隅で「ありがとう。」と誰に向けられるでもないつぶやきが聞こえた。



-2-


 とある森の奥、全身を焼かれ半身を大きく削られた魔人が歩いていた。


「アンバー・ジャック、無様な姿だな。」


「…………貴女が現れるとは、私もついに粛清対象というわけですかね。」


「大口叩いたわりに死に体の恥さらしだ、そう出来ればいいが魔王様が望んでいない。」


「そうですか。あの方の慈悲深さ、感謝しかありません。」


「それで、自動式迷宮生成術の精度はどうだった?」


「中に生まれる魔物の質は低いですが、地形の構築は上々です。わざわざ辺境に来たかいがありました。」


「なるほど、しかしこうも早く攻略されては実用には程遠いな。」


「返す言葉もありません。」


「しかし貴様ほどの使い手がこのザマとは、よほどの手練れがいたとみえる。」


「魔法使いと闘技使いの二人です、しかし身のこなしは素人に毛が生えた程度です。」


「ほう、それがどうして。」


「魔法の方はそれなりといったところですが、闘技については私の防御が意味を成さないことを除いても脅威的な威力でした。」


「この時代には珍しい闘技使いがいたものだな。」


「興味がありますか?」


「貴様にそれだけの痛手を負わせたのは魔王様以外にいない、興味は湧く。」


「さすがの戦闘狂ぶりですね。とはいえ目を見張るのは威力だけ、貴女は満足させられるとは思いません。」


「ふん、まぁいい。それともう一つ、“裏切り者”については何かわかったか?」


「これについてはさっぱり。術式実験の片手間だったとはいえ痕跡はなにひとつ見当たりませんでした。」


「そうか………では戻るぞ。粛清対象でないというだけで今回の結果を魔王様がどう受け止めるかは別の話だ。」


「もちろん、甘んじて受け入れますよ。…………ところで一つお願いが、肩を貸してはいただけませんか?」


「しらん、足が二本あるなら歩け。」


「手厳しい。足も切り落としておけばよかった。」


 魔人二人は空間に生じた穴へと消えていった。



-3-


 翌日、トウヤとミレイアは酒場で遅めの食事をとっていた。ギルドに報告を終えた後、魔人発見の報告を受けた公国軍から実地確認諸々で採石場に呼び出され、それ以外の報告などもありまともに食事もとれなかったのだ。


「とんでもない大騒ぎだったな。」


「そりゃ魔人が出たってなればそうでしょうね。場合によっては国家の一大事よ。」


「でも信じてもらえて良かったよ。」


「ホント、正直トウヤが魔人の話を出したときは肝が冷えたんだから。」


「え?どうして?」


「そりゃ、報告時点では何の証拠もなかったからよ。さっきも言ったけど魔人の出現はこんな小国じゃ国家の一大事、もし何の証拠もなかったら余計な騒ぎを起こしたって捕まってたかもしれないのよ?」


「え、そんなヤバいことだったんだ。だから報告したときここのマスターが微妙な表情してたのか……。」


「まぁ次から気をつけなさい。」


 反省ししょぼくれるトウヤに対してミレイアもフォローを入れる。


「結果的に上手くいったんだからそんなに落ち込まないで。所々危ういところがあるけど、信用できることは今回の件で十分わかったわ。昨日言ってたパーティーの件、トウヤがよければ一緒に組みましょう。」


「えぇ?いいのか!俺はもちろん!ミレイアは頼りになるし、ぜひ組ませてくれよ!」


「それじゃあ決まりね、今後ともよろしく。」


 ミレイアが差し出した右手を強く握りしめるトウヤ、その表情からはかなりの喜びが見て取れた。


「それにしても、そんなにパーティー組みたいって何があったの?」


「何もなかったんだよ…………。」


「どういうこと?」


「師匠から右も左も何にも分らないまま放り出されて、冒険者としても一人用のしょっぱいクエストをこなすその日暮らし。ほかの冒険者からは相手にされなくて心底何もない生活だったんだよ…………。」


「それは、なかなか苦労してたのね。」


「だからこの2日間めちゃくちゃ楽しかったんだ!魔人とかしんどい事もあったけど、だれかとまともに話して行動するってこんなに楽しかったんだなって思ったんだよ。」


「まぁ喜んでくれたみたいでよかったわ。」


 それじゃあ改めてよろしく、とミレイアは返答しトウヤとミレイアは晴れてパーティーとして登録されることになったのであった。



-4-


「いやぁ、食べた食べた。ここのごはんっておいしいよな。あれなんて料理なんだ?」


「ヒポイルヤムチェね。この辺りじゃよく食べられてるのよ。」


 それは食材名なのか料理名なのか、名前を聞いても何もピンと来ない。味が近いところで言えば大体鶏肉のトマト煮込みだが、おそらくこの世界でそれを言っても伝わらないだろう。


「うーん、やっぱよくわかんないや。」


「これから覚えていけばいいわ。」


 夜道を歩く2人。


「だいぶ暗いし家まで送ろうか?」


「そんなに遠くないし大丈夫よ。」


「とはいえこの辺って治安良くないし。」


「んー、じゃあお願いしようかな。」


 それじゃあ道案内を、と思ったところでミレイアが何か見つけたようだった。


「あら、かわいい子がいるわ。」


 小動物のようだ、暗がりに何やら声をかけている。しばらくするとその生き物はミレイアの手のにおいをかぎにきた。


「わぁ、あなたフワフワね。見たことないけどなんて動物かしら。」


 人懐っこくじゃれるその生き物を見て、トウヤは硬直してしまった。ピンと立った耳に宝石のように丸い瞳、そしてグレーの縞模様。


「ミレイア、お前こいつのこと知らないのか?」


「えぇ、初めて見るわ。トウヤは知ってるの。」


「そうか……。いや、俺も知らない…。」


 明かりに照らされたその生き物は間違いなくアメリカンショートヘアの猫そのものだった。



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