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権藤義政 二


三十名の死者を出した河口湖の悲惨なバス転落事故。

 鑑識の結果は、三十名全員、溺死で間違いないとのことだった。

 

 この出来事は全国に大々的に報じられ、事故原因の究明が急がれる。


 しかし、富士吉田署では同時に困った問題に直面していた。

 スーツの男である。未だに身元がわからない。


 車内の状況からして、バスの最前列に座っていた事になるが、

本来、松原高校野球部を送迎するための貸切バスに、どうしてこの男が乗っていたのか、

説明できるものも、男の身元がわかるものも何も無かった。


 名前がわからないので、署内ではこの男のことは『Mr Aさん』と名付けられた。


 2mの大男は、体重は八十キログラムと推定される。引き締まった体からは一切の体脂肪が取り除かれ、

専門的に筋肉が特化していると思慮されるが、果たしてどの専門の筋肉なのかは解剖医にもわからなかった。


 まず野球関係者ではない。その割には足や腰回りが細すぎる。

どちらかというと長距離走の選手が近いが、今度はその割には上半身が発達しすぎているそうだ。


 まず鑑識は虫歯の跡を探した。歯の治療跡があれば、手がかりにつながる可能性があるからだ。

しかし『Mr Aさん』の口内は健康そのもので、インプラントはおろか親知らずを抜いた跡すら見つからなかった。


 男のスーツはどうやらオーダーメイドのようで、どこのメーカーのものかすら判別がつかなかった。

革靴も同様である。

 

 さらに異常なのは、そのような『固い』格好でバスに乗っていたにも関わらず、男は何も身につけていなかったと言うことである。


 車内、バスの落ちた周辺を警察たちは隈無く探したが、男のものと思われるものがどうしても出てこない。

 財布も、電話も、名刺になるようなものも、鍵も、何も持たずにバスに乗っていた。


「バス会社はなんと言ってるんだ?」


「野球部関係者以外の人間をバスに乗せる予定は無いとのことでして……」


 当然といえば当然である。権藤はじめ、富士吉田の警察たちはまいっていた。


 具体的に、説明が面倒な事になるのだ。


 バス横転事故、死者三十名。うち一名身元不明。

 

 遺族にしたってこれでは素直に弔ってあげられない。


 結局『Mr Aさん』の情報は、マスコミにリークされ、ネット掲示板で都市伝説的な話題となった。



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