悪戦苦闘と空中戦
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爆風と反動、殺人的なエネルギーの奔流はダンジョン内で破壊の限りを尽くす。押し出された岩盤は崩れ落ちる落ちることなくダンジョン化による異空間すら破壊し洞窟の壁と天井は放射状に吹き飛ぶことで目前は更地になっていた。
(全力でやれとは言われたけど、閉鎖空間だってことは意識したほうがよかったかも……。)
反動を抑えきれずひっくり返っていたトウヤの視界の隅にミレイアと竜化したレミィが映った。
「全力でやれとは言ったけど、閉鎖空間ってことは意識してもらうと助かったかも。」
「ごめんやりすぎた。」
「まったく気にしてないわ、結果オーライよ。」
「にしても疲れた、フルパワー使い果たしたってやつだよ。」
「同感、私もさっきから防御魔法使いまくりよ。」
どっちも威力だけは全開一丁前なんだもん、とミレイアは杖を支えに立ちあがり、レミィがそれを支える。
「レミィ、大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫。」
ミレイアに寄り添っている様子から多少落ち着きを取り戻したようだ。
「竜になったのも竜神様の言ってることもびっくりだけど、今は大丈夫。」
「すごいわ、よくできたわね。」
ミレイアが頭をなでるとレミィは嬉しそうに喉を鳴らす。
「一種のショック療法って奴かもな。」
「それだとしたらダブルで結果オーライよ。」
トウヤがサムズアップしたところで突風のような羽音と共に三人は影に包まれた。
「貴様ら!これだけのことをして生きて返さんぞ!!」
頭上には瑠璃の様に可憐な鱗は大半が剥がれ、翼もぼろぼろになったもののいまだ健在の青鱗竜が飛行していた。
「マジかよ…………。」
「この程度で我を殺せると思ったかァ!?」
「正直思っていたよ、一応全身全霊だったんだけどな。」
「洞窟を吹き飛ばし自由の身になったつもりだろうが、この大空こそ竜族の縄張りと知っての愚行か!!」
天高く舞い上がる青鱗竜にトウヤは再び波動球を撃つが空中で躱され、連射しても空中では捉えられず当たる気配はない。
「止めておきなさい、体力の無駄使いよ。」
ミレイアは杖から複数の光線を放つ、屈折する光線は敵を目掛けて追従するが青鱗竜の機動性はそれを上回り、当たるにしても掠るだけで決定打には到底なり得なかった。
「止めておけ、当たったところで意味がない。」
それでは二人で同時に攻撃しようと構えたところで青鱗竜は急降下し火炎を放ってきた。
「食い殺す事すら腹立たしい!跡形もなく燃やし尽くしてくれるわ!!」
防御魔法で防ぐがミレイアも限界が来ているのがうかがえる。
「何とか森に逃げ込むのはどうだ?」
「森ごと焼き払われて終わりよ、延焼がない分今のほうがまだマシだわ。」
「でもこのままじゃ持たないだろ。」
「それはそう、どうにかならないかしら。」
対抗策を模索しようにも防戦一方、それに二人とも体力を消耗しており残された時間も多くはなかった。二人の様子を見てレミィは立ち上がる。
「わかった、私頑張ってみる。」
二人の回答を待たずレミィは翼を広げ空に飛び出した。
「体の動かし方は何かわかった!私も守られてばかりじゃない!」
「レミエラか!貴様も奴らと共に燃やしてくれる!」
「ねぇ、お父さんとお母さんはあなたが殺したの!?」
「その通りだ!縄張り争いに負けて貴様の親は死んだ!人も食わず細々と生きようとするから死ぬのだ!」
「そしてほかの人を食べるために村の人を利用したの!?」
「それがどうした!人の姿で生きればいいものを我に牙をむけおって!」
レミィも善戦するが、5倍ほどの体格差を覆すには至らず爪による攻撃も吐き出す火炎でも大きなダメージは与えられず、トウヤとミレイアとしてもレミィへの被弾を懸念して地上からの攻撃はできなかった。
「羽虫の様に飛び回りおって、邪魔だ小娘が!」
結果レミィは地面に叩きつけられる。駆け寄ったミレイアが回復魔法をかけ大事には至らなかったがレミィだけでは突破口にはなりえないことは明白だった。
「ごめんなさい、勝てなかった…………。」
「ありがとう、でも一人では無理をするな。」
起き上がるレミィを気遣いながらトウヤは一つ提案をした。
「レミィ、俺を載せて飛べるか?」
「お兄ちゃんを?多分、出来る。」
「ちょっと、どうするつもり?」
トウヤはカバンのベルトを外すとレミィの首にかけた、引っ張ったところ息が苦しい様子はない。
「あいつの飛び方を見てわかった。ミレイアが援護してくれれば攻撃をあてられる。」
ベルトを手綱がわりにレミィに跨る。
「レミィ、飛びにくいだろうから無理はしなくていい。とにかく近づいてくれ。」
「わかった、がんばる。」
二人は高く飛び上がった、初めはふらふらと揺れていたがすぐに安定し青鱗竜に追いすがる。
「図に乗るなよ人間!!」
「竜神様よォ!勝負といこうや!」