強襲と対戦開始
-1-
「お兄ちゃん、さっき向こうのほうが光ったよ。」
レミィがトウヤの裾を引く。指さした方向を地図で調べるとミレイアが移動している方面であった。
「あぁ見えた。ミレイアがあんな派手に魔法を使うとは思えないし、もしかしたら敵に見つかったかもしれないな。」
時計を見る、作戦開始までそう時間は無い。廃坑を見ると賊の動きが騒がしくなっている、おそらくミレイアが見つかってトウヤ達がここに迫っていることがバレたのであろう。
(正直もう帰っていいけどなぁ…………。)
敵に気取られ攻略の難易度が上がった事もあり、当初の予定通りクエスト失敗ということで帰りたかったが、ミレイアと別行動である以上余計なことは出来なかった。
「お兄ちゃん、大丈夫かな。」
レミィの手が微かにふるえていた。物々しい雰囲気から少し怖気づいたところもあるのだろう、確かに魔物と対峙するのと人間を相手にするのとではトウヤとしても緊張してしまう。
「大丈夫さ。レミィは強い。」
これは本心であった、青鱗竜と共に戦ったことからも彼女の強さは保証できる。
「そうかな?そうかな?」
「あぁ、レミィならできる。それにもし無理だと思えば逃げてもいいさ、俺だってそうする。」
「うん………わかった。」
多少落ち着きを取り戻した様子で震えも納まっていた。
「悪い奴らをやっつけて、みんなで帰るんだもんね………!」
ついさっきまで脅えていた少女と思えないほどその瞳には力が宿りやる気に満ち溢れ始めた、よく考えれば出会った時の印象と比べ青鱗竜との戦い以降何となく好戦的というか活発に思える、これが彼女の本性なのか竜としての本能なのかわからないが確認する必要もないと判断した。
「あ!お姉ちゃんからの合図だよ!」
遠方に稲妻が弾け廃坑の一部を破壊した、ミレイアからの作戦開始の合図である。トウヤは駆け出し、レミィは羽を広げ空に舞い上がった。
-2-
ミレイアが設置した魔法は時限式に複数個発動し攻撃を開始する。敵の視線が集中していることを確認しトウヤも突入した、ここで内側から攻撃して更に場を混乱させる作戦なのだ。手のひらに闘気を込めて正面に向ける。
(ここはとにかく衝撃波で広範囲に攻撃する!)
「烈波し————。」
「なにしてくれてんだよ。」
不意に現れた男に腕を取られトウヤは地面に叩きつけられた。
「どうせ陽動だろうと思って手薄になったところに来たら案の定だったな。」
男は仰々しいコートは羽織ってはいるがその下は作業着のような服を着ている。
「お前が脱獄したここのリーダーか………?」
トウヤを押さえつけているのは片腕のみのハズが、なぜか全身が押さえつけられているようで身動きができない。
「だとして何だよ。おいシルバ、侵入者だ」
男の声に奥から両手に手斧を持った大男が現れた。
「グラフの兄貴、コイツ殺しちまってもいいですかい?」
「おう、殺せ。」
大男が手斧を振り下ろす瞬間トウヤは全身から闘気を放出した。相手からすればいきなりトウヤが爆発したように見えたであろう、拘束から解かれたトウヤは距離を取った。少し離れた上空ではレミィが予定通りに敵が集まったところへ炎を吐いているのが見える。
「おいおい、急に爆発しやがって驚かせるなよ。」
リーダーの男は手をヒラヒラと振りながら立ち上がる。
「兄貴、今のあれってもしかして。」
「あぁ、さっきの溜めに今の技。お前、闘技使いだろ。」
「だとして何だよ。」
「べつになんてことはねぇさ。」
グラフは人差し指を向けると黄金色の球体を生成しトウヤの後方に撃ち込んだ。
「面白れぇこともあるもんだ、って思っただけだよ。」
グラフはシルバに指示を出す。
「お前は入口の方に行け。なぜかドラゴンが飛んでやがる。お前なら落とせるだろ。」
あいよ、と威勢よくシルバは去っていった。
「そして闘技使い、テメェの相手は俺だ。」
グラフの指は完全にトウヤを捉えていた。
(これじゃ逃げようは無いな…………。)
トウヤはゆっくりと剣を抜く。
「お前を倒せばこのクエストは終われるんだ、さっさと終わらせるぜ。」
「わかりやすくでいいじゃないか、打ち込んできな。」