おまとめと奪われた家
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装備を身に着けたレミィはなかなか冒険者として様になっていた。金属板は少なめに機動力を重視すると同時に竜に変身した際に邪魔になりにくい装備を選んだそうだ。
「武器はないのか?」
「お兄ちゃんそれはね…………?」
自慢げにニヤつくレミィの右手がぼんやりと光ると、強靭な竜の形に変わった。
「じゃーん!もう腕だけ変身できるようになったんだ!
「おぉ!こりゃすごいな!」
「うん!だから私は拳で戦うんだよ!」
「そりゃよかった、これは頼りになるなぁ。」
「これに全部竜になった時より疲れないんだよ!。」
「本当か!至れり尽くせりってやつじゃないか、最高か?」
胸を張るレミィをミレイアは心配そうに見ていた。
「やっぱり今回のクエストには反対か?」
「人間相手、ってところがね。本当は雑多な魔物狩りから慣れてほしかったのよ。」
それに関しては同意見だった、アーデンからの依頼がなければこんなクエストを受けることは無かっただろう。
「正直このクエストはとりあえず受けて、危なくない程度に逃げられればいいと思ってる。」
「わざと失敗して『本当は大したことないんですよ~』ってアピール出来ればいいってこと?」
「そういうこと。」
「まぁ、それがいいでしょうね。私もこれ以上悪目立ちしたくないし。」
すでに十分悪目立ちしている二人をレミィは不思議そうに見た。
「二人とも何の話してるの?」
「次のクエストの作戦会議さ。」
「そっか!お兄ちゃんにお姉ちゃん、そして私がいれば絶対勝てるよ!」
「もちろんさ、でも危なくなったら逃げるんだよ。」
「わかった!」
それでこの後はどうするの?と聞くレミィに同意するようにミレイアもトウヤを見た。
「んー、今日は解散しよう!もう疲れたし風呂入って寝たい!」
まだ街を見て回りたいのだろう、レミィは抵抗していたがミレイアに担ぎあげられ今日は解散となった。
-2-
風呂屋で旅の疲れを流し日も落ちた頃、久々の我が家である鐘の塔に向かうと入口にはトウヤの荷物が置かれ、管理人が出迎えてくれた。
「久しぶりだなじいさん。」
「おぉトウヤ、帰ってきたか。」
「ほら、今日はいい酒だぜ。これ俺の荷物だろ、何かあったのか?」
ありがとよ、と返事をする管理人だったがどこか様子がおかしい。
「……実はな、お前がここに住んでいたことがバレちまったんだ。」
「マジかよ。」
「今日役人が来てな、怪しい人間が出入りしていないかって調べられたんだよ。」
管理人が言うにはそこで寝床にしていた倉庫の中も見られ、日用品の一部が見つかったとことでトウヤの存在が露見したそうだ。
「申し訳ないがバレてしまった以上お前を住まわせてやることはできねぇ。」
管理人は荷物を指さした。
「荷物は幸い捨てられなかったから、こいつは持って行ってくれ。」
端的な台詞だったが、トウヤの帰りを待ってくれたことからも本人の心遣いを感じられた。
「仕方ないさ、気にしないでくれよ。」
「悪いな、この酒は返すよ。」
「受け取ってくれよ、今までのお礼だ。」
「ありがとう。これからお前はどうするつもりなんだ?」
「そうだなぁ。報酬も手に入ったし、しばらく宿で暮らすよ。」
そうか、と管理人は答え酒を飲む。
「いろいろ苦労するかもしれんが、がんばれよ。」
「あぁ、また飲みに行こうぜ。」
トウヤは今までの分金を渡すと置かれた荷物をまとめ塔に背を向けた。自分の居場所が知られたのはアーデンの策略なのかもしれないし何かの偶然かもしれない。原因は分からなかったがこれも一つのステップアップだと思い、トウヤは宿を探すため町に戻っていった。