新たな仲間と新たなトラブル
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荒野を走る一台の魔動車、そこにはトウヤとミレイアそしてレミィの三人が乗り込んでいた。
「トウヤが出ていったとき、怒って文句言いに行ってると思ったわ。」
「なんだよ俺がそんな怒りっぽいとは思ってたのか?」
「そうじゃないけど、ねぇレミィ?」
「おじさんと喧嘩しに行ったのかと思った!」
まいったなぁと頭を掻くトウヤ。宿の店主との話が終わった後レミィを連れていくことになったわけだが、意気投合した女性陣と2:1の構図になっていた。
「まぁいいじゃないか。そんなことより今回のクエスト報酬見なよ、とんでもない額だぜ。」
依頼書にかかれた報酬額を見る。先日の大猪やダンジョン探索と比べて3桁も多い金額に胸が躍る、いままでのその日暮らしの生活から脱却するには十分すぎる額だ。
「すんごいお金だね。」
レミィも目をキラキラさせて覗き込む、宿で働くうえで金の重要性というのも学んでいたのであろう。
「もちろん山分けだからレミィもこれはもらえるんだよ。」
「ほんと!?やったやった!」
「あ、でも大半は私たちで管理するわよ。いきなりこんなとんでもない額を自由に使うのは危ないわ。」
「えー、そんなぁ。」
「大金持ってたら悪い奴なんかに目を付けられるからな、慎重にしないと。」
「うーん、わかった。」
ものわかりの良さから彼女がよい環境で育てられたことが伺えた。
「ところでトウヤ、あなた今どこに住んでるの?」
「あぁー、ちょっとした倉庫に間借りさせてもらってるんだよ。」
「倉庫……また難儀ねぇ。でも今回のお金で引越しできるんじゃない?」
「とはいえ、住民票がないからなぁ。」
記憶がないということで通っているトウヤはそういった行政的な登録は一切ない、というよりそもそも転生してきた身にそんなものはなかった。
「あー。じゃあ家は契約できないわねぇ。」
「それなんだよ。っていうかさ、住民票がなきゃ家には住めない。家がなけりゃ住民票は取れない。ひどい話だよな!」
「レミィ住民票あるよ!」
カバンから取り出した書類をトウヤは恨めしそうに見る。
「いいなぁ、レミィは家が借りれて俺にはできないんだよ…………。」
「じゃあレミィが家を契約してトウヤが住み込んだら?」
できなくは無いわよ、と話すミレイアだがその表情はどう見てもおちょくっていた。
「いたいけな少女に家の契約をさせる家族でもない住民票もない男ってどう見える?」
「甘く見ても事案ね。」
爆笑するミレイアに食って掛かりたくなるトウヤの姿をレミィも笑っている。
「まぁレミィはウチにいらっしゃい。トウヤの件はおいおい解決すればいいわ。」
「わかった!お兄ちゃん、私の住民票使う?」
「んーわかんないけどそれやると犯罪になっちゃうかなぁ。」
行きがけよりも騒がしい帰路はあっという間であった。
-2-
酒場につくと大変な歓迎を受けた、大口叩いた新参パーティがドラゴンの討伐を完遂させたのだ、今まで遠巻きに見てた面々からも声をかけられ大変な大騒ぎである。
「すごい、あらくれものが大騒ぎしてる。」
「レミィ、荒くれ者って言ってやるな。悪い人たちじゃない。」
先頭を進むミレイアはクエスト報告をさておいて人ごみにもまれながらもずんずんと自分達へ喧嘩を売ってきた例のパーティに向かっていった。気まずそうにこちらを睨むパーティに彼女は高らかに吠える。
「よくもまぁ貶める気満々のクソクエストを押し付けてきたわね!さぁ、きっちりドラゴンを討伐してきたわよ!」
机を蹴り上げんばかりのミレイアをみて「どうしたの?」と聞くレミィに「喧嘩してたんだ。」と答える。
「あんた達冒険者の誇りみたいなこと言ってたけど結局やってることは新人いびりじゃない。今どんな気持ちかしら、教えて御覧なさい?」
フルパワーで喧嘩を売るミレイアに憤った様子の仲間を抑えリーダー格の男が答えた。
「あぁ、お前たちを見くびっていたし体よく追い出そうともしていた。こちらの負けだ、お前たちの強さを認めて謝罪しよう。」
頭を下げる冒険者を背景にミレイアは拳を突き上げオーディエンスに見せつけると場の盛り上がりは最高潮に達した。トウヤとしてはこれに乗っかって盛り上がりたいがクエストを受けたのは自分であるためすこし後ろめたい、レミィに関してはよくわからないなりに盛り上がっている様子であった。
「さぁ、楽しんでいるところ悪いが報告にきてくれよ。」
見かねたマスターが声をかけてきた。
「むこうでお前たちに用がある奴が待ってる、時間を取らせてやるな。」
何か堅苦しい話があることを察したトウヤとミレイアはレミィを受付嬢に預けると、カウンター奥の部屋に向かった。中には小綺麗な格好をした壮年の男性がソファに腰掛けており、二人を見た男は立ち上がり挨拶をした。
-3-
「初めまして、私は内務省で働くアーデン・クロイツと申します。」
年上からのかしこまった挨拶に恐縮しつつも各々自己紹介を返す。二人が腰掛けたところでアーデンは話し始めた。
「まずはガリダ山でのドラゴン討伐お疲れ様でした。被害者も出ていた中、迅速な対応感謝します。」
反応を見ながらアーデンは続ける。
「マスターから話は伺いました、魔人との交戦にドラゴンの討伐。目覚ましいご活躍ですね。」
「いえいえ、行き当たりばったりもいいところです。」
「仮にそうでも結果が全てです。それを踏まえたうえで、皆さんに内務省よりクエスト依頼があります。」
顔を見合わせる二人、「内容を教えてください。」とミレイアが答えた。
「そうですね、実はこの街から少し離れた廃棄された鉱山に牢獄から脱獄した囚人一派がいるとの通報がありました。あなた方には生死を問いませんので奴らの確保をお願いします。」
「人間相手、ですか。であれば正直お断りさせていただきたいです。」
「そういう回答は想定していました、しかしこのクエストは受けていただきたいのです。」
こちらの返事を受け入れる気のないアーデンが様子にミレイアもムッとして答える。
「そもそもギルドに所属する冒険者は、基本的にクエストを受けるかの選択は自由ですよね?」
「基本的には、な。」
二人の会話にマスターが割って入った。
「国はギルドの大事なスポンサーのひとつだ、無理を言ってでも受けてもらうことはある。」
「もちろん依頼を優先してもらう事によって生じる経済的損失はある程度補填しますよ」
「でも俺たちは今のところ何のクエストも受けていないから、その補填とやらは払わなくていいな。」
「通常の報酬は支払います。」
「そういう問題じゃないわ、ウチにはレミィがいます。人間相手のクエストは受けられません。」
アーデンは「そういわれても。」と答える。
「我々としてはトウヤさんとミレイアさんのお二人に依頼するつもりでしたので、ああいった少女がいるのは想定外です。」
それに、とマスターが再び間に入る。
「今の口ぶりからしてお前たちはあの子をパーティに入れたいんだろ?となると冒険者として働く以上すべては自己責任だ、調整すべきはお前たちだし依頼人の知ったことじゃあない。」
正しいかは知らんがそれが道理だ、とマスターは述べる。更に言い返そうとするミレイアをトウヤは止めた。
「もし、仮に俺たちがクエストを反故にしたらどうなるんだ?」
「えぇ、著しく評価が下がることになるでしょう。」
「新参者の俺たちに評価もクソもないだろ。」
「言い方を変えましょう、ルーキーが魔人とドラゴンを撃退している事実は各方面から注目されています。今回の依頼は“あなた方の領分で働いてもらいつつ”実力を図るためのものなのです。」
意味を理解した、断ろうものなら多少強引な手段で自由を奪うことも可能だというのだろう。
「どんな方法でもいいからとにかく挑戦すればいいんだな。」
ミレイアが騒ぐが一旦黙らせる。
「非合法な手段でない限り、方法は問いません。そこは冒険者の自由ですから。」
「わかった、詳細を教えてくれ。」
良い返事をいただきありがとうございます。とアーデンは言い依頼書を出した。
「脱獄した囚人をリーダーに冒険者くずれの賊がこの廃坑に潜伏しています。」
地図を広げて牢獄から順に目撃地点を指でなぞり、鉱山に至る。
「奴らがどの程度の期間身をひそめているかわかりませんが放置することは出来ません。出来るだけ早めに確保をお願いします。」
「それで報酬は?」
「この金額で。」
アーデンが示した金額はドラゴン討伐に比べれば少額であったもののそれなりの金額であった。
「それともう一つ。このクエストを完了させた際はトウヤさん、あなたの戸籍を登録できるよう打診致しましょう。」
「それは二の次でいい、この依頼は受けるさ。ただ数日くれ、準備もあるし遠征を終えたばかりで疲れた。」
「そうですね構いません。では3日です、3日以内に出発をお願いします。」
「わかった。行こう、ミレイア。」
依頼書をつかんだトウヤはいまだ不満げなミレイアを促し部屋から出ていった。