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元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第3章(魔力吸いの大森林)

元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第3章(13終)俺たちの戦いはこれからだ!

作者: 刻田みのり

 お嬢様とリーエフが少し話をした後、俺だけが皆から離された。


 同じ白い空間にいるのだが俺とお嬢様の二人だけになると白い壁と小さな丸いテーブル、それに白い椅子が二脚現れる。ご丁寧なことにテーブルの上にはティーセットと菓子器まであった。


 菓子器の中は……ん? 何だこれ?


「ああ、これは羊羹ですね。甘くて美味しいですよ」


 そう言いながらウサミミと仮面を外すと、お嬢様は菓子器に付属してあった短い串で一切れ取り品良く囓って見せた。


「ジェイも遠慮せずに食べてくださいね」

「は、はぁ」


 促されたので俺はお嬢様を真似て食べてみる。


「……!」


 一口囓っただけで口内に上品な甘さが広がった。しっとりとした触感もいい。


 そしてこのお茶は……おや、すっきりした苦みがあるな。


 緑茶というのはアルガーダ王国に広く出回っていないが一部の地域では少量飲まれている。


 ライドナウ領だと港町ポートブロッサムの北側の地域で栽培が行われているはずだった。


「……」


 て。


 ええっと、当たり前のようにメイド姿のリアさんが給仕をし始めているんですが。


 この人、どっから湧いたの?


「ジェイ、どうかしましたか?」

「いや、リアさんが……」


 動揺した俺にお嬢様が訊いてきたので思わずそう応えてしまった。


 ちらとリアさんに目を遣ってからお嬢様が微笑む。あ、何かわざとらしい。


「ふふっ、こういう場所でお茶をする時に仕えてくれる人がいると便利でしょ? ほら、どうしたって普通の人には任せられないし」

「いや確かに普通の人ではありませんが……て言うかこの人闇の精霊王ですよね? しかも、調整送りになってるはずの」

「ええ。ちなみにこちらは分身体の方で本体は現在進行形で調整中です」

「……」


 リアさん。


 まさかとは思いますが別の分身体をシャルロット姫の傍に置いてませんよね?


「それと離宮の方にもう一人の分身体がいますね。ほら、いきなりシャルロット姫付きの侍女がいなくなったら問題ですし」

「……」


 うん。


 精霊王って便利だね。


 ちょいつっこみたいけど疲れそうだから止めておこうっと。


 俺がそう心に決めて緑茶を飲むとお嬢様が告げた。


「私、ジェイに嘘をついていたんです」

「!」


 不意の告白に吃驚して飲んでいた緑茶を吹き出しそうになったのをグッと堪えた。よし、セーフ。


「あ、あのそれはどういう……」

「私がただの元公爵令嬢ではないってことはジェイも知ってますよね?」

「は、はい」


 そりゃ、さすがに俺でもそのくらいわかる。


 大体、普通の元公爵令嬢はあんなウサミミと仮面をつけたりしない。いやまあ仮装好きな人ならあり得るのかもだがそういうレアケースをここで挙げるのは何か違うだろう。


 それと、あの店。


 両腕にマジンガの腕輪をつけ、体内にマナドレインキャンセラーやら何やらを備えた俺はとてつもない魔力を保有している。そのお陰でお嬢様の仕掛けた認識阻害を看破できるようになっているのだ。


 お嬢様がシスター仮面一号であるのと同じように、シスターラビットの正体もお嬢様だったのだ。


 つーか、ウサミミ少女やクロネコ仮面の言動からも察することができるんだけどね。たまに言い直したりしてたし。


 そうなるとウサミミ少女とクロネコ仮面の正体もあの二人ってことになるんだな。


 あの黒猫の獣人があーんな格好をして……ぷぷっ、いや笑っちゃ可哀想か。


「王都での活動……いえ、王都だけではなくノーゼア以外での活動は私が学園と王都からの追放処分を受けている関係でああするしかありませんでした。正体を隠して秘密のヒーローごっこをしたかったとかそういうのは微塵もありませんよ」

「……」


 お嬢様はとてもにこやかだ。


 うん、ヒーローごっこをしたかったんですね。わかります。


 ヒーローごっこが何かはよくわかりませんけどわかったことにします。


 こういう時はあえてわかったことにした方が楽だと思い知ってますからね。これでもお嬢様との付き合いは長いんですよ。


「あの二人、クロネコ仮面ことシャムちゃんとシスター仮面二号ことアンゴラちゃんとは王都で知り合いました。同時期に栄光の剣のニコルくんたちとも縁がありまして、その関係でお店の方を手伝ってもらったりしてたんですよ」

「そうなんですか。そういや彼らはどうなったんですか? マリコーに亜空間送りにされていましたよね?」

「あら、気になります?」


 いえ、そんなには。


 とは言えず。


 お嬢様が訊いて欲しそうだったからというのは言わないことにした。まあ、バレバレだろうけど。


「彼らはジェイがマリコーと戦っている間に救出しましたよ。まあ正確にはクロネコ仮面ことクロちゃんに行ってもらいましたけど。私はマリコーの真の目的がわかったのでそちらの対処を優先しました」

「と言うと?」

「これを回収しちゃいました」


 悪戯っぽく笑い、お嬢様が修道服の袖口から何かを出す。


 それは俺たちのいるテーブルのすぐ傍に現れた。


「……」


 て。


 いやいやいやいや。


 それ、持ってきたんですか?


 えっ、じゃあマリコーが必死こいてやってた大実験て……。


 俺はそのギロックと言うか人形と言うか、まあ人形でいいか……を見つめた。


 最初にマリコーのラボに転移した時に見つけたあの「サンジュウ」だ。


「マリコーのこだわりを感じる逸品ですね。小型ですが疑似ディメンションコアを内臓していますし、エレメンタルコアやエーテルコアとのリンクのアクセス効率も良い感じになっていますから身体強化や魔法・能力がかなり自在に使用可能のようです。難があるとしたらこれを起動させるための魔力量とエーテル含有量ですかねぇ。高性能にし過ぎたせいで思わぬ落とし穴があったといったところでしょうか」

「マリコーはそいつを自分の新しい身体にするつもりだったみたいですよ」

「あぁ、なるほど」


 お嬢様はサンジュウをしばし見つめ、はぁっとため息をついた。


「気持ちはわからなくもないですけど、しょうがない人ですねぇ」

「わかるんですか? お嬢様にも」

「案外、同じことを望む人は多いと思いますよ」


 吐き捨てるようにお嬢様は言った。


「若く綺麗なままで永遠に生き続けたい。まして常人には得られない力を持ったのならなおさらそう思うでしょう。特にマリコーは自分をおばさんと認めたくなかったようですし」

「……」


 わぁ。


 言われてみるとあのおばさんはおばさんって言われるのをすげぇー嫌がっていたな。


 ウサミミ少女の可愛さにめっちゃ嫉妬していたし。


 と、そこで俺は一つ質問が浮かんだ。


「マリコーは管理者なんですよね?」

「ええ」


 お嬢様がこくりとうなずいた。。


 俺は今さら感を抱きながらも訊いた。


「その……管理者って何なんですか?」

「ああ、そう言えばジェイはそういうことをほとんど知らないんですよねぇ」


 お嬢様が中空を見つめ、ため息混じりに言った。


「ただ、私自身も女神プログラムのルールに縛られていますのであんまり詳しいことを話す訳にもいかないんです」

「そもそもその女神プログラムとは何なんですか?」

「この世界の根幹となるシステムのようなものです。大本となるプログラムがあり枝葉のように細かなプログラムが存在しています。それは魔術法則だったり物理法則だったりしますし、生命の転生や消滅に関するものだったりもします。もちろん、精霊や別の世界からの魂の取り扱いに関するものもあったりしますよ」

「……えっと」


 な、何だか聞いちゃいけない類の話な気がしてきたぞ。


「マリコーはどうもプログラムの一部に介入したみたいですね。そのせいで天の声にも影響があったようですし、彼女の実験も必要以上に広範囲に作用したようです」

「ああ、あの薄い板とかですか?」


 その場にいなくても突撃決死隊の全滅を見せられたりしたものなぁ。


「マリコーの介入によるプログラムの影響は別の管理者が修正しますのでじきに元に戻るでしょう。私も後でチェックしますから影響は長引かないと思いますよ」

「別の管理者?」


 思わず頓狂な声になってしまった。


 え、他にも管理者っているの?



 **



「エミリア様」


 俺が他の管理者の存在を知って遠い目をしていると時空の精霊王リーエフが近づいてきた。


 細い目がさらに細くなっている。口も真一文字だ。


「そろそろ時間なので麿はお暇するでおじゃる。また何かあったらいつでも気軽に呼んでほしいでおじゃる」

「ああ、そうですね。ラテにはちゃんと言っておきましたから遠慮なく鍛えてあげてください。リーエフに教わりながらプログラムの修正をすれば覚えも早いでしょうし」

「むふふっ、麿も新人管理者への指導は楽しみで仕方ないでおじゃる。それと島にはぶるーはわいとやらがあるとファストが自慢しておったのでそちらも楽しみでおじゃる。麿も口の中を真っ青にしてみたいでおじゃる」

「あ、幾ら楽しみだからって全部飲もうとしたら駄目ですよ。島の皆さんは精霊王相手に飲み過ぎを注意したりできないんですからね。立場の強いリーエフがそのあたりをわかってあげないと」

「むふふっ、麿はファミマやウェンディとは違うので心配無用でおじゃる。では!」


 一礼するとふっとリーエフが消えた。


 お嬢様が見送るようにリーエフのいた場所を見つめながら微笑む。その笑顔も可愛い。どうしよう永久保存したい。


「……ジェイ」


 お嬢様が俺へと向いた。


「さっきリーエフと話した時に出た子が件の管理者です。今はちょっと会わせるタイミングではないので会わせられませんがその時が来たら必ず会えますから楽しみに待っていてくださいね。一応まだジェイの守備範囲だと思いますよ」

「……」


 あれ?


 俺の守備範囲って、お嬢様もしかして妙な勘違いしてね?


 これはきちんと訂正する必要があるのかも。


「あの、お嬢様。俺は別に……」

「ま、それはそれとして。ジェイにはプーウォルトの下に行ってもらいます」

「はい?」


 言いかけた言葉を遮られた上に突然の命令が下ってしまった。


 てか、プーウォルト?


 ええっと、どっかで聞いたような?


「ジェイはマジンガの腕輪をアップグレードしたじゃないですか。あれでジェイの身体もいろいろ改造されているんです。そのことは美少年やマリコーと戦っているからわかりますよね?」

「……」


 え、そっち?


 むしろ俺としては一時的にせよ第一級管理者になったことの方が身体への負担になったんじゃないかって不安だったんですけど。


 腕輪だって、魔神化の腕輪てのに変わっていたし。あれ絶対に負担がかかってるよね。


 マリコーもやばい代物だって言ってたし。


「ジェイにはもっと強くなってもらわないと困りますし、今後のことも思えばより多くの戦い方を身に付けてもらわなくてはならないでしょう。ああ、そうなるとプーウォルトだけでは足らないかもしれませんね」


 お嬢様は決心したように大きく首肯した。


「シーサイドダックにも協力してもらうことにしましょう。彼ならバーチャルファイトステージ……ではなくて仮想戦闘領域を作れますし。あ、リーエフからあれも借りるといいかもしれませんね」

「……」


 わぁ、またお嬢様があっち側に行きかけてるぞ。


 ただ、これ止めようとしてもなかなかうまくいかないんだよなぁ。


 俺がそう内心嘆息しているとお嬢様の傍に控えていたリアさん(分身体)が口を開いた。


「エミリア様、王都で動きがありました」

「あら、思ったより早いですね」

「どうやらメラニア妃がロンド枢機卿とともに国王に働きかけたようです。教会との合同で大規模の調査団が編成されるみたいですよ」


 ん?


 調査団?


 俺が疑問に思っているとお嬢様が教えてくれた。


「今回のことをきっかけに魔力吸いの大森林の中のラボをしらべる調査団が送られることになったんですよ。ワークエのせいで大々的にラボの存在が知られてしまいましたからねぇ」

「まあ、あれだけ派手にマリコーがやらかしてくれましたからね。それにしたって動きが速くないですか?」

「うーん、ラボの存在自体は二作目で明らかにされていましたからねぇ。三作目のファンディスクの方でも探索シナリオがありましたから」

「はい?」

「あ、こっちの話です。それよりジェイはマリコーから『ときめきファンタジスタ』のことをどの程度聞きました?」

「ええっと」


 その名称は記憶にあった。


 マリコーがやたら馬鹿にしていたからだ。ファンタジスタという単語はどうやらファンタジー用語とやらではないらしい。じゃあ何だという感じではあるが。


「そ、そう言えばその『ときめきファンタジスタ』によると魔王が必ず復活することになっている、とマリコーが言っていました。つまり、予言所の類ですか?」

「全く違いますが……ちょっと説明し難いですね。たぶんジェイには受け容れられないかもしれません」

「?」

「この世界はいわゆる神の想像の産物でしかないんです。私たちは運命(シナリオ)によって定められた道を進むしかなく、より良い道を進むには途中の分岐を正しく選ばなくてはなりません」


 お嬢様はそこで一拍置き、強い口調で続けた。


「ただ、どうあがいても変わらない運命(シナリオ)があります。ええ、物凄く腹立たしいことにそういうクソ運命(シナリオ)があるんです」

「お、お嬢様?」


 クソとか言っちゃったよこの人。


 つーか、めっちゃ怒ってるし。


 あ、あれ?


 なーんかめっさドス黒いオーラがお嬢様から立ち上ってね?


「そのクソ運命(シナリオ)によれば私は魔王の復活のせいで命を落とすことになっています」

「!」


 え。


 ちょい待って。


 それどゆこと?


 えっ、お嬢様死ぬの?


 いやいやいやいや。


 そんなの駄目でしょ。


 お嬢様が死ぬなんて世界の損失だよ。許されないことだよ。


 たとえ神が許しても俺は許さないよ。


 絶対に阻止するよ。


「私、自分の運命(シナリオ)をぶっ壊すことにしたんです。そうしないと私に未来はないので」

「お、俺も協力します。と言うか俺がお嬢様を守ります。魔王なんかに殺させません」

「ありがとう。その言葉が欲しかったんです」


 お嬢様がにこりとした。


 天の声が聞こえてくる。



『確認しました』


『ジェイ・ハミルトンに称号「誓いをせし者」が授与されました』

『以降、ジェイ・ハミルトンに(ピーッと雑音が入る)』

『なお、この情報は秘匿されます』



「……」


 あのー、伏せられた部分がすげぇ気になるんですけど。


 わぁ、めっちゃモヤモヤする。


 新しく称号を得て、それでこれからの俺に何かあるのか?


 ないのか?


 いや、何かあるからお知らせが入るんだよな。


 俺が若干パニクっているとお嬢様がそっと俺の頬に触れた。


 いつの間にか立ち上がってこちらに回り込んでるし。


 あ、ドス黒いオーラが消えてる。


「ジェイ」


 お嬢様の声が優しい。


「大丈夫ですか? ひょっとして魔神化の腕輪の影響を受けたりしてませんか? 体内の魔力に過剰な変動とかないですか?」


 頬から額、額から頬へとお嬢様の手が滑っていく。ちょいくすぐったい。


 ペタペタと俺の顔に触れまくってからお嬢様はうんとうなずいた。


「まだ腕輪の影響はなさそうですね。でも、万が一がありますから後でファストに診てもらいましょう」

「……」


 何だろう。


 心なしかお嬢様に誤魔化された気がする。


 ただ、何を誤魔化そうとしたのかがわからない。


 何だ?

 訊いてみた。

「ええっと、何か誤魔化そうとしていませんか?」

「私がジェイに何を誤魔化すと?」

「……」


 にっこりしながらそう返されてしまう。


 てか、お嬢様可愛い。


 マジ天使。


「まあ誤魔化す云々というのは脇に置くとして」


 お嬢様が一度言葉を切り。


「ジェイにマジンガの腕輪(L)を渡した時に付与魔法の練習ついでに作ったみたいなことを言ったじゃないですか」

「そう言えばそんなこと言ってましたね」

「あれ、嘘なんです。本当はあの時点でもっと凄い魔道具とか作ってました」

「え」


 何か聞いちゃいけないこと聞いちゃったよ。


 わぁ、どうしよう。


 いやどうしようもないんだろうけど。


 俺はゆっくりと息を吸って吐いてから質問した。


「た、たとえばどんな物を作ったんですか」

「ふふっ、それ聞いちゃいます?」

「……」


 お嬢様の天使スマイルがめっちゃ可愛い。


 やばい、俺もう死ぬかも。


 可愛過ぎて死にそう。


 と、そこに。


「もうっ、どういうことよっ! あたしもジェイとシュナのパーティーの一人なのよっ。それなのにあたしだけマリコーと戦えなかったなんておかしいでしょっ!」

「……」


 聞き覚えのある声に何故かどっと疲れが押し寄せてきた。


 イアナ嬢。


 お前までこっちに来たのかよ。


 わぁ、めんどいからもうちょい他所にいてくれないかなぁ。



 **



「ジェイ!」


 イアナ嬢が俺たちの下に現れたのとお嬢様がウサミミと白い仮面を装着し終えたのはほぼ同時だった。


 これ、バレたかな?


「あ、こんにちは」

「こんにちは。どうも、シスター仮面一号です」

「……」


 イアナ嬢、お嬢様、そして俺。


 あ、うん。


 お嬢様、イアナ嬢にも正体を明かさないんですね。


 シュナに隠していたからもしかして、なんて思ったんですが俺だけがお嬢様の秘密を知れたんですね。ひゃっほう♪


 ちょい小躍りしたいくらいです。やりませんけど。


 ちなみにサンジュウはイアナ嬢の怒声が聞こえた段階でお嬢様の修道服の袖口に仕舞われている。収納バンザイ。


 イアナ嬢がお嬢様に笑顔を向け、それから俺へとしかめ面を向けた。切り替え早っ。


「で、あんたマリコーを倒した後で何貰えたの?」

「倒したのは俺じゃないぞ」


 ラストアタックを決めたのはクソ王子ことカール王子である。


 残念ながら俺ではない。


 イアナ嬢はいつの間にか用意された椅子に座り、隙のない所作でお茶を淹れたリアさん(分身体)が差し出したカップに口をつけた。何気に優雅なのが腹立つな。


「これいいわね。何だかほっとするわ」

「こちらもどうぞ。緑茶に合いますよ」


 お嬢様に促され、イアナ嬢が羊羹を一切れ食べる。


 かっと目を見開いた。おいおい大袈裟だな。


 そして、当然のように消費されていく羊羹。


 菓子器が空になっても即座に羊羹を補充するリアさん(分身体)。つーか、メイド服のポケットから追加の羊羹を出すのはどうかと思う。


 まあ収納から出してるだけなんだろうけど。


 羊羹と緑茶のおかわりを十数回繰り返してからイアナ嬢はその手を止めた。


 お嬢様と見つめ合う。


「……あの」

「ふふっ、持ち帰りの分も用意しておきますね」

「ありがとうございます♪」

「……」


 すっげぇいい顔で返事しているが、おい。


 イアナ嬢、お前マジでどんだけ食うんだよ。


 ちょっとは遠慮しろ。


 お嬢様もこいつを甘やかすのは止めてください。


 あと、リアさん(分身体)。


「まだポケットの中にありますよ」とか小声で言ってくるのはどうなんですか。


 いやいや、追加しなくていいですから。本当マジでその分で止めましょう。


 こいつ、放っておくとまだまだ食いますよ。きっと延々と食べ続けますよ。


 せっかく手を止めたこのタイミングで終わらせた方が絶対にいいですよ。


 とか俺が思っているとイアナ嬢が睨んできた。


「で、あんたは何を貰ったの?」

「俺はマリコーを倒していないって言っただろ。人の話ちゃんと聞けよ」

「倒したのはあんたじゃなくてもその後で宝箱が出たんでしょ。あたし、そのこと知ってるのよ」

「……わぁ」


 めんどい。


「だって、あたしたちの方にも宝箱が出現したもの。あ、ラキアさんだけはなーんにも出なかったわ。皆だけずるいって凄く怒ってた」

「……」


 だろうね。


 でもきっとラキアは俺たちと別扱いになってるような気がする。宝箱が現れなかったのもそのせいだろう。


 どっちかと言うと精霊王とかと同じ括りだろうし。あいつ古代紫竜(エンシェントパープルドラゴン)だからね。


「イアナ嬢は何を貰ったんだ?」

「えっ、あたし?」

「マリコーの研究室で他のギロックや魔物と戦ったんだろ。つーか、ジュークたちは無事か?」

「み、皆無事よ」


 イアナ嬢の手が菓子器に伸びる。


 羊羹を一切れ取ると一口で片づけた。まだ食うんかい。


「ジュークちゃんもニジュウちゃんもへとへとになってるけどこれといった怪我はないわ。黒猫ちゃんもピンピンしてるし、むしろ途中離脱したクロネコ仮面さんより元気かも。もちろんポゥちゃんも無傷よ」

「そうか、」


 それは何よりだ。


「モスに迎えに行ってもらったんですよ」


 お嬢様。


 というか、精霊王にそんなことさせたんですか。


「クロちゃんにはニコルくんたちの救出に向かわせる都合もありましたからねぇ。ラキアさんには事情もあるでしょうしそう気軽に権限、じゃなくて能力を使えな……」

「ああ、だからクロネコ仮面さんは途中でいなくなったんですね。てっきり黒猫ちゃんに負けそうになったから逃げちゃったのかと思いました」


 イアナ嬢がなるほどといったふうにうなずいた。


 とにかく、全員無事ってことはよーくわかった。


 そして、モスによってイアナ嬢、ジューク、ニジュウ、黒猫、ポゥ、ラキアがラボから脱出できたようだ。


「で、話は戻るがイアナ嬢は何を貰ったんだ?」

「そ、そう言うあんたは何を貰ったのよ」

「……」

「……」


 俺もイアナ嬢も自分から教えようとはしなかった。


 しばし見つめ合う。


 イアナ嬢の顔が赤くなったが……これはあれか、俺がなかなか白状しないから怒ってるのか?


 そんなつまらないことで怒るなんて次代の聖女が聞いて呆れますなぁ。ぷぷっ。


 とか思ったら円盤が俺の脇を掠めた。おい。


「あ、ごめーん。ちょっと袖口が滑っちゃった」

「袖口が滑るかっ!」


 俺が語気を強めるとイアナ嬢の目が吊り上がった。


「あによ、そもそもジェイがあたしに意地悪して教えてくれないのがいけないんでしょっ!」

「だからって円盤使うか? そういうところだぞ!」

「そういうところって、どういうところよっ」

「わからないとは救いがないな」

「ぬあんですってぇ!」

「はっはっは。その顔、まるでオーガの雌だな」

「あらあら、お二人は仲良しさんですねぇ」

「……」

「……」


 剣呑な雰囲気になりかけたのをお嬢様のほんわかさが和らげていく。マジで天使だこの人。


 それとも、雰囲気を変えてしまうような何かを使っているのか?


 まさかな。


 仮にそうだとしても今の俺ならそれすらも看破してしまうはずだ。そのくらい今の俺は魔力に満ちている。


 だから、きっとお嬢様の生来のほんわかさがこの場の雰囲気を和らげたのだ。


 さすが俺のお嬢様。マジ天使!


 イアナ嬢にも見習って欲しいぞ。


 お嬢様が俺に訊いた。


「ジェイ、マリコー戦の後で出た宝箱には何がありました?」

「えっと、大金貨と魔道具です。何か神の器に貼るタイプでして」

「神の器に貼るタイプ?」


 おっと、お嬢様の頭に疑問符が浮かんだぞ。


 こてんと首を傾げるお嬢様可愛い。


 オーガの雌みたいなイアナ嬢が引き立て役になっているからいつもより数万倍可愛い。


 この可愛さなら魔王だってイチコロじゃね?


 イアナ嬢が口をわなわなとさせている。


「あ、あんた。あたしには散々もったいぶった癖にそんなあっさり……」

「ん? 何を言ってるんだ。お嬢……ゲフンゲフン、シスター仮面一号とお前とで態度が違うのは当然だろ?」

「イアナさんは何を貰えたんです?」

「あ、あたしは大金貨と詠唱倍速の指輪を手に入れました」


 言いながらイアナ嬢が中指に指輪を填めた右手を見せる。


 エメラルドの石に小さく術式を刻んだ指輪だった。リングはミスリル製だ。デザインはシンプルでこれだと魔道具店には並んでも宝飾品店には並ばないかもしれない。そのくらい宝飾品としての価値は低そうだ。


「あらあら素敵な指輪ですねぇ。しかも何だか実用的」

「試しにちょっと使ってみたらものすっごい速さで結界を張れました」

「それは良かったですねぇ」


 お嬢様が雑に返しながら指輪を観察している。


 あ、これはかなり興味を惹いたな。


「この術式は時間短縮と効率上昇の応用と魔力変換におけるエレメンタルコアとのリンクのアクセス速度を挙げる効果が得られるようになっていますねぇ。そこにグレゴリウス公式による複合型魔術理論が加えられているようですのでより速い魔法の発動が可能のようです」

「そ、そうなんですか」

「素晴らしいのはこの第二節から第五節の術式の簡略化ですね。これ、下手な人がやると二十節くらいかかるんですよ。そっちの方が素人向きと言いますか術式をきちんと発動させ易いんですよね。ただ、それだと余計な魔力を必要としてしまうだけでなく魔道具自体にも負担をかけてしまうんです。簡略化すればその分魔力を使わずに済む上に魔道具としての寿命も伸びるんですよ」

「へ、へぇ」

「あとそうですね、この石の部分によく見るとメルキオール加工が施されているんです。これ、扱える人って限られているんですよ。何せ滅亡したオルセアン帝国の……」

「……ジェイ、助けて」


 イアナ嬢が半泣きになっていた。


 まあ慣れない奴にはきついか。これ、慣れていてもきつい時があるからな。


「仕方の無い奴だなぁ」


 お嬢様……じゃなくてシスター仮面一号の有難い説明を最後まで聞け、と言いたいところだが俺もちょいこれはまずいと判断した。


 このままだとお嬢様とシスター仮面一号が同一人物だとバレてしまうかもしれない。説明が長くなるタイプはいない訳ではないとしてもキャラがあまりにも似ていると疑われてしまうこともあるだろう。


 でもこれ、どうやって止めよう。


 俺がそう考えを巡らせているとあの天の声が聞こえてきた。



『お知らせします』


『今回のワールドクエストの最終結果が出ましたので発表します』


『ワールドクエスト「魔力大喪失の危機を回避せよッ!」』


『最終結果 概ね達成(ワークエ達成率82%)』


『冒険者の皆様のご活躍により、一部の被害こそあったものの本ワールドクエストは概ねその目的を達成することができました』


『これより特に功績の高かった人物をランキング形式で発表します』



『第1位 カール・エスタ・デ・エーデルワイス(アルガーダ王国第一王子)』


『マリコー・ギロックにラストアタックを決めた功績は後世にも語り継がれるでしょう』


『第2位 勇者シュナ(アルガーダ王国Aランク冒険者)』


『マリコー・ギロックとの最終決戦に参加した者の一人です。マリコーの分身体を撃破したのもポイントが高いですね』


『第3位 次代の聖女イアナ・グランデ(アルガーダ王国Cランク冒険者)』


『最終決戦には参加していませんが四カ所の守護者(ガーディアン)を倒し増幅装置を回収した功績はとても大きいです』


『第4位 ニコル・マルソー(アルガーダ王国Aランク冒険者)』


『一カ所の守護者(ガーディアン)の撃破と増幅装置の完全破壊、そしてマリコーのラボ最深部への最速到達という素晴らしい功績を評します』


『第5位 ジョウ・ジョウジマ(所属不明)』


『ラボに囚われていた多くの命(人間だけでなく獣や魔物など)を解放してくれました。また本ワークエに参加した他の冒険者への治療行為など戦闘とは違う形での貢献もこの評価へと繋がっています』



 次々と名前が挙がっていく。


 ベスト5には入らなかったがジュークとニジュウの名もあった。まああいつらなら当然かもしれない。


 その一方でクロネコ仮面とウサミミ少女の名はなかった。


「まあ二人とも管理者側ですからね。敵を倒した報酬として宝箱をゲットできてもランキングには載りませんよねぇ」

「……はぁ」


 そういうことらしい。


 てか、今さらだけど確認したくなった。


「あの、おじょ……シスター仮面一号は管理者なんですか?」

「そうですよ♪」

「……」


 うわっ。


 肯定されちゃったよ。


 そうかなあって気はしたんだ。したんだけど、それでも……ちょい衝撃ががががが。


「え、えーと」


 イアナ嬢まで動揺していたよ。


 目を高速で白黒させてるよ。めっちゃパチパチしていて逆に見ているこっちは冷製になりそうだよ。


「つまりシスター仮面さんもマリコーと同類なんですか?」

「違います」

「よし、そこに直れ。これからじっくりたっぷりおじょ……シスター仮面一号の素晴らしさを叩き込みつつ誤解を解いてやる」


 イアナ嬢の発言にお嬢様が即答し俺はニヤリと笑いながら拳を握った。



 **



 イアナ嬢と共にジュークたちも白い空間に来ていた。


 お嬢様がワークエの負傷者たちの治療をしたりアルガーダ王国や諸外国の情報を掻き集めたりしたため数日間俺たちは白い空間に留まることになった。


 もちろん俺たちもただぼうっと時間の過ぎるのを待っていた訳ではない。


 俺とイアナ嬢は能力や回復魔法で治療を手伝たし、シュナは自主練をしつつ数時間おきに現れるウサミミ少女やクロネコ仮面と模擬戦をしている。


 たまにジュークとニジュウも参戦したが見た目のせいでシュナに本気で相手をしてもらえていない。まあ、シュナはまだあいつらの実年齢とかを知らないだろうしな。


 クロネコ仮面とウサミミ少女は割とちゃんと戦ってくれたが実力の差があるからかまともな勝負にはならなかった。なお、実力が上なのはクロネコ仮面とウサミミ少女の方である。お嬢様が仮面の仲間として選んだだけのことはあるってことだな。


 その二人を同時に相手にして楽々と勝ってしまう黒猫は一体何者なんだ?


 あれか、いわゆる世界のイレギュラー的存在とかか?


 親父の技をパクるのは止めて欲しいんだがなぁ。


 そんなことを考えながら俺は白い空間にぽつんと置かれているドアを眺めていた。


 片開きのドアは平民の家でもよく見られるようなごく普通の木製のドアである。使われている木材が普通でない可能性は大だがそこはスルーしよう。気にしたら負けだ。


 つーかこれ何?


 興味を示したジュークとニジュウがドアの周りを駆け回ったりドアを開け閉めしたりしているがこれといって変なことは起きていない。やっぱりただのドアか?


「ふうん、こんな物まであるのねぇ」


 俺の横にラキアが並んだ。


「素材はあれなのねん。でもって……ふむふむなるほど、これは大した物ねぇ。製作者はエミリアちゃんかしら?」


 なお、ラキアはお嬢様が管理者だと知っている。シスター仮面一号とかシスターラビットの正体であることもお嬢様から既に聞いていたのだとか。それもかなり以前に打ち明けられていたらしい。


 俺の知らないところで交流があったようでちょいもやっとするけど、うーん。


 ま、まあ、ラキアは味方に付けていた方が良いからね。いろいろチートだし。


「いやこれただのドアじゃないのか?」

「何言ってるのん。ただのドアがこんなところに置かれている訳ないでしょ。あなたなーんにもわかってないのねぇ」

「……」


 え。


 いやこれどう見ても普通のドアだよ?


 ほら、ニジュウがドア開けて出たり入ったりしてるけどただ単にドアを潜ってるだけだし。ドアの向こうはここと同じ白い空間だぞ。


 ほーら、ジュークがドアを回り込むとその姿が見えるじゃないか。


 おいおい、ラキアは何で俺を可哀想な子を見るような目で見ているんだ?


 お嬢様、それにシュナとイアナ嬢がこちらに近づいて来た。もちろんお嬢様はシスター仮面一号の格好だ。


 ん?


 ウサミミ少女とクロネコ仮面の姿がないな。


 ポゥはイアナ嬢が抱っこしている。黒猫は……あいつもいないがまあいいか。猫だし。


 ジュークとニジュウが俺の傍に駆け寄ったのを認めてからお嬢様は口を開いた。


「皆いますね。あ、ダニーは昨日からいませんので」


 お嬢様が何かを思い出したかのように短くため息をついた。


 ん?


 何だ?


 あの黒猫、何かやらかしたのか? それで追い出されたとか?


 しかし、俺の疑問の答えが出ることもなく(まあ、俺もわざわざ訊かないし)、お嬢様は話を進めた。


「ワークエの後処理的なことも大体終わりましたのでそろそろ次のことを始めたいと思います。この数日の間に皆さんに告げたように皆さんにはプーウォルトのところに行ってもらいますね」

「あーら、アタシはそんな話聞いてないわよぉ」


 ラキアがちょい意地悪そうに笑んだ。


「確かアタシにはノーゼアに向かって欲しいって言ってなかったかしらん? あっちで何か楽しいこと始めるんでしょ?」

「そうですね。ラキアさんには私と別行動を取ってもらいます」

「別行動?」


 俺にはそっちが初耳だ。


「おじょ……シスター仮面一号はラキアと何をするんです?」

「ふふっ、それは後のお楽しみです♪」

「……」


 な、何だろう。


 めっちゃ気になる。


 ニジュウが片手を上げた。


「それは何かの実験?」

「うーん、実験ではないですねぇ」


 お嬢様はにこやかに答えるが頬がちょい引きつっている。まあ、実験云々を言われるとどうしてもマリコーを連想してしまうからなぁ。ワークエがまだ終わったばかりだし。


「ジューク、ジェイと一緒」


 ジュークが俺のズボンを掴みながら宣言した。


 それを聞いたニジュウが慌てて俺のズボンを引っ張る。おい、ジュークに張り合うのはやめろ。


「ニジュウも! ニジュウもジェイと一緒!」

「あらあらジェイは小っちゃい子にモテモテですねぇ」

「あ、あたしは別にジェイがそういう趣味でも気にしないんだからねっ。ほ、本当にどうでもいいんだからねっ」

「……グランデ伯爵令嬢。それむしろ逆に気にしているって言っているようなものだよ」

「あんたは黙ってなさい」


 お嬢様が俺を茶化し、イアナ嬢が何やら顔を赤くした。


 シュナにつっこまれてさらに顔の赤みが濃くなる。人間ってあんなに顔が赤くなるんだな。熱でぶっ倒れるんじゃないか?


「ふふっ、そうやって楽しく過ごせるのも今のうちですからねぇ。プーウォルトのところに行ったらそれどころじゃなくなりますよぉ」

「……」


 え、何それ怖い。


 つーか、やっぱりプーウォルトって聞き覚えがあるんだけど思い出せないんだよなぁ。なんつーか記憶の肝心な部分に霞がかかっているような……。


 うーん、何でだろう?


「ジェイは一度彼に会っていますからね。ここは思い出せないまま再会して吃驚してもらいましょう。その方が楽しいでしょうし」


 お嬢様が何やら呟いたが、その声は小さ過ぎて俺にはよく聞こえない。


 楽しい、とか言ってるみたいな気もするんだがプーウォルトって楽しい奴なのか?


 その割には何だか行った先で大変な目に遭いそうな予感がするのだが。


 まあ、あくまでも予感だからな。


「大体シュナは勇者の力に目覚めたんでしょ。もうあたしたちとパーティー組んでないでもっと勇者に相応しい仲間を探したら?」

「え、酷っ。僕、二人がノーゼアに帰って来るのを待っていたんだよ。それなのに帰って来ないし。しかも二人のいない間に悪魔が現れるし」

「それ知ってる。あんた、悪魔討伐したんでしょ? 天の声が教えてくれたわ」

「グランデ伯爵令嬢だっていろいろ活躍していたよね。僕も天の声で聞いていたから」

「まあね♪ あたしだってちょっと本気を出したら凄いのよ。あんまり目立つと面倒だから普段は自重しているけど」

「へ、へぇ。自重しているんだ」


 シュナが苦笑している。


 というか、イアナ嬢。


 お前、どのあたりを自重しているんだ?


 俺にはお前から自重の「じ」の字も感じ取れないのだが。


 おっかしいなぁ、それともこういうのは常人にはわからないのかなぁ。お前地味に人間離れしているし。


 特に食欲とか。


 とか思っていたらイアナ嬢に睨まれた。え、何故わかるの?


 心読んでる?


「ジェイ、呆れ顔でおっかない聖女見てた」

「ニジュウもさすがにわかる。ジェイ、絶対怒られること考えてた」


 ギロックたちが俺を見上げながら指摘してきた。


 えっ、俺そんなにわかりやすい顔してた?


 あ、イアナ嬢が袖口から円盤チラ見させてる。危険危険。


「はいはい、それでは手早く転移させちゃいますからねぇ」


 お嬢様が声をかけてくるけど……あれ?


 俺はぽつんと置かれているドアを見る。


 いや、俺も自分で言ってて矛盾しているってわかるんだけど、あのドア使わないの?


 あーうん。


 ただのドアだって思うんだけどさ。ほら、ラキアも妙なこと言ってたし。ひょっとしたら、なんて思わなくもないじゃない。


 いや、ただのドアだとは思うよ。くどいようだけど。


 あれ?


 何気に転移させる系の魔道具でしたってオチじゃなかったの?


 俺がお嬢様の方に顔を向けるとめっちゃいい笑顔が見えたような気がした。実際は仮面で顔が隠れていたのに。


 お嬢様可愛い。


 めっちゃ天使!


 ……とかやってるうちに視界が切り替わった。


 マジであのドア関係なかったよ。


 あれか、目立つから集合場所に選んだだけか。


 そんなことを考えていたら野太い男の怒声が聞こえてきた。


「貴様らかっ、このデンジャラスな猫を本官の下に寄越したのはっ!」


 声の方に振り向くと腕組みしてこちらを睨む黄色い熊の仮面の大男と黒猫の首の後ろを掴んでぶらーんとさせた白いアヒル男がいた。

 

 

 


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