竜の目覚めと竜の目覚め
-1-
山道はきびしかった。と言いたいところだが中腹までは車で進めた上に山道も緩やかで道中も魔物も大した個体は現れなかった。
「なんか、拍子抜け感があるな。」
「というよりお膳立てよ。油断させたいのか途中で倒れてほしくないのか、罠だと知ってから行くと滑稽ね。」
「地図も今見るとやたら丁寧だし、魔物が住み着く山の地図としてはちゃんとできすぎてるな。」
「そういう所も気になったのよ、都合のいいところは大体罠。」
さすがに言い過ぎでは、とも思うが今回村の様子に気づけなかったので特にいうことは無い。
「レミィ、ついてきてよかったのか?」
「うん、一人でいるのは怖い。」
「そっか、危ないからちゃんとついてきなよ。」
「ついたわ、多分ここじゃないかしら」
そこには大きな洞窟があった、外も中もツタで覆われている。もしかしたらドラゴンが眠っているときはこのツタが入り口を隠していたのかもしれない。
「結構でかいな。」
「この感じ、中はダンジョン化してるわね、気を付けて進みましょう。」
三人は中に足を踏み入れた。中は広く以前攻略したダンジョンとは様子が違う。中も魔物の姿はなかった。
「嫌に静かだな。」
「多分ドラゴンが根城にしてるからほかの魔物も寄り付かないんでしょうね。」
しばらく進んでいると唐突に壁が崩壊し巨大なドラゴンが襲い掛かってきた。
「いきなり来るかよ!?」
壁に開いた大穴から姿を現したのは十数メートルほどの体躯をしたドラゴンであった、崩壊した壁は道を塞り退路を断っている。鱗は鉱石の様に煌めき大きな翼で激しく風を起こし壁を破壊した丸太の様に太い前足で地面を鳴らし威嚇している。
「こいつが竜神様ってわけか、デカいが神を名乗るには割と普通のドラゴンだな。」
無機質な瞳はトウヤ達を捉えた。カチカチを歯を鳴らし口から吐く炎をミレイアの防御魔法が受け止め、魔法に防がれなかった壁面が一瞬にしてガラス化する。
「さすがの火力ね、正面から食らったら一瞬で消し炭だわ。」
岩陰に潜んだところでドラゴンが口を開いた。
「小賢しい。我を手こずらせるな。」
「なんだお前ドラゴンのくせにしゃべれるのかよ。」
「ほざけエサ風情が、それに我には青鱗竜の名がある、二度と雑多な名で呼ぶな。それよりもその赤髪、レミエラだな?」
レミィのことか?、トウヤ達は彼女の方を見る。
「なんで、なんで私のことを知ってるの?」
困惑した様子のレミィに対して青鱗竜は続ける。
「まぁ知らぬのも当然か、貴様の親を殺したときに最後の願いにと頼まれて幼い貴様を人里に送ってやったのだ。」
「そんなことない、お父さんとお母さんは事故で死んだっておじさん言ってたもん。」
「あの村の連中は我のために働くよう洗脳しておる、そのような者の発言に何を言うか。そもそもアレは貴様の叔父などではない。」
ミレイアが身を乗り出し光弾を放つが翼に防がれた。
「こんな魔法じゃ効かないか…!」
「やめておけ人間、その程度効かんわ。大人しく我の糧となれ。」
隠れていた岩も尻尾の横薙ぎに吹き飛ばされてしまった。
「そんなことよりもレミエラよ、同属のよしみで見逃した命だが、ここに来たという事であれば貴様も食らうことになるぞ。」
「同…属…………?」
青鱗竜は歯をがちがちと鳴らして大笑いした。
「フハハハハッ!何も知らぬというのも無様よのお!誇り高い竜族という自覚もないまま我に食われるとよいわ!」
呆然とした様子の少女を食らわんと口を開いた刹那、レミィは赤い光に包まれた。
「私は竜?お父さんとお母さんは竜神様に殺された?あああああああああああ!」
赤い輝きは次第に竜の形となり、そこにいたのは少女ではなく赤い鱗に覆われた一匹の竜であった。
-2-
「ふん、竜の姿を奪い人として生かしてやったというのに自らその力を取り戻すとは、よほど我に食い殺されたいと見える。」
「本当にドラゴンだったのね。」
「レミィ、なのか?」
「お兄ちゃん、私どうなってるの…………?」
レミィ自身もこの変化を理解できてずわけもわからずその場でうずくまり動かなくなった。その様子に青鱗竜だけが余裕の表情である。
「それにしても、親によく似た鮮やかな鱗よのぉ。」
再び炎の溜めに入る青鱗竜の頭部にトウヤが波動球を打ち込む、攻撃は中断できたがほぼ無傷であった。
「ぬるいぞ、人間。」
(クソ、溜め無しで撃ったにしても無傷かよ…………。)
トウヤが逃げるためレミィを持ち上げようとするがあまりの竜になった彼女の体格差故持ち上がらない、見かねたミレイアが強化した身体で抱き上げた。
「さッすが魔法使い…………。」
「闘技使いは頼りにならないわね。」
二人は駆け出し道を探す。
「あそこの道はどうだ!?」
「あんな浅い穴、炎でも吐かれたら一気に蒸し焼きよ!」
「じゃあどこに逃げるっていうんだよ!」
「…………わかった、隙を作るからアンタ全力で波動球を撃ちなさい!」
「そんなことしたらダンジョンが崩落して潰れるだろ!」
「ここはもともと山頂付近、アンタが思いっきり吹き飛せば落ちてくる岩盤なんで消しとんでるわ!」
「……わかった、その作戦乗った!」
ミレイアは青鱗竜の鼻先に閃光を放ち視界を奪うことで一時的に動きを止めた。トウヤは右手をまっすぐに構える。
「死ぬ気で衝撃に備えろよ!!」
「大丈夫だから撃ちなさい!」
(全力、全力だ…!岩盤もアイツもまとめて吹っ飛ばす!)
「波動球!!!」