精霊族の街
この町には、石壁が無かった。
中心地に建物が多く、外側に行くに従い建物が疎らになっていく。外側は農地だったり草原だったりしている。道路は只の踏み固められた土の道だった。行き交う人も疎らだ。栄えているとは言えない、落ち着いた地方の街の雰囲気があった。
僕達は、誰にも誰何される事無く、街に入っていく。
街の住人は、殆どがドワーフもどきの人々だ。偶に牛頭などの異形の人も見かけるがその者達は住人では無く、街に農作物を卸に来ている人達だ。
中心地に近づくにつれ、ケットシーのような猫型の小さい生き物が見られる様になった。ヌポポが、あれらは妖精だ、と言った。クルスの街に来た精霊族はあの妖精を連れていた。あれは精霊の道を通る為につれて来ていたのか。多分エルフ付きの妖精だったのだろう。
ヌポポが、「妖精を付けているのは殆どエルフだヌポ」と言っていた。
エルフの人口はとても少なく全体で1万人も居ない。今はどうなっているか分らないが。とヌポポが言っている。「?」今は分らないと言う事は、ヌポポの知識は、どのようになっている?
「ヌポっ!ヌポポが生れた精霊樹がヌポポと繋がっているヌポ」
精霊の道は精霊樹に繋がっている。しかし、トロン領に在る精霊樹は苗木の時にあの場所に植えられて以来他の道に繋がれなくなった。周りが海の中ツ国はどこともつなげられ無い。植物だものな、塩分は苦手なのだろう。
精霊樹は、人の手によって増える事が出来る。自ら増える事は出来ないそうだ。
トロン領の精霊樹は谷間の低い処に隠れるように立っていた。誰かが、彼処にコッソリ植えたのだろう。
僕が獣人族のおばば様に預けた精霊樹はどうなのだろう。若しかしてあそこからも行き来ができるのだろうか。ヌポポは「ヌポっ!あと三百年くらいで行けるヌポ」と言った。
未だ、無理のようだ。
中心地にある、憩いの池に来てみた。
此処で、初めて僕達に目をとめる人がいた。ドワーフもどきの老人だ。
「貴方たちは、どの精霊族かな?見たことがない種族じゃ。」
此処ではあまりにも多種族な為、今まで気に留められなかったのか。妙に納得してしまった。この老人は、それなりに長い人生の中で、人族を見たことがなかったのだろう。
なんと答えた物か。僕達は、皆困って仕舞った。正直に言えば、騒ぎになるだろう。
「おや、此はなんと、位の高い妖精様じゃ。失礼いたしました。」
老人はそそくさと、離れて行ってしまった。ヌポポが、人型だからかな。頑張って人型になったと言っていたものな。
「もう、そろそろ宿を取りましょう。」マリアがもう、野宿はこりごりだと言った。
僕達は宿屋に入り、まず宿の対価を聞いた。すると、なにもいらないという。何故かと聞くと、
「祝福をお持ちの方からは、お金はもらえない。」
お金が、あるのか。僕は此方の通貨を聞いてみると、「マリ」だという。ビックリした。人族と同じお金が通貨だと!試しに,持っているお金を見せてみると、同じ物だった。
宿賃は一泊10マリだ。随分安い。サウスの街で狭い部屋でも,30マリしたのに。
宿賃は何百年も変わらず同じ額なのだとか。まるで、時間が止っているようだ。経済の発展はないのだろうか。
部屋は2つ。立派な広い部屋に通された。